第19話 遥香、推し選手ができてしまう
― その名前は、中野拓夢(背番号7) ―
甲子園での初観戦から数日。
大学の帰り道、遥香はふとスマホを開いた。
そこに表示されたのは、
**「中野拓夢、今日もマルチ安打」**
という記事。
遥香
「……あ、この人……」
あの日、甲子園で見た背番号 **7**。
軽やかに守り、
迷いなく走り、
打席では静かに集中していた選手。
遥香
「背番号……7番、やったよな……」
気づけば、その名前を検索していた。
家に帰ると、虎吉が絶叫していた
虎吉
「中野ォォォォォ!!
今日も打ったぁぁぁ!!
背番号7番になってから、さらにキレ増しとる!!
今年の中野は“覚醒中野”や!!」
美津子
「アンタ、毎年覚醒してる言うてるやん」
虎吉
「毎年覚醒して、今年は“もっと覚醒”なんや!!」
遥香は、そんな父の横でそっと座り、
テレビのハイライトを見た。
中野の守備が光る
アナウンサー
「セカンド中野、横っ飛び!
そのまま一塁へ!!
アウト!!」
遥香
「……すご……」
虎吉
「やろ!?
中野はな、守備の天才なんや!!
背番号7番になってから、動きがさらにキレッキレや!!
あの一歩目の速さは芸術や!!」
遥香
「……うん。
なんか、わかる気がする」
虎吉
「え?」
遥香
「この人……好きかも。
プレーが、なんか……綺麗」
虎吉
「…………」
虎吉は固まった。
美津子
「アンタ、娘に“推し”ができたんやで。
喜びなさいよ」
虎吉
「う、うおおおおおおおおおおおおおお!!
遥香に推しができたぁぁぁぁ!!
しかも阪神の選手!!
しかも中野!!
しかも背番号7番!!
最高やぁぁぁぁ!!」
遥香
「パパ、落ち着いて。
まだ“推し”ってほどじゃ……」
虎吉
「いや推しや!!
今の言い方は完全に推しや!!
ワシにはわかる!!
阪神ファンの血が流れ始めとる!!」
美津子
「アンタの血やろそれ」
遥香の胸の中
その夜、遥香は自分の部屋で、
中野拓夢のプレー集をこっそり見ていた。
背番号7が、
芝の上を軽やかに駆ける。
無駄のないグラブさばき。
一塁へ伸びる美しい送球。
走塁のスピード。
そして、笑った時の柔らかい表情。
遥香
「……なんか、いいな……」
気づけば、
中野の名前を検索する指が止まらなかった。
遥香
「……これって、やっぱり……」
胸の奥が、少しだけ熱くなる。
遥香
「……推し、なんかな……」
その言葉を口にした瞬間、
自分でも驚くほど、
ほんの少しだけ嬉しくなった。




