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女神の箱庭、堕ちた魔神  作者: 女又心
第三章 女神の箱庭、堕ちた魔神

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決意表明

「……おお、皆さんお揃いで」


 意識が戻って目を開けたテッドは、知った顔が(がん)首を揃えて自分を包囲していることに、思わず呻き声を上げる。


「テッド……!」


「お前……身体の方は大丈夫なのか?」


 あくまで心配そうなチェスカや、こちらの身を案じつつ警戒も怠っていないフェイルにしっかりと頷き返すと、テッドは同室にいたファクトやララにも目配せしながら、真剣な面持ちで話を切り出す。


「……今から皆さんに、とても大切な話があります」


 今回の騒動の発端とも言える四年前の出来事、そして精神世界で邂逅した魔神(まがみ)から伝え聞いた全ての真相をテッドが説明し終えると、その場にいた誰もが言葉を失い、呆然と立ち尽くしていた。


「……世界が滅ぶ……それも、必ずときたか」


 事実上の死刑宣告に、さしものファクトも苦笑いをこぼさずにはいられないようだった。


「ただでさえヒューリックたちの暴挙で頭が痛いっていうのに……それを乗り越えた先にあるのが、どう足掻いても避けられない滅びの宿命だなんて……」


 やり切れない様子でチェスカが嘆く。


「テッドさんが魔神だとか、私が聖女だとか……そういう次元を超越した、何とも壮大な話になってしまいましたね……」


 ぽりぽりと頬を掻きながら、ララはたははと困ったような笑みを浮かべる。


「何だかな……魔神がお前を騙してるって線はないのか?」


 フェイルの念押しに、テッドは確信を持って(かぶり)を振る。


「それはないと思います。彼の為人(ひととなり)は、実際に話してみた僕にしか分からないかもですが……魔神(まがみ)は元々、この世界がもうどうにもならないことを承知の上で、ヒューリックに全ての罪をおしきせようとしていました。それが、どんな形であれ、この世界に生きる僕らにとって、一番納得がいって受け入れやすい、自然な結末のシナリオだったからです」


「魔神の魂を得て名実共に破壊の権化となったヒューリックが、その絶大な力を以て世界を滅ぼす……まあ、確かにね。非常に不愉快で面白くはないけど、どの道世界は滅ぶだとか、全ては尻軽な女神のせいなんて奇天烈なこと言われるよりは、大分シンプルで分かりやすい展開だとは思う」


 不承不承同ずるチェスカに微苦笑しつつ、テッドは続ける、


「ところが、魔神の目論見は見事に外れ、ひょんなことから僕が彼の魂の宿主になってしまった。とはいえ、魔神が単に血も涙もない創造主だったなら、依り代がヒューリックか僕かなんて、ほんとは大した差異じゃないんです。ただ己の目的のために、被造物の僕らを道具として使い捨てればいい」


「でも、魔神はそうしなかった。それが、君が魔神の良心を信ずる理由か」


 先読みしたファクトに、テッドは首肯する。


「彼は、最終的な判断を、こちらに委ねてくれました。みんなとよく話し合って、どうするか決めろって。本心では、それを望んでいなかったのだとしても」


 そこで言葉を切って、テッドは一行を見渡す。


「だから、僕は、考える機会を与えてくれた魔神に、微力ながら手を貸そうと思っています。彼が心を鬼にして修羅の道を往くのなら、共にその業を背負うつもりです」


 そこまで言って、テッドは軽くおどけてみせる。


「もちろん、みんなが、たとえ一時しのぎだとしても当面の安寧を求めるというのであれば、僕は我を通すことなく魔神と共に魂樹に封印される道を選びます。ただ、それにはララさんの協力(人身御供)も必要になってしまうんですけど……」


