第4話 虎吉、仕事頑張ってる (阪神のために働く男)
WBCで日本が負けた翌日。
虎吉(51)は珍しく朝から静かだった。
妻・美津子が心配して声をかける。
「アンタ……落ち込んでるん?」
虎吉はゆっくり顔を上げた。
「落ち込んでへん。
ワシは今日、仕事で結果出すんや」
「なんで急にスイッチ入っとんの」
虎吉は胸を張る。
「テルと翔太が世界で戦っとるんや。
ワシも“自分の甲子園”で戦わなアカンやろ」
美津子は思わず笑った。
「アンタの甲子園って、印刷工場やろ」
「せや。ここがワシのバックスクリーンや」
工場に到着した虎吉、やる気が異常
従業員たちは驚いた。
「社長、今日は早いっすね」
「なんかオーラ出てますよ」
虎吉は作業着の袖をまくり、宣言した。
「今日のワシは違うで。
阪神が負けた分、ワシが勝つんや」
若手の山根が小声で言う。
「社長、意味わからんけど……まあ頑張ってください」
虎吉はフォークリフトに乗り、
紙の束を運び、
印刷機の調整をし、
取引先に電話をかけ、
見積もりを作り、
昼飯も食わずに働き続けた。
従業員がざわつく。
「社長が……仕事してる……」
「いや、普段もしてるけど……今日は量が違う」
「なんか“阪神の負け”をエネルギーに変えてる感じやな」
取引先との電話も絶好調
虎吉
「はい山下印刷です!
納期?今日中にやります!
阪神の若虎みたいにスピード勝負でいきます!」
取引先
「え、ええ……お願いします……」
山根
「社長、取引先に阪神の例え使うのやめてください」
虎吉
「阪神は世界共通語や」
「いや違います」
夕方、工場が“奇跡の仕上がり”に
虎吉の異常な集中力のおかげで、
通常なら二日かかる仕事が一日で終わった。
従業員
「社長……今日の仕事量、どうしたんですか」
虎吉は汗を拭きながら言う。
「テルと翔太がな……
世界で戦っとるんや。
ワシも負けてられへんやろ」
山根
「社長、阪神関係ない仕事ですよ」
虎吉
「心はいつも阪神や」
帰宅後、家族の反応
美津子
「アンタ、今日はめっちゃ働いたらしいやん」
虎吉
「そらそうよ。
阪神が負けた時こそ、ワシが頑張らなアカン」
遥香
「パパ……負けたんは阪神ちゃうで。」
虎吉は反論。
「テルと翔太と坂本が出てれば阪神やんけ。
ワシは阪神の男やからな」
美津子
「いや、ただの印刷屋の社長やで」
虎吉
「心は阪神の四番や」
遥香
「パパ、それは言いすぎ」
虎吉は笑った。
「まあええ。
明日も頑張るで。
阪神のために、家族のために、工場のために」
美津子
「順番逆やろ」
虎吉
「……せやな」
こうして虎吉は、
阪神の負けをバネに、
珍しく仕事に燃えた一日を終えた。




