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女神の箱庭、堕ちた魔神  作者: 女又心
第三章 女神の箱庭、堕ちた魔神

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20/30

僕の中の魔神

「ちょっと待ってよ……何だって、そんな超常存在が僕なんかの中に……」


「奇しくも、あの臆病者(ヒューリック)の見立て通りだよ。魂樹の実は、封印された我が、お前たちハークサムの民に絶え間なく力を奪われ続ける間も、長い長い年月をかけて密かに蓄え結実させた、言わば魔神()神髄(エッセンス)。それを体内に取り込んだ時点で、お前は我の魂をその身に宿す依り代となったのだ……大変、不本意なことにな」


 何やら含みを持たせて、テペノ・リペノは失望を露にする。


「お前にとっては実に不運な話でしかないが、本来、我が依り代として見定めたのは、お前ではなく、あのヒューリックとかいう野心渦巻く若造の方だったのだ。奴の胸裏には、ままならぬ世界や現状に対する鬱屈した不満や劣情が溢れ返っていたからな。その膨大な負の感情(エネルギー)を糧に現界を果たそうと目論み、わざわざ奴の前に姿を現してやったというのに、あろうことかあの男は、お前を替え玉にして経過観察を始めよった」


 心底腹立たしげに、魔神の光球はその場で忙しなく飛び跳ねる。


「お蔭で計画は全て水の泡。お前の内に代替となる負の感情は存在せず、当てが外れた我はしばしの休眠を余儀なくされ……時は経って先刻、一時的にお前の中で高まった怒りの感情を糧に、我はようやく念願の実体を取り戻した、というわけだ。――まあ、それも結局は不完全に終わり、挙句聖女の再来に鎮魂されてしまったようだがな」


「……どこから突っ込んだらいいのか」


 あまりに現実味がなく途方もなさ過ぎて、テッドは驚きを通り越し呆れ返るばかりだった。


「……でも、それが事実なら僕は、魔神(まがみ)の魂をその身に内包していたにもかかわらず、魔力を全く使えない落ちこぼれだったってことか……」


「それは違うな。言っただろう、我はお前の中で休眠状態にあったと。その状況下における外界への影響力と言ったら、精々魔獣の出没範囲が魂樹(ハークサム)周辺からお前(ルクレクレイト)の周囲に遷移した程度のものだろう」


 さらっととんでもない裏事情を暴露するテペノ・リペノ。


「第一、現代の魔人が魔力を得るプロセスは魂樹のシステムに依る所が非常に大きく、我の存在と直接の因果関係はないに等しい。大方、我の不在により魂樹のシステムが動作不良を起こし、遂には魔力の素となる力のストックも費えた、というのが、昨今の無能力者増加現象の真相だろうな」


「そう、なんだ……」


 魔神が自分なんかのために気休めを言ってくれたとは思わないが、それでも彼(?)の言葉が幾分テッドの気を紛らわせてくれたのは確かだった。


 テペノ・リペノとの短い会話の中で、ちょっとした違和感のようなものを覚えたテッドは、思わず次のようなことを彼(?)に尋ねていた。


「魔神……って呼び方でいいのかな? あんたの目的は、本当に世界を滅ぼすことなの?」


「ほう?」


 多少は興味を引いたらしく、テペノ・リペノが話に乗ってくる。


「どうしてそう思う?」


「話してて、何となくそう思っただけだよ。あんたからはあまり、この世界を滅ぼして余り有る悪意や憎しみみたいなものが感じられないから……。とはいえ、ヒューリックを利用しようとしてたぐらいだから、根っからの善人とも思わないけど」


「なるほどな。まあ、及第点といったところか」


 得心した様子で頷くように上下運動する魔神の光球。


「……そうだな。今や我とお前は運命共同体。事情を明かし、協力を仰いだ方が、我にとっても都合がよいのかもしれん」


 しばらく考え込むように押し黙っていたテペノ・リペノは、何かを決心したように話を切り出す。


「――テッド。お前の指摘はある意味正しい。我も、自ら手掛けたこの世界を、好き好んで破壊したいわけではないのだからな」


「……どういうこと?」


「今でこそ魔神などという落ちぶれた境遇に身を(やつ)しているが、元より我は、お前たちが女神と(あが)めるラル・ルル・ラルラと共にこの世界を創り上げた、共同神権を担う片翼の一柱、()(がみ)とでも呼ぶべき存在なのだ。そして何を隠そう、聖女を遣わし、魔神封印の最大の功労者と謳われている女神の方こそ、我を魔神に堕とし、この世界を見限って滅びゆく運命(さだめ)へと(いざな)った、諸悪の根源そのものなのだよ」


