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女神の箱庭、堕ちた魔神  作者: 女又心
終章 反撃の狼煙

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悪党の末路

「……うるせえよ。黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって」


 感情を押し殺したような低い声音で呟くと、ヒューリックは足元の機剣を器用に蹴り上げる。自身の胸の高さまで跳ね上がったそれを、彼は振り上げた右手でしっかと掴んだ。


「面白くねえ……揃いも揃って陰茎の苛立つ連中だよ。お前も――魔神(まがみ)もなぁッ!」


 その一声で決戦の火蓋は切られたらしく、ヒューリックの姿勢が静から動へと瞬時に移り変わる。


 身を(かが)めながら、一呼吸でテッドとの間合いを詰め、強烈な横薙ぎの斬撃をヒューリックは見舞う。


 迫り来る鋭い一撃を、テッドは手にした刀剣で軌道を逸らしつつ、体捌きすることで難なくいなした。


「ちぃっ! テッドの分際で、お高く止まってんじゃねえぞ!」


「そんなつもり毛頭ないよ」


 口撃も軽く受け流され、更に不機嫌そうに顔を歪めるヒューリック。続け様に下段蹴り、後ろ回し蹴り、飛び蹴りの三連撃を繰り出すも、テッドはその悉くを冷静に対処し、クリーンヒットを免れる。


 その後もヒューリックは、唾を吐きかけたり砂を巻き上げるなど様々な小細工を弄するものの、テッドに決定打を与えることは最後まで出来なかった。


「はあ……はあ……はあ……何でだ、畜生! どうしてあいつに届かない……!?」


「これが、今の僕の実力だよ、ヒューリック」


 それまで守りに徹していたテッドは、ここに来て初めて両手持ちの攻撃態勢へと移行する。


「年齢差も、体格差も、魔力の有無も関係ない。この二年間、訓練と実戦を積み重ねて鍛えてきた、正真正銘僕の底力だ。魔力を過信するあまり、それ以外の能力向上を怠っていただろうお前が、聖女に魔力を封じられた今の状況で僕に勝てるはずもなかったんだ」


「……だから、上から目線で語ってんじゃねえよ、この思い上がりがッ!」


 相も変わらずヒューリックは感情任せに刃を振るう。


 苦し紛れの彼の狂撃を、しかしテッドは相手の剣身に自らのそれを上手く絡め、上方に跳ね上げることで敵の手から武器を奪い取る。


「……あ?」


「思い上がってるのは僕じゃない。お前の方だよ、ヒューリック」


 透かさず空いた懐に肉薄したテッドは、そのまま流れるような動きでヒューリックの心臓に剣を突き立てた。


 音もなく、真っ直ぐに。


「が……あ……ッ!?」


 驚愕に目を剥くヒューリック。少し離れた場所で、彼が手放した機剣が回転しながら地面に突き刺さる音がかすかに聞こえた。


「……く……そ……が……」


 今()(きわ)に恨みがましい憎まれ口を残し、ヒューリックは事切れる。


 反乱を企て、既存社会の転覆を目論んだ男の、呆気ない幕切れだった。


 力が抜け膝から崩れ落ちてきた、自分よりもわずかに大きい体躯を何とか受け止め、テッドは剣を引き抜きながらヒューリックの亡骸を地べたに横たえる。


「一時はどうなることかと思ったけど……」


 固唾を呑んで勝負を見守っていたチェスカが、心の底から安堵した様子で相好を崩す。幼少の頃から幼馴染みがガキ大将に虐められる光景を何度も見てきた彼女にとって、テッドがヒューリックに打ち勝つ未来(ビジョン)は思いの外想像し難いものだったのかもしれない。


 回収した機剣を手渡しながら、ララも労いの言葉をかけてくれる。


「お疲れ様でした、テッドさん」


「ありがとう、ララさん。――ちょっと待ってね。今向こう(聖都)の状況を確認するから」


 そう言ってテッドは、戦闘中は交信を断っていたインカムの一時機能制限(ロック)を解除し、現地にいるフェイルに連絡を取る。


『――終わったか?』


「ええ、何とか。そっちはどんな感じです?」


『暴君堕つ。女王様と王女様も無事救出に成功。万事滞りなしだ』


 テッドは今聞いた快報を端的に親指を立てる(サムズ)ジェスチャー(アップ)でララに示す。それを見たララの表情がぱあっと華やぐ。


 手短に情報交換を済ませ、テッドが通信を終了すると、隣に立つチェスカがしんみりと呟くのが聞こえた。


「これから、この世界は色々と変わっていくのね……」


「いや、違うよチェスカ」


「え?」


「待っているだけじゃ、きっと世界は何も変わらない。僕たちの手で、変えていかなければならないんだ」





 かくして、移民団の来訪から始まった一連のハークサム事変はひとまずの終息を見ることとなった。


 形式上、捕らえた過激派残党にも等しく状況説明がなされたものの、ヒューリックの選民思想に染まった彼らの中に心を入れ替える者は皆無だったため、結局全員一律にチェスカが魔力を封じた上、重犯罪者として投獄に処されることが決定した。


 運よく生き残った移民団の孤児たちは、これから何かと忙しくなるチェスカに代わってウィナが身元引受人を申し出てくれることになり、子どもたちもそれを強く望んでいた。


 そうしたハークサムに纏わる変事以上に世間に衝撃を与えたのが、時を同じくして起こった無血革命による聖都の王政廃止だった。


 ルクレクレイトの衛士隊『剣の始終』主導で行われたこのクーデターにより、オベディエン家当主カトライアの身柄は拘束され、彼女の傀儡同然だった女王と王女も無事保護された。王政の廃止は、この両名の意思に依るところが非常に大きいと言える。


 実の姉を誅したクーデターの主導者であるファクトは、今回の事件を通じて知り得たこの世界の真実、女神の虚構について、聖都・旧都の双方に公表。その上で、自分たちは過去を顧み、より良き時代を築き上げていかねばならないと主張し、民衆に広く理解を求めた。


 多くの市民にとって、大昔の真相と世界の命運、そのどちらも遠い世界の出来事でしかなかったが、長らくオベディエン家中心の恣意的な治世が続いていた反動もあり、此度の政変は概ね好意的に受け止められているようであった。


 近年問題視されていた魔獣増加現象も、先日の一件で聖女(ララ)が魔神の力を一時的に弱体化させたことに伴い、小康状態に移行していた。


 この件に関しては、今後も魔神の力が蓄積されるに連れ同様の事象が再発するリスクが残っているが、以前と異なり聖女が身近な存在となった現在、それほど頭を悩ませる懸案ではなくなったと言える。


 そうして仮初の平穏を得る中で、テッド(魔神)チェスカ(魔女)ララ(聖女)を中心とした宣教使節団は、着実にテペノ・リペノの真意を大陸中に伝道していき――


 やがて、一年の歳月が流れた。

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