「あ、私のことは気にしないでください。元よりその覚悟でいましたし」


 緋色の瞳に強い意志を秘めて、ララはそう言い切る。


 そんな彼女に対し、そこはかとなく苛立った様子でフェイルが異を唱えた。


「テッドの考えは理解した。是非はともかく、今の所俺も異存はない。――だが、ララさん。君の気は確かか?」


「え?」


 何で詰められているのか本気で分からない様子で呆けた声を漏らすララに、フェイルは一層語調を強める。


「魔神の言い分が確かなら、君は女神が放棄したこの世界で、彼女の保身のために、その身を犠牲にすることになるんだぞ? 少しは理不尽だとか思わないのか?」


「えっと……」


 一瞬臆し、言い淀むララだったが、程なく彼女は、高潔な(こころざし)を胸に、こう答えた。


「……私一人の命で、大勢の方が心の平穏を得られるのであれば、それも構いません」


「……ああ、そうかい。……()()()()()()聖女ってのは、自己犠牲の塊みたいなヤツばっかなんだな。……いや、違うな。使命を全うさせるため、意図的にそういう人間を選ぶ仕組みなのか……」


「……フェイル先輩?」


 何やらぶつぶつと独り言を言い出したフェイルに、テッドは恐る恐る声をかける。


 皆の視線が自分に集中していることに気付いたフェイルは、決まりが悪そうにわしわしと頭を掻く。


「……すまない、ララさん。突っかかって悪かった」


「い、いえ……」


 ララが特に言い返しもせず大人しく縮こまってしまったせいか、フェイルは逃げ出すようにその場を後にしようとする。


「フェイル先輩、どこへ?」


「……今の話、セティにもしてやらないとだろ」


 言葉少なにそう言い残し、フェイルは部屋を出て行った。


 それを見届けたテッドは、仕切り直すように軽く咳払いすると、


「……とまあ、僕からは以上です。目下は、何をやらかすか分からないヒューリックたち過激派への対処を最優先としますが、その後の基本方針は今述べた通りとなります」


「では、まずわたしから所信表明を」


 テッドの話が終わるのを待っていたかのように、早速チェスカが口を開く。


「ヒューリックたち過激派の断罪は、あくまでわたしが果たすべき責務だと考えています。それが、恩を(あだ)で返す形となってしまったわたしたちにできる、せめてもの罪滅ぼしだと思うので……」


 そう言った直後、彼女の眼光が急に鋭利さを増す。


「――ですが、テッドとララさんを犠牲にして魔神を封印する、という案については、断固反対します。もし仮に、衛士隊やルクレクレイトの皆さんが最終的にそれを望むというのであれば……その時は、わたしが全力を以て阻止するつもりです」


「チェスカ……」


 想い人の大胆発言を冷や冷やしながら見守るテッドに、チェスカは艶然と微笑んでみせると、


「わたしはもう、自分の気持ちを押し殺したりしない。世界の全てがあなたの敵になったとしても、わたしだけは、ずっとあなたの傍にいる」


「はは……私も、そうならないことを祈ってるよ」


 若い二人に当てられながらそう言ったファクトに、ララが問う。


「私の基本スタンスは、テッドさんの内なる魔神に対する万一の備えになると思いますが……総隊長さんは、やっぱりこの件を聖都(カトライア夫人)に?」


「本来ならそうすべきだろうが……姉上がどういった判断を下すかは目に見えているからな。場合によっては要らぬ横槍が入り、混迷極める状況が更に悪化する危険性が高い」


「ですよね……」


 心の底から同意を示してくるララに、何か思うところでもあったのか、ファクトの顔付きは矢庭に神妙なものへと変わる。


「……もう、姉上が口出しできる話の段階はとうに過ぎている。……私も、いよいよ腹を括る時が来たのかもしれないな」


「え?」


 よく聞こえなかった様子で耳をそばだてるララに、ファクトはふっと微笑すると、


「いや、何でもない。――ひとまず、聖都への報告や市民への説明は二の次だ。レイナルクの言う通り、喫緊の懸案である過激派への対処を第一優先とする。後のことを考えるにも、その件が片付かないことにはおちおち話し合いもできやしない」


 ファクトの言葉に、その場にいる全員が頷く。


 テッドの覚醒に始まった話の場は一旦お開きとなり、小休止を挟んだ後に改めてミーティングを行う運びとなった。


 過激派の夜襲や奇襲のリスクは常に付き纏うが、向こうも数々の強行軍に加え、夕刻の交戦では少なくない被害を出している。初手のアドバンテージを欠いた上、こちらも厳戒しているとなれば、流石の彼らもいくらか慎重にならざるを得ないと思われた。


 とはいえ、兵站に劣る過激派は長期戦になればなるほど不利。勝負をかけてくるとしたら、遅くとも一両日中であることが見込まれた。

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