「見限った、って……女神が、僕たちの暮らすこの世界を見捨てたって言うの……? そんな馬鹿げた話、信じられるわけ……」


 素直に受け容れられず狼狽(うろた)えるテッドに、テペノ・リペノは無慈悲にも追い打ちをかける。


「信じる信じないはお前の勝手だが、真実は常に一つしか存在し得ない。現に、この世界にはもう女神の加護はどこにもなく、奴が遺した魔神(我の)復活に備えての安全装置(セーフティ)――魔神()から力を奪いつつ、封印を守護する魔人を生み出す魂樹システムと、魔神の目覚めに先駆けて起動し、時の乙女に聖女の力と人柱の役目を与える聖女システム、この二つの仕掛けを残すのみとなっている。そして、男神と女神、双方の管理者を欠いたこの世界は、いつか必ず破綻する定めにあり、こうしている今も少しずつ崩壊の一途を辿っているのだ」


「……その話が確かなら、じゃあ、女神は今どこに……?」


「さてな。それは我の方が知りたいぐらいだ。他の男神と(ねんご)ろになって別の世界に肩入れしているのかもしれないし、下手をすれば、その間男すらも今では切り捨て、また別の男神のもとへ身を寄せているのかもしれない……。いずれにせよ、奴が関わった世界はろくなことになってないだろうな」


「……そんなことって」


 自分たちの世界の命運を、どこぞの売女(ばいた)の不貞と同列に片付けられ、テッドは何とも複雑な心境だった。


 彼の煩悶を他所に、テペノ・リペノはいよいよ核心に触れる。


「我の目的はただ一つ。この世界が破滅を迎える前に、今一度我の完全な支配下に置き、失った管理者権限を取り戻すことで、元いた高位次元に舞い戻ることにある。この世界に魔神として封じ込められたままでは、あばずれ女神の悪行を弾劾することもままならんのでな」


「そのためにも、僕たちのいるこの世界を一度破壊してリセットするしかない、と、そういうわけか……」


「……その通りだ。気の毒だがな」


 心なし申し訳なさそうにテペノ・リペノは肯定する。彼の話を聞けば聞くほど、女神と魔神、どっちが味方でどっちが敵か分からなくなりそうだった。


「……どうにかして、お互いにとってベストな道を模索することはできないのかな? この世界が存続しつつ、あんたの目的が果たせるような……」


「そんな都合のいい話はどこにもない。そして、お前が取れる選択肢もまた、そう多くはないと言える」


「それは……」


 なおも一縷の望みに縋るテッドに対し、テペノ・リペノは冷徹に残酷な現実を突き付ける。


「一つは、我から聞いた話をなかったものとし、滅亡までの束の間の時間を享受すること。そしてもう一つは、我と共に覇道を突き進み、全ての元凶(女神)に引導を渡してやることだ。……どちらにしても、力の大半を失った今の我には、お前の決定に従う以外、道は残されていないがな」


「大人しく滅びの時を待つか、それとも自ら滅ぼした上で黒幕に一矢報いるか、全ては僕の選択次第ってことか……冗談きついって」


 期せずして降りかかった途轍もない難題に、テッドは途方に暮れ頭を抱える。


 そんな哀れな子羊を鼓舞するかのように、テペノ・リペノはあえて露悪的な態度でテッドを(そそのか)す。


「恨むならヒューリックの奴を恨むのだな。元はと言えば、あの小僧が我の思惑通りに行動してさえいれば、こうしてお前が要らぬ重荷を背負う必要などなかったのだからな」


「……まあ、過ぎたことをとやかく言ってもしょうがないし」


「む。それはそうなのだが……」


 テッドがさして同調してこなかったからか、張り合いをなくしたように気持ち小さくなる魔神の光球。


 彼は落ち込むテッドの周りを落ち着かない様子でふわふわと漂いながら、どことなく慎重に言葉を選んでいるようだった。


「……まあ、その、あまり一人で抱え込むな。もうじきお前は目を覚まし、現実世界に帰還する。そこで周りの者たちとよく相談し、今後の身の振り方を決めるといい」


「……ふふ」


「? 何が可笑しい?」


「いや……やっぱりあんた、お人好しっていうか何て言うか、悪い奴じゃなさそうだなって」


「……ほっとけ」


 どこか気恥ずかしそうなテペノ・リペノの悪態を最後に、テッドの意識は急速に遠退いていった。

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