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第6話 旅人、森の奥で死を覚悟する


ユウマがイルティ村に来てから、数日が経った。


毎日のように薬草を採取し、宿に戻る。


そして――


「薬草と空き瓶……っと」


ポーションを作る。


最初は一日に一本作るのがやっとだった。


しかし、何度も繰り返しているうちに、少しずつ作業にも慣れてきた。


「便利だな、これ」


ユウマにとって、ポーション作りは旅の準備の一つに過ぎなかった。


お金にも余裕がある。


しばらくは薬草採取とポーション作りを続けてもいい。


そう思っていた。


だが、イルティ村の冒険者ギルドでは、少しずつ不穏な話が広がっていた。


「隣のハーン地方で、疫病が広まっているらしいぞ」


「本当か?」


「かなりの人数が倒れているって話だ」


冒険者たちの間で、そんな噂が飛び交っていた。


そしてある日。


ギルドの受付に、大量の薬草を買い求める使者がやってきた。


「ハーン領主様からの注文です」


「……上質な薬草を、これだけですか?」


受付の女性が書類を見る。


そこには、かなりの量が記されていた。


「ハーン地方で疫病が広まっているそうです」


ギルドとしても、薬草をすべて渡してしまえば、この村で薬草が不足する可能性がある。


できれば断りたい。


しかし――


ハーン領は軍事力を持つ大きな領地だった。


「……分かりました」


ギルドは、渋々ながら薬草を引き渡すことになった。


その噂は、すぐに村中へ広がった。


だが――


「ユウマさん、最近あまりギルドに来ませんね」


「薬草を採って、宿で何か作ってるらしいぞ」


「何を作ってるんだ?」


「さあ……」


その頃のユウマは、そんな事情を何も知らなかった。


「今日も結構採れたな」


森から戻ったユウマは、宿の部屋でポーションを作っていた。


「これで……よし」


空き瓶の中に、透き通った青白い液体が入る。


「上質なポーション……か」


ユウマはそれを眺める。


「旅に出るなら、何本か持っておいたほうがいいよな」


そう言って、完成したポーションを収納バッグへ入れた。



――同じ頃。


イルティ村の冒険者ギルドでは、一人の少女が受付に立っていた。


「冒険者登録をしたいのですが」


少女の名は、リリア。


見た目は十歳ほど。


だが、その瞳には年齢からは想像できないほどの知性が宿っていた。


受付の女性が困ったように微笑む。


「ごめんなさいね。十歳くらいのお子さんは、一人では登録できないの」


「そうなの?」


「パーティを組んでもらう必要があるのよ」


「……パーティ」


リリアは少し考えた。


「一人で旅をしてみたいのだけど」


「危険だからね」


「そう……」


リリアは残念そうに肩を落とした。


その少し離れた場所には、彼女を見守る女性がいた。


セシリア。


魔王の側支えであり、リリアの世話役でもある。


もちろん、リリアには気づかれていない。


「……困ったわね」


セシリアは小さく呟いた。


本当なら、すぐにでも声をかけたい。


だが――


『くれぐれも、リリアに見つからないように』


魔王からそう言われている。


「もう少し様子を見ましょうか」


セシリアはその場を離れた。


一方のリリアは、村の外へ続く道を眺めていた。


「せっかく来たのに……」


イルティ村へ来て、まだそれほど経っていない。


このまま帰るのもつまらない。


「少しだけ、森を見てこようかしら」


リリアは一人で歩き出した。


その頃。


ユウマも森へ入っていた。


「今日は、いつもより奥まで行ってみるか」


薬草の群生地を探しているうちに、気づけばいつもの場所をかなり離れていた。


「……あれ?」


周囲を見渡す。


木々が多くなっている。


「ちょっと奥に来すぎたかな」


それでも、薬草を見つけると採取してしまう。


「お、あった」


採取。


「こっちにも……」


採取。


「もう少しだけ」


さらに奥へ。


そのときだった。


ガサッ。


「……?」


草むらが揺れた。


ユウマは足を止めた。


また揺れる。


ガサッ。


ガサガサッ。


「……何だ?」


次の瞬間。


森の中から、何匹もの魔物が姿を現した。


灰色の毛。


鋭い牙。


黄色い目。


「……ウルフ?」


一匹。


二匹。


三匹。


――いや。


「……囲まれてる?」


ユウマは後ろを振り返った。


逃げ道がない。


慌ててステータスを確認する。


【危険察知】


スキルが発動した。


だが――


【危険察知 Lv1】


「……レベル1?」


今まで感じたことのない恐怖が、全身を駆け巡った。


ユウマは短剣を抜いた。


「……大丈夫」


自分に言い聞かせる。


「短剣なら……」


しかし。


足が動かない。


ガクガクと震えている。


ウルフが一歩近づく。


「……くっ」


ユウマは短剣を構えた。


けれど、腕も震えていた。


会社員だった頃。


こんな命の危険を感じることなんて、一度もなかった。


「……怖い」


ウルフが低く唸る。


そして――


一匹が地面を蹴った。


「うわっ!」


ユウマは短剣を構える。


ウルフが目の前まで迫る。


「――!」


その瞬間。


ユウマの脳裏に、あの日の光景がよみがえった。


大雨。


崩れる山。


押し寄せる土砂。


そして――


死。


「……また、死ぬのか」


ウルフが飛びかかる。


ユウマは目を閉じた。


その瞬間だった。


「――ファイアートルネード!」


少女の声が森に響いた。


ゴォォォォッ!!


巨大な炎の竜巻が巻き起こった。


「グルァァァ!」


ウルフたちが吹き飛ばされる。


炎の渦が森の中を駆け抜け、魔物たちは一瞬で姿を消した。


ユウマは、何が起きたのか理解できなかった。


「……え?」


目の前に、一人の少女が立っていた。


銀色の髪。


小さな身体。


そして――


不思議なほど落ち着いた表情。


「大丈夫?」


少女が振り返る。


「……」


ユウマは何かを言おうとした。


しかし、張り詰めていた緊張が一気に切れた。


「……あ」


そのまま、力が抜ける。


ドサッ。


ユウマは地面に倒れた。


少女は目を丸くする。


「まあ……」


倒れているユウマを覗き込む。


「気を失っているわ」


少女――リリアは、首をかしげた。


そして、倒れている少年をじっと見つめた。


「この人……旅人?」


森の中には、静けさが戻っていた。


ユウマはまだ知らない。


自分を救った少女が――


この世界の魔王の娘だということを。


そしてリリアも、まだ知らない。


目の前で気を失っている一人の旅人が――


やがて、この世界の運命を大きく変えていくことを。


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