第28話 遥香の疑問
虎吉は阪神の試合の録画を見ながら、
「中野の守備は芸術や……」としみじみしている。
遥香はふと、母の横顔を見て思った。
遥香
「……なあママ。
ずっと気になってたんやけどさ」
美津子
「ん? どうしたん?」
遥香
「ママって、めっちゃ美人やん?」
美津子
「急に何言うのよ。照れるわ」
遥香
「いや、ほんまに綺麗やのに……
なんでパパと結婚したん?」
虎吉
「おい!!
なんで“なんで”やねん!!
ワシはここにおるぞ!!」
遥香
「いや悪気はないけど……
パパ、野球経験ゼロでサッカー部やったんやろ?
ママ、もっと選択肢あったやん?」
虎吉
「サッカー部を軽んじるな!!
ワシはフォワードやったんやぞ!!」
美津子
「声だけはフォワードやったね」
虎吉
「そこだけ強調すな!!」
美津子の静かな告白
美津子は麦茶を一口飲んで、
少し照れたように笑った。
美津子
「……虎吉ってね、昔はイケメンやったのよ」
遥香
「えっ!?
パパが!?
ほんまに!?」
虎吉
「なんで“ほんまに”を二回言うねん!!」
美津子
「高校の頃はサッカー部で、
日焼けしてて、
笑うとえくぼができてね。
それが可愛かったのよ」
遥香
「えくぼ……?
今はどこ行ったん?」
虎吉
「今は“笑いジワ”に進化したんや!!」
美津子
「あとね、
サッカー部のくせに、
練習終わったら毎日阪神の試合見てて。
その姿がね……
なんか一生懸命で、可愛かったのよ」
虎吉
「美津子……
そんなこと言われたらワシ……
サッカー部の頃に戻りたなるやん……」
遥香
「パパ、今戻ったら膝壊すで」
サッカー部の虎吉と、阪神ファンの虎吉
遥香
「でもママ、サッカー部の人と結婚するって、
なんか意外やな」
美津子
「うちは“野球経験がある人”が好きなんやなくて、
“野球を楽しんでる人”が好きやったのよ」
虎吉
「せや!!
ワシはプレーはできへんけど、
語る情熱は誰にも負けへん!!」
遥香
「それは認める。
うるさいけど」
美津子
「虎吉はね、
阪神の話するとき、
ほんまに嬉しそうな顔するの。
その顔が好きやったのよ」
虎吉
「美津子……
ワシ、今日めっちゃ褒められてる……
なんか怖い……」
遥香
「パパ、幸せすぎて震えてるやん」
美津子
「結婚ってね、
顔よりも“話してて楽しいか”が大事なのよ。
虎吉は……
まあ、うるさいけど、楽しいからね」
虎吉
「美津子……
それは最高の褒め言葉や……」
遥香
「うん、なんか……
いい夫婦やなって思った」
虎吉
「せやろ!!
ワシはサッカー部出身の阪神ファンや!!
異端やけど、誇りや!!」
美津子
「はいはい、異端でもええから早くお風呂入り」




