ぼくはかみさまep2
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話は前日の放課後にまで遡る。
まだ僕と白菊蓮華に一切の面識がなく、会話すらもしたことがなかった時。この時に起こした自分の行動を後悔してもしきれなかった。
放課後になり、生徒たちが帰宅をしたり部活動に勤しむ時間。松浦は野球部に行き、烏森と東雲は二人で帰って行った。
取り残された僕はすぐに帰るつもりだったが、やっているゲームのイベントが終了する時間なのを思い出したのだ。しかし、校内でスマホを使っていると最悪の場合教師に没収されてしまう可能性があった。下校時間のため大目に見てもらえるはずだが、ただでさえ成績の悪い僕はこれ以上成績を下げたくなかった。
「屋上行くか」
スマホを使う選択肢として浮かび上がったのは封鎖されている屋上。
防犯の都合上、屋上への入り口は厳重に鍵が掛けられ外に出ることはできない。僕が向かったのはその手前の踊り場だった。
優等生ばかりの進学校では帰宅後に習い事や塾等があるため居残りはしない。残っていても部活動に勤しむ生徒で、下校時刻に屋上付近に立ち寄る生徒などいるわけもない。予定がない時は僕たち四人の溜まり場になっていた。
三人はいなかったが、ゲームのイベントのためと屋上へと移動することにした。
「ん? 先客がいんのか?」
踊り場に上がるための階段へとたどり着いた僕は、壁の影に人影を見た。普段なら人がいるはずのない場所であり、一瞬だけ心霊現象を疑ったが、角度を変えて視線を上げれば学校指定の制服が見えた。
「うわ、女子かよ。どうすっかな」
自分にしか聞こえない声で独り言を呟く。
見知らぬ女子生徒と関わる煩わしさとゲームのイベントを頭の中で天秤にかけていた。僕の存在は学校でも空気のようなものであり、関わるとしても一瞬のみ。それに対してゲームのイベントは今後の進行に影響してしまう。天秤は数秒でゲームに傾き、僕は階段を登ることにした。
当然女子生徒がいる踊り場には向かわず、階段の中腹あたりに腰を下ろした。人が来なければ踊り場まで行かずともどこでもよかったのだ。上にいる女子生徒には少し迷惑をかけてしまうが、僕にとっては些細なこと。
「よしっ、始めるか」
制服のポケットからスマホを取り出してゲームを始める。始めの頃は踊り場にいる生徒のことが気になっていたが、ゲームに熱中する頃には存在も忘れていた。
上にいる生徒は僕に声をかけることもなく、各々の時間が流れていただろう。もしかしたら僕と同じように、教師からバレないように何かをしているのかもしれない。
一通りイベントが終わり、帰ろうとした時に僕はふと気がつく。
「もしかして僕がここにいたから帰れなかったんじゃ」
階段の中腹に座り込んでゲームをしていた僕。その存在が踊り場にいる女子生徒が帰宅できない状況を生み出していた可能性が浮上した。もしかしたら僕が気付いていないだけで、僕のことを確認していたかもしれない。ここでゲームをしていたこともバレていることになる。
その事実に気が付き、顔を見ずに謝罪の言葉を口にした。
「あー、なんか悪いな。帰りたくても帰れなかっただろ。僕はもう帰るから」
ぶっきらぼうにも思える言葉だったが、僕も恥ずかしかったのだ。女性との会話など家にいる母親のみで、クラスメイトとは事務的な会話しかしたことがない。烏森が女子っぽいお陰で多少の免疫は出来ているが、本物の女子を前にすると早口で声が上ずってしまう。
気持ち悪がられていないか心配になりながら口にした言葉に、踊り場から鈴の音のような声で返答があった。
「私に、話しかけてくれるんですか?」
姿を見せずに発せられた声は、壁から聞こえてきたのかと錯覚してしまう。女子生徒は姿を見せない。
「うん」
「私に話しかけていいんでしょうか」
不思議な言葉だと僕は思った。
