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女神の箱庭、堕ちた魔神  作者: 女又心
終章 反撃の狼煙

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ヒューリックの誤算

 ガキの頃からチェスカのことが好きだった。


 だが、あいつの傍にはいつもあのお邪魔虫(テッド)がいて、しかも物心つく前から親同士公認の仲ときたもんだ。


(面白くねえ)


 好意の裏返しというやつで、嫌がられながらもしつこくチェスカにちょっかいを繰り返し、思い通りにならない腹いせにテッドを何度も虐めていた俺は、いつしか里でも悪名高い問題児として、周囲から鼻(つま)み者扱いになっていた。


(面白くねえ)


 テッドが里を出た後は一念発起して、どうにかチェスカを振り向かせようと柄にもなく奮闘した時期もあったが、あいつの心の中には常に恋敵(テッド)がのさばっているらしく、俺が何をやったところで所詮は焼け石に水だった。


 そんな燻った日々を過ごしている内に、目指す方向性の違いもあり、気付けば俺は、チェスカら穏健派とは完全に対立する側である過激派の筆頭として、本格的に道を(たが)えていた。


(面白くねえ)


 今更同情を求めるつもりもないが、全部が全部、俺が悪かったというのだろうか?


 こんな俺にも一度くらい、神が救いの手を差し伸べてくれたって(ばち)は当たらないだろうに。


(そうだ。何もかもが面白くねえ、こんな世界は)


 全部、壊レテシマエバイイ。


 いつからか、俺はそう思うようになった――





 ヒューリックは履き違えていた。


 神は、どんな形であれ、一度は彼を確かに選んでいたし。


 彼が目の敵としているテッドが特別恵まれていたかと問われれば、決してそんなこともなく。


 彼とテッドの命運を隔てたもの。


 それは偏に、心の在り方、生き様にあったということを。





「……面白くねえ」


 明朝。


 ルクレクレイトを巡る状況は、当初ヒューリックが思い描いていたシナリオとは明らかに異なる形で推移していた。


 昨晩過激派が市内で起こした暴動が端(しょ)となり、ハークサムの魔人に対するルクレクレイト市民の心証は急激に悪化。信用と居場所を失ったテッドとチェスカは、よくて市外追放、普通に考えたら身柄を拘束されて迫害を受けた挙句、最悪危険分子として処刑される、というのが彼の大まかな見立てだった。


 無論、チェスカがそうした状況を甘んじて受け入れるとは思えず、何らかの行動(アクション)を起こすことが想定されたが、それも全て織り込み済み。そのどさくさに乗じて彼女を上手いこと無力化し、更に、魔神の魂を宿していると思しきテッドを、この地に来ているという聖女の手で改めて魂樹に封印させる。


 それこそが、目下のヒューリックの最大の狙いだった。


(そうして新たに誕生した魂樹を俺たち新生魔人の戦力の要とする……この計画(プラン)さえ実現できりゃ、俺たちの天下は目と鼻の先も同然だ)


 ――そのはず、だったのだが。


 ヒューリックの誤算。


 それは、こうして一夜明けた後も、ルクレクレイト市内は比較的平穏な静寂を保っており、ヒューリックが期待したような不和や仲違いとは無縁の朝を迎えていることだった。


「……どういうことだ?」


 偵察班からの味気ない報告に、かえって薄気味の悪さのようなものをヒューリックが感じていると、矢庭に陣内の空気が騒然とし始める。



「て、敵襲だぁー!」

「テッドだ! テッドが例の奇剣を手に攻め込んできた!」

「チェ、チェスカもいるぞ! テッドなんかより、あの魔女の方が格段に脅威だろ!?」

「お前聞いてないのか!? テッドは怪しげな降魔化身術で魔神になるって話だぞ!」

「それよりも、俺たちの魔力を一切合切掻き消すあの女は一体何なんだッ!?」



「……まさか、こうも早く、あいつらの方から攻め入ってくるとはな」


 飛び交う叫声の中、事態を客観的に分析したヒューリックは、重い腰を上げて天幕を抜け出す。


 外には目も当てられない惨状が広がっていた。


 ある者は力無く四肢を投げ出し。


 また、ある者は縄()巻きにされ。


 そして、ある者は立ち尽くした姿勢のまま。


 総勢20を軽く超える過激派メンバーの全員が、物言わぬ石像の状態で陣地の各所に点在していた。


 いくらチェスカの実力が圧倒的とはいえ、これだけの数の魔人を彼女一人で戦闘不能にすることなど不可能だ。


 魔神の力を自在に扱えるならいざ知らず、たかがテッド如きの加勢など物の数ではないはず。追加で街の衛士が束になったところで、こちらの優勢に変わりはなかった。


 どちらかと言えば過激派有利だったはずの戦況を、いとも簡単に覆したイレギュラーの存在に、さしものヒューリックもこめかみに青筋を浮かべて逆上せずにはいられなかった。


あの二人(テッドとチェスカ)が組むのはまあ分かる。……だが、仮にも女神の使いである聖女が、魔神と所縁のある連中と仲良く手を組んでるってのは、一体全体どういう了見なんだよ……!?」


 チェスカと聖女の二人を、まるで両手に花のように引き連れてヒューリックの前に現れたテッドは、剣を納めながら、悠然と話し合いの場を所望してきた。


「お仲間の動きは全て封じさせてもらった。そういうわけで、早速話をしようか、ヒューリック」

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