第22話 母、美津子の“本当の推し”
― 阪神ファンだけど、心の中の1位は門田 ―
阪神が大逆転した翌日の夜。
虎吉はスポーツ新聞を床に広げ、
遥香は中野のプレー動画を見てニヤニヤしている。
そんな中、美津子がぽつりと言った。
美津子
「……実はな、うち……
阪神ファンやけど、
一番好きな選手は阪神の選手ちゃうかったんよ」
虎吉
「えっ!?
ま、まさか巨人……?」
美津子
「違うわ。
南海ホークスの門田博光さん や」
遥香
「門田……?
あの“鉄人”って呼ばれてた人?」
美津子
「そう、その門田さん」
虎吉は新聞を落とした。
虎吉
「門田ァァァァァ!?
なんでや!?
なんで阪神ファンやのに門田が1位なんや!?」
美津子
「だって……
あの人、見た目は普通のおじさんやのに、
打ったらめちゃくちゃ飛ばすんやもん。
なんか……胸がスカッとしたんよ」
遥香
「ママ、そういうの好きそう」
美津子
「せやろ?
阪神は好きやったけど、
“心の中の1位”はずっと門田さんやった」
虎吉
「……なんか……
めっちゃわかるわ……」
遥香
「パパ、納得するん?」
虎吉
「する!!
門田は別格や!!
阪神ファンでも門田は好きになる!!
あの人は“野球のロマン”や!!」
美津子
「アンタ、急に南海ファンみたいになってるで」
虎吉
「門田はな、40歳で44本打ったんや!!
怪我しても戻ってきて、
太ってても走らんでも、
打球だけは誰より飛ばすんや!!
あれはもう……芸術や!!」
遥香
「パパ、語彙力どこ行ったん」
虎吉
「門田の前では語彙力なんかいらん!!
魂で語るんや!!」
■ 美津子の“南海時代”の思い出
美津子
「南海の大阪球場はね……
古かったけど、温かい球場やった。
門田さんが打席に立つと、
お客さんがみんな静かに見守って、
打った瞬間だけ“ドンッ”て湧くんよ」
遥香
「阪神とは全然違うんやな」
美津子
「そうやね。
阪神は“騒いで応援する”やろ?
南海は“見守る応援”って感じやった」
虎吉
「……ええな、それ……
なんか渋いわ……
美津子、センスええわ……」
美津子
「褒めてるんかそれ」
■ そして今は阪神ファン
遥香
「でも、なんで阪神ファンになったん?」
美津子
「そら……
パパ(虎吉)と小学生から一緒なんやから。」
虎吉
「……美津子……
それは……
阪神ファンにとって最高の愛の告白や……」
美津子
「言ってへんわ」
遥香
「でもママ……
門田さんの話してる時、めっちゃ嬉しそうやった」
美津子
「そらそうよ。
初めて“野球って楽しい”って思わせてくれた人やからね」
虎吉
「……わかる……
ワシにとってのバースみたいなもんやな……」
遥香
「パパ、それはそれで重い」