私に話しかけてくれる、普段から無視をされているような口振り。この学校にいじめはないと思っていたが、自分のクラスしか知らない僕は学校全体のことは知らない。
他のクラスではいじめのようなものが行われている可能性があり、踊り場の女子生徒はいじめの対象となっている可能性が浮かぶ。
刺激をしないように慎重な言葉選びをして、会話を続けていく。
「君以外誰がいるんだ。僕は君の顔も見ていない。話をする以外コミュニケーションを取る手段はない」
「そう、ですよね。学校で普通に話しかけられるのが久しぶりすぎて動揺してしまいました」
「学校にいたら話さないなんてことはないでしょ。先生とか友達とか」
「友達はいません」
「君、いじめられてんの?」
言葉を口にした瞬間、僕は自分自身を殴り飛ばしたくなった。いじめられている可能性のある相手に対して「いじめられてんの?」と直接聞くことがどれほど失礼なことか考えずに発言してしまった。女子との会話で緊張して、話を途切れされてはならないと必死になった結果、言わなくてもいいことを言ってしまったのだ。
何かがあってからでは責任が取れないと、すぐに否定と謝罪の言葉を口にする。
「いや、悪い。言わなくていいことを言った。気分を悪くさせたらすまん」
壁の向こうからはすぐに声は返ってこなかった。怒らせてしまったかと思い、その場で数秒待つと僕の言葉への返答とは違う答えが聞こえてきた。
「いじめ、られているのかもしれません。いえ、いじめられています。言われてみたらそんな気がしてきました。私が声をかけても皆視線を逸らします。挨拶をしても返してくれません。放課後誘われた事など一度もありません」
「おう、そうか。大変だったな」
堰を切ったように話し始めた女子生徒は僕の言葉を待ち受けてしまった。聞いた内容によって、本人がいじめと判断してしまうあたり思い当たる節があり過ぎたのだろう。事実に気がついてしまったのか、言葉を紡ぎ続ける姿に僕は引いてしまった。
「神様に願ったこともあります。友達がほしいと。その願いは叶うことなく一年が経ち、学年が変わり、クラスが変わっても同じこと。神様は私の願いを叶えてはくれませんでした」
「神様……」
「神社に行って沢山お賽銭を入れました。何度も何度も。困った時の神頼みという言葉を信じて疑わずに。結果は現状をみるに明らかでしたが」
僕の相槌も聞かずに自分のことを話し続けている。終いには神頼みというスピリチュアルな行動も取っていると暴露してきた。今更になってヤバいやつに関わってしまったと後悔するが、僕は逃げ出すこともできなかった。女子と話すときに逃げ出す選択肢が浮かばなかったということもあるが、目の前の女子が怖かったというのも理由の一つだった。
一人で悩んでいる相手を見捨てて逃げてしまっては、何かの拍子で僕の正体がバレてしまった時に面倒事になるだろう。うまく話を切り上げて早く家に帰りたい。
「神様に願ったのは友達が欲しいってことか?」
「はい。友達というものを作りたいんです」
「あれだ。実は僕が神様なんだよ。神様自ら君と友達になるために時間がかかったんだ――なんて」
その時の僕は何を思ったのか自らを神様だと自称した。まともな神経を持っていれば、自称神様と発言する僕のことを嘲笑うだろう。冗談ということは言わずとも分かる内容なのだ。
僕も重苦しくなった雰囲気を一蹴するつもりで言っただけであり、大した理由はなかった。
相手が普通の人ならば気にも留めない言葉である。
「神様? 貴方が神様なんですか?」
踊り場から人の動く音が鳴る。
僕が上へと目を向けると、壁の裏から四足歩行の動物のように、ゆっくりと顔を出す女子生徒の姿をとらえた。
「白菊……蓮華?」
姿を現したのは同じクラスにいる才色兼備の白菊蓮華であった。その場所に存在するなど微塵も考えてはいなかった人。僕が学校生活を送る上で関わることなどないと思っていた天才がそこにいた。
「ああ……。名乗ってもいないのに私の名前を知っているなんて。貴方はやっぱり神様なんですね」




