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女神の箱庭、堕ちた魔神  作者: 女又心
第二章 来訪者たち

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穏健派と過激派

「ちなみに」


 タイミング的にちょうどよかったので、テッドは自らの境遇について、ここで明かすことにした。


「僕は、この成人の儀で魔人の力を得られなかった、里始まって以来の無能力者でした。長老の息子として将来を嘱望されていたのに、魔力が発現しない前代未聞の無能者だと発覚した僕は、周囲の白眼視に耐え切れず、()()()()()()結界の綻びを抜けてハークサムから逃げ出したんです」


「…………」


 チェスカの無言の視線を感じつつ、テッドはファクトらを順に振り返る。


「後は、衛士隊のみんなも知っての通りです。命からがらルクレクレイトに辿り着き、行き倒れていたところをウィナに拾われ、以来彼女ら親子の世話になり……その縁でフェイル先輩と出会って衛士隊の存在を知った僕は、先輩の後を追うように入隊を志願しました。お世話になった人たちに恩返しをすべく、そして何より、いざという時に、大切なものを護れるようになるために」


 全てを話し終えたテッドは、最敬礼で謝意を示す。


「僕からは以上です。なお、無用な混乱を避けるためとはいえ、これまでハークサム出身であることを黙っていたことは謝ります。他意はありません」


 フェイルとジャスティーナは顔を見合わせ、苦笑する。


「……ま、俺が同じ立場でも、そんな秘密、迂闊に言い出せやしなかったと思うぜ?」


「ていうか、きっと誰も本気にしなかったでしょうね。わたし自身、こうして実際にハークサムからやってきた皆さんがここにいるからこそ、今の話を地続きの問題として何とか捉えられている気がするし」


「つまりは3対0、咎める者は誰もなし、ということか……これも、君の日頃の行いの賜物だな、レイナルク」


 ファクトからもお墨付きを得られ、テッドはほっと胸を撫で下ろす。いつかは打ち明けようと思っていた懸案事項とはいえ、何の心構えもなくカミングアウトの場に臨むことになろうとは夢にも思っていなかった。


 テッドの処遇について思いの外円満な解決を見たこともあり、それまでハークサム一行の間に漂っていた緊張感が若干和らいだのを、その場にいる誰もが肌で感じ取っていた。


 この流れに乗じるように、チェスカは話を戻す。


「この問題は最初、三年前の成人の儀においてテッドにのみ起きた異例中の異例であり、当時は彼自身が異分子として扱われるのもやむ無しといった風潮でした。同じ年、彼のすぐ後に儀式を受けたわたしが、特に問題なく魔人の力を得ることに成功していたのも大きかったと思います。――ところが」


「翌年以降も同様の事例が発生した、と」


 先読みしたジャスティーナに、チェスカは重々しく首を縦に振る。


「一昨年、そして去年と、魔力が発現しない者が立て続けに現れ、今年に至っては、儀式を受けた者の全てが無能力者であると結論付けられました。この事実は、わたしたちハークサムの民のメンタリティに多大な影響を与えており、特に今後の在り方を巡っては、いつしか二つの派閥に分かれて衝突する状況となってしまっています」


「あんたたちがここに来た話の流れから察するに、力を捨て外界と交わろうと考える共存派と、魔人の力に固執する保守派、もしくは過激派といったところか」


 フェイルの当て(ずい)量を、チェスカは「概ねその通りです」と認める。


「冒頭でもお話しした通り、わたしたち穏健派は、一連の件を魔神の封印に魔人が不要になったものと捉え、力を捨て外の世界との共存を図ろうと考える一派です。これには過激派の迫害から逃れたい者たちも含まれており、その証拠に、ここにいる移民希望者の大半が、過去に無能力者と判断された若者や、来年以降成人の儀を受ける予定の子ども、そして、その親や保護者といった者たちで構成されています。今となっては、亡命と言い換えた方が適切かもしれませんが」


「そうか、それで……」


 第一(ファースト)印象(インプレッション)の違和感に合点がいった様子でファクトが呻く。


 チェスカの話は続く。


「対する過激派は、魔力を有する魔人を選ばれた優性種だと考える急進的な若い世代が中心となって集まった一団で、その数は年々増えつつあります。彼らは魔力喪失の大本の要因が、既に魔神の魂が何らかの要因により魂樹にはないためだと推察しており、禁足地を離れた魔神の魂を早急に取り戻すことを口実に、外界への進出の必要性を声高に喧伝しています。その目的のためには力の誇示や外界への侵略行為も(いと)わず、また、魔神の魂を求めるのも、今までのように封印を守護するためではなく、自分たちの勢力基盤として有効利用するためであるなど、その危険思想は最早看過できないものとなってきています」


「僕が出てった後に、まさかそんなことになってたなんて……」


 絶句するテッドに、チェスカも陰鬱な表情で俯く。


「今は、お義父さん(長老)が彼らの暴走を何とか食い止めてるけど、それもいつまで持つか……」


「過激派の首謀者は、やっぱり……?」


「ええ。あなたの想像している通り、あのヒューリックよ」


「だよな……それしか考えられない」


 そう言って頭を抱え出すテッドを横目に、チェスカは本題のまとめに移る。


「今回、私が長老から課せられた使命は大きく分けて二つあります。一つは、先遣隊として少人数の移民団を率い、外界の共同体と受け入れについての交渉を進め、その可否を判断すること。もう一つは、過激派に先んじて外界の調査を行い、魔神の魂の流出を裏付けるような根拠の片鱗の有無を確かめることです。皆さんには、前者について相談に乗っていただけると大変助かります。後者については、わたしが独自に調査を進める予定なので、皆さんにご迷惑は一切おかけしないつもりです」

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