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女神の箱庭、堕ちた魔神  作者: 女又心
第二章 来訪者たち

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クーデター

「血迷ったか、ヒューリック」


 負傷した右腕を押さえつつ、ルフェイン・レイナルクは襲撃者の若者を()め付ける。


 彼のいる一室は、割れた窓から入り込む紅蓮の焔光によって一面赤く染まっており、また、室内はひどく散乱していた。


 外は外で怒号と悲鳴が飛び交い阿鼻叫喚の様相を呈している。この騒動を企てた張本人が、目の前にいる男だった。


 禁足地ハークサムでは現在、過激派によるクーデターが勃発していた。


 ルフェインと対峙する総髪の青年――過激派の筆頭たるヒューリック・ゲイナーは、里長の厳しい非難の目を物ともせず、さも自分たちに大義があるかのように泰然と振る舞う。


「先に禁を犯したのはあんただろう、長老。それも一度ならず、今回で二度目だ。俺たちの、将来を見据えた建設的な意見には一切耳を貸さないくせに、身内には(ことごと)く甘い。そのような公私混同を何度も見逃したとあっては、ハークサムの魔人全体の士気に関わってくるんだよ。あんたは好き勝手にやり過ぎたんだ」


「お前たちの思想は危険だ。それに、恵まれぬ同胞に慈悲を与えることの何が悪い? 我が息子にしろ、過日旅立った者たちにしろ、魔力を持たない彼らは一度里を出たら最後、二度とこの故郷の地を踏むことは許されず、また外界で生きていける保証もない。それでも彼らは自らの尊厳のために、明日を求めてまだ見ぬ世界へと一歩踏み出したのだ。これを応援せずして同じハークサムの民を語るとは片腹痛い」


「詭弁だな。知らないとでも思ってるのか? あんたが引率の名目で奴らに同行させたチェスカ。あいつの力だけは封じずにいるってことを」


「……大勢の無能力者を引き連れるのだ、どうしても力を持った護り手は必要となる。多数の命を預かる重大な責務ゆえ、ハークサム一の能力者であり皆からも慕われている彼女が適任だと判断したまで」


「違うな、そうじゃないだろ」


 言下に否定し、ヒューリックは嘲笑を浮かべる。


「あんたは移民団を隠れ蓑に、あいつを外界に遣わしたんだ。最近急速に力を付け、大変目障りになってきた俺たち過激派よりも先に主導権(イニシアチブ)を握るために。あんたも頭では薄々分かってるはずだ。魔神の魂は、既にあの大木にはないってことを。その証拠に、ああして火を付け根こそぎ焼いてるにもかかわらず、かの魔神が復活する兆しは一向に見られない」


 ヒューリックは眼前に右腕をかざす。


「禁足地も、それを守護する聖女の旧き教えも、今となってはもう、過去の遺物に過ぎないんだよ」


「……話にならないな。希望的観測に基づいた持論をまことしやかに語る……お前のような身勝手極まりない扇動者に、ハークサムの……魔人の行く末を委ねる訳には行かぬ」


 ヒューリックの動きに呼応する形で、ルフェインも無事な方の左腕を前方に構えた。


「……図に乗るな、若造」

「老いぼれが、身の程を弁えろよ」


 その啖呵を合図に、二人の掌中から魔力の奔流が迸り、両者の狭間で真っ向から激突する。


 拮抗する両者の魔力は交互に()し合いを繰り返し、その際に生じた余波が魔力流を形成して周囲の物体を薙ぎ倒していく。


 いつしか二人がいた簡素な家屋(レイナルク家)は見る影もなく半壊。何もかもが崩れ落ちて廃墟と化した後も、彼らの争いは収まることなく、むしろ苛烈さを増すばかりで。


 そんな中、最初に沈黙を破ったのはヒューリックの方だった。


「これでもあんたには感謝しているんだ。お陰で、こうしてクーデターを起こす格好の口実が出来たんだからな」


「何?」


「もしあんたが、旧態依然とした魔人の在り方にいつまでも拘るような、ちっぽけでつまらない老害の類いであったなら、今頃俺は、どんなに吠えたところで、今みたいに血気盛んな連中の支持を一身に集めることなど出来なかったに違いない。それこそ、あんたの言う若造の戯言(たわごと)だと一笑に付され、上からの圧力で握り潰されてな」


「…………」


「だが、あんたは、無能力が発覚した息子(テッド)を禁じられた外の世界に逃がし、里に新しい風を吹き込んだ。この一石は良くも悪くも停滞していたハークサムに波紋を投じ、穏健派や過激派という二つの潮流を生み出す結果へと繋がっていった……」


 刹那、ヒューリックの放つ魔力の勢いが急激に増大し、対抗するルフェインの身体をじりじりと押し返していく。


「ッ! むう……」


「――そう。俺はこの日をずっと待ってたんだよ。あんたが後ろ盾になっている穏健派が再び禁を破り、それが引き金となって、押さえ付けられた過激派の鬱憤が爆発する今日というこの日を……そして、決まりを破った悪い奴らには、きちんとお仕置きをしないといけないよなぁ。ええ? ルフェインさんよぉッ!」


「お、お前は……」


 ヒューリックの狂気じみた気迫にルフェインは一瞬圧倒される。


 そのわずかな心の揺らぎが命取りとなった。


「衰えたな、ルフェイン・レイナルク! 新しい時代を作るのは、俺たち、新しい世代なんだよッ!」


「ぬ、ぬおおお……ッ!」


 遂に、ルフェインの魔力はヒューリックのそれによってかき消され、攻防一体の魔力障壁を欠いたルフェインは、為すがままヒューリックが生み出す魔力嵐の渦中へと飲み込まれていく。


「がああああッ!?」


 無形の暴力に(なぶ)られ続け、全身ずたぼろになるまで痛めつけられたルフェインの身体は、ヒューリックが魔力攻撃の展開を解くと同時、倒れ込むようにその場に崩れ落ちた。


「ぐ、うう……」


「無様だな、長老さんよ」


 倒れ伏したルフェインの頭を土足で足蹴にし、ヒューリックは上機嫌に語り出す。


「冥土の土産にいいことを教えてやるよ。あんたの能無しの息子、まだ生きてるってさ」


「な……」


「チェスカたちの動向を追跡させてるルドルフから、さっき報告があった。南のルクレクレイト――今じゃ旧都なんて呼ばれてる死にぞこないの街で、健気に一兵卒から頑張ってるんだとさ。泣かせるねぇ」


「き、貴様……テッドに、何をするつもりだ……?」


 残る力を振り絞って足首を掴んできたルフェインの手を、ヒューリックはぞんざいに振り払い、返す足でルフェインの頭を容赦なく蹴り飛ばす。


「がっ……!?」


「汚い手で触んなよ、この薄鈍(うすのろ)。そんなに心配しなくても、あいつの大切な物は全部、綺麗さっぱりぶち壊してやるからさ。だからあんたは、先に逝って息子を待ってるといい――よ!」


 最後の一声に被せるようにして、ヒューリックはルフェインの首の骨を一気に踏み抜いた。


 骨が砕ける不快な音が、不気味に辺りに木霊する。


「さて、と……」


 物言わぬ骸と化したルフェインの遺体を雑に蹴飛ばしたヒューリックは、パンパンと手を払いながら、残忍な笑みを浮かべる。


「待ってろよ、テッド。お前に預けた(もん)を取り返したら、すぐに親父の後を追わせてやる」

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