第18話 遥香、初めての甲子園で感じる“阪神の空気”
―母ばらす。そして ここは、ただの球場じゃなかった ―
日曜日の午後。
遥香は、少し緊張した顔で甲子園駅の改札を出た。
目の前に広がるのは、
黄色と黒のユニフォームを着た人々の波。
老若男女、家族連れ、カップル、友達同士――
みんな笑っている。
遥香
「……すご……」
美津子
「でしょ?
ここは“阪神ファンの街”やから」
虎吉はすでにテンションMAXで、
駅から球場までの道をスキップしそうな勢いだった。
虎吉
「遥香!あれ見てみ!
あれが甲子園や!!
世界一の球場や!!」
遥香
「パパ、落ち着いて」
球場に入った瞬間
遥香がスタンドに足を踏み入れた瞬間――
胸の奥が、ふっと熱くなった。
視界いっぱいに広がる緑の芝。
外野席の黄色い波。
風に揺れるジェット風船。
そして、どこからともなく聞こえる太鼓とトランペット。
遥香
「……なんか……すごい……」
美津子
「でしょ?
テレビと全然違うやろ」
虎吉
「ここはな、“生きてる球場”なんや!!
阪神ファンの息遣いが聞こえるやろ!!」
遥香
「うん……なんか……わかる気がする」
試合開始
アナウンサー
「プレイボール!」
外野席から一斉に応援歌が響く。
♪かっとばせー ちかもとー!
遥香
「うわ……すご……
こんなに声そろうんや……」
虎吉
「これが阪神ファンの“呼吸”や!!」
遥香は笑った。
でも、その胸は少し震えていた。
森下の打球がライトへ飛ぶ
テレビでは何度も見た森下翔太。
その打球が、目の前のライトスタンドへ向かって飛んでいく。
遥香
「……入る……? 入る……?」
虎吉
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
スタンド
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
ホームラン。
ライトスタンドが揺れた。
遥香は思わず立ち上がっていた。
遥香
「すご……!
ほんまに入った……!」
虎吉
「森下はな!!
未来の4番や!!
いやもう今の4番や!!」
美津子
「はいはい、落ち着いて」
遥香は、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。
遥香の心に芽生えたもの
試合が進むにつれ、
遥香は気づいた。
阪神ファンは、
ただ野球を見ているんじゃない。
選手の一球一球に、
自分の人生を重ねている。
隣の席のおじさんは、
初対面なのに遥香に話しかけてくる。
「お嬢ちゃん、初めてか?
阪神はな、しんどい時ほど応援したくなるんやで」
その言葉に、
遥香はふっと笑った。
遥香
「……なんか、わかる気がします」
試合後
帰り道。
甲子園の外は、勝利の余韻で明るかった。
虎吉
「どうやった遥香!!
甲子園は!!」
遥香は少し照れながら言った。
「……また来てもええかも」
虎吉
「うおおおおおおおおおおおおおお!!
遥香が阪神ファンになったぁぁぁぁぁ!!」
美津子
「まだ“ファン”とは言ってへんやろ」
遥香
「でも……
応援したくなる気持ちは、ちょっとわかった」
虎吉は涙目で言った。
「それで十分や……
それが阪神ファンの始まりや……」
遥香は笑った。
その笑顔は、
甲子園のライトスタンドの光みたいに眩しかった。




