第7話 虎吉、横田母に号泣 (強い人の言葉ほど、胸に刺さる)
映画『栄光のバックホーム』を10回観終えた翌日。
虎吉(51)は工場の休憩室で、横田慎太郎の本を読み返していた。
ページの端は折れ、涙の跡がにじんでいる。
そこへ若手の山根が入ってきた。
「社長、また泣いてるんすか」
虎吉は鼻をすすりながら言う。
「泣くわ。
横田の母ちゃんの言葉、読んだら泣くに決まっとるやろ……」
山根は苦笑いした。
「社長、どの言葉ですか」
虎吉は本を胸に抱え、震える声で言った。
「“慎太郎はね、最後まで前を向いて生きたんです。
だから私も前を向いて生きます”……
これや……
これ読んだら、ワシもうアカン……」
山根
「社長……それは確かに泣くやつですね」
虎吉は涙を拭きながら続ける。
「横田の母ちゃんはな……
息子を失っても、前を向いて生きるって言うとるんや。
ワシなんか、阪神が負けただけで一日落ち込んどるのに……
情けないわ……」
山根は少し驚いた顔をした。
「社長、珍しく自分を反省してる……」
虎吉は机に突っ伏し、声を震わせた。
「横田の母ちゃんの強さはな……
“親の愛”そのものや。
あの言葉聞いたら、ワシも頑張らなアカンって思うんや……
阪神のためとかやない。
家族のためにや……」
その時、休憩室のドアが開いた。
妻・美津子が弁当を持って入ってきた。
「アンタ、また泣いてんの?」
虎吉は涙でぐしゃぐしゃの顔を上げた。
「美津子……
横田の母ちゃんの言葉、読んだらな……
ワシ、もう胸がいっぱいで……」
美津子は虎吉の隣に座り、静かに言った。
「横田さんのお母さんは強い人や。
でもアンタも、家族のために頑張ってるやん。
泣いてもええけど、前向いて生きなあかんよ」
虎吉はさらに泣いた。
「美津子……
お前、横田の母ちゃんみたいや……」
美津子
「いや、違うわ」
山根
「社長、落ち着いてください」
虎吉は涙を拭き、深呼吸した。
「よし……
ワシも前向いて生きるで。
横田の母ちゃんに恥じんようにな……
今日も仕事、全力でやるわ!」
山根
「社長、今日は泣きすぎて目が腫れてますよ」
虎吉
「腫れとる方が気合入るんや!」
美津子
「いや、視界悪なるだけやろ」
虎吉は笑った。
「まあええ。
横田の母ちゃんの言葉があれば、ワシは何回でも立ち上がれる。
阪神も、家族も、工場も……
全部、大事にして生きていくで」
その姿は、いつもの阪神バカではなく、
どこか誇らしく、そして少しだけ大人に見えた。




