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第八話 国宝級のポーション


――魔王城。


セシリアは、魔王の執務室を訪れていた。


「魔王様。ご報告があります」


「セシリアか。言ってみよ」


魔王は書類から顔を上げる。


「リリアお嬢様のことなのですが……」


「何かあったのか?」


「冒険者ギルドで登録できなかったようです」


「まあ、見た目が十歳だからな」


「それで……」


セシリアは少し言いにくそうに続ける。


「見知らぬ旅人とパーティを組みました」


「……」


一瞬の沈黙。


そして――


「ははははは!」


魔王は大声で笑い出した。


「なんと!」


「魔王様……?」


「いいではないか!」


魔王は楽しそうに笑っている。


「旅人とパーティか。面白いではないか」


「ですが、相手は人間です」


「それがどうした?」


「……」


「リリアが自分で選んだのだろう?」


「はい」


魔王は椅子に深く座り直す。


「ならば、しばらく様子を見よう」


「魔王様……」


セシリアは困ったような顔をした。


「本当にそれでよろしいのですか?」


「よい」


魔王は笑う。


「娘がどんな旅をするのか、私も見てみたい」


セシリアは小さくため息をついた。


「……かしこまりました」


――その頃。


イルティ村へ戻ってきたユウマとリリアは、村の様子がおかしいことに気づいた。


「……なんだ?」


村の入口に、人が集まっている。


いつもなら聞こえてくる話し声も少ない。


代わりに――


「苦しい……」


「熱が下がらない……」


「誰か、薬を……」


咳き込む人の姿があった。


ユウマは足を止める。


「何かあったみたいだな」


リリアも周囲を見渡した。


「……疫病ね」


「疫病?」


「ええ」


リリアは静かに答えた。


「ハーン地方で広がっているという話を聞いたことがあるわ」


「そうなのか……」


ユウマは村の人々を見る。


「とりあえず、ギルドに行ってみよう」


二人は冒険者ギルドへ向かった。


すると――


「ユウマさん!」


ギルド職員が駆け寄ってきた。


「どうしたんですか?」


「実は……」


職員は焦った様子で話し始める。


「以前、ユウマさんから買い取った貴重な薬草を保管していたんですが……」


「はい」


「ハーン領主に、すべて持っていかれてしまったんです」


「……全部?」


「はい」


職員は悔しそうにうつむいた。


「この村では、まだ少人数ですが疫病が出始めています」


「……」


「しかも……」


職員は声を落とした。


「イルティ村の村長の母親と、娘さんまで病気になってしまいました」


ユウマの表情が変わった。


「そうですか……」


「ユウマさん」


職員は頭を下げる。


「上質な薬草は、まだありませんか?」


「薬草は……」


ユウマは考えた。


「全部、使ってしまって……」


そのとき。


リリアが口を開こうとした。


――このくらいの病気なら、魔法で治せるのに。


人間は治癒魔法を使わないのかしら?


