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第九話 旅人、初めての仕事を頼まれる


イルティ村に広がっていた疫病は、ようやく落ち着きを取り戻していた。


元気になった村人たちの姿も増えている。


「よかったな」


ユウマは村を歩きながら、ほっとしていた。


そして今日は――


「冒険者ギルドに行くか」


リリアと正式にパーティを組むためだった。


二人でギルドへ向かう。


中へ入ったところで――


「おい!」


突然、後ろから声をかけられた。


振り返る。


そこには、ガタイの良い戦士が立っていた。


「……俺のこと、分かるか?」


「えっと……」


ユウマは首をかしげる。


「ギルドから聞いた」


戦士はユウマの肩を軽く叩いた。


「解毒薬をありがとう!」


「……解毒薬?」


「家族が病気になっちまってな」


戦士は笑った。


「薬を使ったら、一瞬で治ったんだ」


「それは……よかったです」


ユウマは少し照れながら答えた。


戦士は真剣な顔になる。


「旅人に救われたこと、俺は絶対に忘れない」


「……」


「いつか、必ずお礼をさせてくれ」


それだけ言うと、戦士は仲間のところへ戻っていった。


「……なんだったんだ?」


ユウマは少し驚いた顔で見送る。


その隣では――


リリアが、なぜか胸を張っていた。


「……」


「リリア?」


「何でもないわ」


明らかにドヤ顔だった。


「……?」


ユウマは首をかしげた。


そのとき、ギルド職員が声をかけてきた。


「ユウマさん、リリアさん。パーティの手続きが終わりました」


「ありがとうございます」


「では、パーティ名を登録しますね」


「……」


「……」


ユウマとリリアは顔を見合わせた。


「パーティ名……」


「考えてなかったわ」


「俺も」


ギルド職員は苦笑する。


「まだ決まっていないのでしたら、後日でも大丈夫ですよ」


「助かります」


「それと――」


職員が書類を確認する。


「前回、買い取らせていただいた……」


一瞬、言葉を止める。


「……解毒薬の代金ですが」


「はい」


「金貨一万枚で、よろしいでしょうか?」


「……」


ユウマの目が点になる。


「一万枚?」


「はい」


「そんなに?」


職員は苦笑した。


「ギルドだけでは足りませんでしたので、村からも集めました」


「……」


「これが、今すぐ用意できる限度です」


ユウマは頭の中で計算する。


日本円にすると――


「……一億円?」


思わず声に出してしまった。


「そんなに……」


「それだけの価値があったということです」


そのとき。


「その通りだ」


奥からギルド長が現れた。


「ギルド長……」


「ユウマ」


ギルド長は真剣な表情で言う。


「それだけ、お前たちは村を救ったんだ」


「……」


「受け取ってもらわんと、こちらが困る」


ユウマは少し迷った。


だが――


「分かりました」


素直に頭を下げる。


「ありがとうございます」


そして金貨を収納袋へしまった。


「これで……しばらく旅もできそうだな」


ユウマは少し嬉しそうだった。


するとギルド長の表情が変わる。


「……実はな」


「はい?」


「ハーン領主から依頼が来ている」


「ハーン領主から?」


「そうだ」


ギルド長はため息をついた。


「ハーン地方のミスギ村で、まだ疫病に苦しんでいる人たちがいるそうだ」


ユウマは黙って聞いている。


「本来なら、薬草を持ち去っていった連中に手を貸したくはない」


ギルド長の声には、少し怒りが混じっていた。


「だが……」


「村人たちが?」


「ああ」


ギルド長は頷く。


「薬が十分に行き届いていない」


ユウマは少し考える。


「それで、俺に何を?」


「ポーションではない」


ギルド長は言った。


「解毒薬を作って、ミスギ村へ届けてほしい」


「……旅」


ユウマの目が少し輝いた。


「旅らしいことができそうですね」


「そういう問題か?」


ギルド長は苦笑する。


「解毒薬と空き瓶はこちらで用意する」


「分かりました」


「調合が終わり次第、出発してくれ」


「はい!」


ユウマは嬉しそうに返事をした。


――そして。


ギルドの奥の部屋。


机の上に、解毒薬と空き瓶が並べられた。


「これで全部です」


「五十本分ですね」


ユウマは確認する。


「じゃあ、このまま調合しちゃいますね」


ギルド長は少し驚いた。


「今からか?」


「はい」


ユウマは慣れた手つきで並べる。


「ステータスオープン」


目の前にステータスが表示される。


【解毒薬+空き瓶】


ユウマはそこへ触れた。


「タッチ」


――パァァァッ!


眩い光が部屋を包んだ。


「……!」


光が収まる。


机の上には――


五十本の瓶。


中には、赤色の透き通った液体が入っていた。


「……できました」


ギルド長は固まった。


「……」


「ギルド長?」


「……ユウマ」


「はい?」


「絶対に」


ギルド長は真剣な顔で言った。


「これを人前で見せるな」


「え?」


「絶対だ」


ユウマは困惑する。


ギルド長は一本を手に取った。


「鑑定……」


しばらくして――


ギルド長は頭を抱えた。


【上級デトックスポーション】


【効果:すべての状態異常を解除】


「……上級?」


ギルド長は呟いた。


「全状態異常解除……」


そしてユウマを見る。


「俺は……一週間くらいかけて調合すると思っていた」


「そうなんですか?」


「それが……」


机の上を見る。


「五十本が一瞬だと?」


ユウマは少し照れたように笑った。


「ポーション作りで、ちょっとコツを覚えたので」


「……」


「まだ材料があれば、二百本とか三百本くらいなら、一気にできる気がしますよ」


「……二百」


「はい」


「三百……」


ギルド長は遠い目をした。


そのとき。


「……あれ?」


ユウマの身体がふらついた。


「ユウマ?」


リリアが声を上げる。


「なんか……」


ユウマはそのまま――


ドサッ。


床に倒れた。


「ユウマ!」


ギルド長が駆け寄る。


「どうした!」


リリアも慌ててユウマを見る。


しばらくすると、ユウマは静かに寝息を立て始めた。


「……寝てる?」


リリアが首をかしげる。


ギルド長はユウマの状態を確認する。


「魔力切れ……か」


「魔力切れ?」


「ああ」


ギルド長は苦笑した。


「どうやら、無限に作れるわけではなかったらしい」


「……」


リリアは眠っているユウマを見つめる。


そして、少し笑った。


「無茶しちゃったのね」


ユウマはそのまま、翌朝まで眠り続けた。


――この日。


ユウマは初めて知ることになる。


便利なスキルにも、ちゃんと代償があるということを。


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