そう思った。


しかし――


「……あ」


ユウマが何かを思い出した。


「そういえば」


「?」


「ちょっと旅用に、薬草をポーションに作り変えたんですよ」


「ポーション……?」


「使えますか?」


ユウマは収納バッグから一本の瓶を取り出した。


青白く透き通った液体。


ギルド職員が目を見開く。


「これは……」


「薬草から作ったんです」


ユウマが瓶を渡す。


「少し試してみてもらえますか?」


ギルド職員は瓶を受け取った。


職員には、鑑定スキルがあった。


瓶に手をかざす。


「鑑定……」


一瞬。


職員の顔が固まった。


「……ユウマさん」


「はい?」


「これを……あなたが?」


「ええ。まあ……」


「少し、お借りしますね!」


職員は急いで奥へ向かった。


そして――


「待ちなさい!」


奥から声が響いた。


ギルド長だった。


ギルド長は職員から瓶を受け取ると、鑑定を行った。


そして、ユウマとリリアを見る。


「……」


「……?」


ギルド長は、リリアにも視線を向ける。


そして、しばらく無言で見続けた。


「……」


リリアも黙っている。


ギルド長は、リリアの中に隠された巨大な魔力を感じ取っていた。


――この少女。


相当な魔力量だ。


だが、それを口にはしない。


次にユウマを見る。


「……」


不思議な力を感じる。


だが、正体までは分からない。


「……」


沈黙が続く。


「……あの」


ユウマが耐えきれず声をかける。


ギルド長は、ようやく我に返った。


「すまん」


「はい?」


「ついつい、お前たちが面白くてな」


「……?」


ユウマとリリアは顔を見合わせた。


ギルド長は瓶を机の上に置く。


「ユウマ」


「はい」


「このポーションは……上級ポーションですらない」


「え?」


「上質なポーションだ」


ユウマは首をかしげる。


「それって、そんなにすごいんですか?」


ギルド長は頭を抱えた。


「……お前、本当に知らないのか」


「はい」


「上質なポーションは、通常のポーションの倍以上の回復効果がある」


「へえ」


「体力の回復だけではない」


ギルド長は真剣な顔になる。


「状態異常にも効果がある」


「……」


「場合によっては、命に関わる状態から救うことすらできる」


ユウマは瓶を見る。


「そんなに?」


「そうだ」


ギルド長は深く息を吐いた。


「これは、国宝級と言ってもいい」


「国宝……」


「本来なら、一本だけでも大騒ぎになる代物だ」


ユウマは困った顔をした。


「でも……薬草と空き瓶で作れましたよ?」


「……」


ギルド長は言葉を失った。


リリアは隣で、少し楽しそうにユウマを見ていた。


――やっぱり、この人面白いわ。


ギルド長は続ける。


「もしこれを量産できてしまえば、ヒーラーや薬師の仕事そのものに影響が出る」


「そんなに……」


「だが、今回はそうも言っていられん」


ギルド長は瓶を握る。


「村で疫病が広がっている」


「はい」


「ユウマよ」


ギルド長は真剣な目で聞いた。


「上質なポーションは、何本ある?」


「え?」


ユウマは少し考えた。


「旅の準備というか、社会人の感覚がまだ抜けてなくて……」


「社会人?」


「まあ、それは置いといて」


ユウマは収納袋を確認する。


「三百本くらいあります」


「……」


ギルド長が固まった。


「……三百?」


「はい」


「本当に?」


「たぶん」


ギルド長は額を押さえた。


「……お前は」


しばらく考えたあと、ギルド長は決断した。


「すまない」


「?」


「そのうち二百本を譲ってくれないか」


「二百本?」


「ああ。今すぐ全額を支払うことはできない」


ギルド長は頭を下げた。


「後日、必ず支払う」


ユウマは少し考えた。


「生活もできていますし……」


そして、ギルドを見渡す。


「ギルドにはいろいろお世話になっていますから」


ユウマは笑った。


「いつでも大丈夫ですよ」


「……ありがとう」


ギルド長は深く頭を下げた。


「すぐに村へ配ろう」


こうして、ユウマが作ったポーションは村人たちへ届けられた。


ただし――


村人たちには、


「解毒薬が手に入った」


と説明された。


国宝級のポーションが、どこから来たのか。


誰が作ったのか。


それは伏せられた。


そして数日後。


イルティ村では、少しずつ病に苦しむ人が減っていった。


村長の母親も。


娘も。


そして、多くの村人たちも。


「よかった……」


ユウマは、元気になっていく村人たちを見て安心した。


リリアも、その様子を静かに見ていた。


――でも。


ギルド長はユウマを呼び止めた。


「ユウマ」


「はい?」


「一つだけ、忠告しておく」


ギルド長の表情は真剣だった。


「今回のポーションは、国宝級だ」


「……はい」


「その価値を知れば、欲しがる者は必ず現れる」


「……」


「お前自身が狙われる可能性もある」


ユウマは黙って聞いていた。


「だから、むやみに人へ見せたり、使ったりするな」


「分かりました」


ユウマは頷いた。


「気をつけます」


こうして、イルティ村は少しずつ平穏を取り戻していった。


しかし――


ハーン領では、同じようにはいかなかった。


ハーン領主をはじめとする貴族たちは、一命を取り留めた。


だが、薬草を十分に受け取れなかった村々では、多くの犠牲者が出ていた。


ユウマは、その事実をまだ知らない。


自分が作ったポーションが、イルティ村を救ったことも。


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