第4話 旅人、初めての依頼
森を抜けると、小さな村が見えてきた。
「……あれがイルティ村かな」
悠真は足を止め、遠くに見える村を眺めた。
木の柵に囲まれた小さな村。
大きな街道が通っているわけでもない。
それでも、村の入口には何人かの人が行き交っていた。
「まずはここで情報収集だな」
神様からも、
――まずは安全な街で腕試しをしてから進むがよい。
そう言われている。
悠真は村へ向かって歩き出した。
---
村の中に入ると、すぐに一軒の大きな建物が目に入った。
看板には剣と盾のような紋章。
「……冒険者ギルド?」
異世界に来たばかりの悠真でも、なんとなく分かった。
「やっぱりあるんだな」
少しワクワクしながら、扉を開ける。
カラン――。
鈴の音が鳴った。
中には何人もの冒険者がいた。
剣を腰に下げた男。
杖を持った女性。
大きな斧を背負った男。
いかにも冒険者という雰囲気だ。
「こんにちは」
受付へ向かう。
「こんにちは。冒険者登録でしょうか?」
受付の女性が笑顔で声をかけてくれた。
「はい。登録したいです」
「では、こちらの用紙に必要事項をお願いします」
悠真は言われた通りに記入していく。
名前。
年齢。
種族。
そして――
「職業は?」
「旅人です」
「……旅人?」
受付の女性の手が止まった。
「あ、はい」
「失礼しました」
受付嬢はすぐに笑顔へ戻った。
「旅人の方ですね」
その声を聞いて、近くにいた冒険者が振り向いた。
「旅人?」
「おいおい、珍しいな」
「まだそんな職業選ぶ奴いたのかよ」
笑い声が聞こえてくる。
悠真は少しだけ眉を上げた。
「……やっぱり、弱い職業なのかな」
すると、一人の戦士風の男が近づいてきた。
「兄ちゃん、旅人なんかで冒険者になるのか?」
「はい」
「悪いことは言わねえ。やめといたほうがいいぞ」
隣にいた魔法使いらしき女性も笑う。
「旅人なんて戦闘スキルもほとんどないでしょう?」
「そうなんですか?」
悠真が素直に聞き返す。
「知らないのかよ」
戦士が笑った。
「旅人は、荷物持ちとか道案内くらいしかできない最弱職だぞ」
「なるほど……」
悠真は特に怒ることもなく頷いた。
「じゃあ、気をつけます」
「……なんだ、こいつ」
戦士たちは呆れたように離れていった。
受付嬢は申し訳なさそうに悠真を見る。
「すみません。冒険者の中には、職業で人を判断する方もいますので……」
「大丈夫ですよ」
悠真は笑った。
前世では、仕事ができるかどうかで人を判断されることなんて珍しくなかった。
今さら、少しくらい馬鹿にされたところで気にはならない。
「それより、旅人でもできる依頼ってありますか?」
受付嬢は少し考える。
「そうですね……」
掲示板を確認する。
「イルティ村周辺は比較的安全なので、薬草採取などはいかがでしょう?」
「薬草ですか?」
「はい。街の薬師からも依頼があります」
受付嬢は一枚の依頼書を取り出した。
「指定された薬草を十束ほど採取していただければ、銅貨十枚です」
「分かりました」
悠真は依頼書を受け取った。
「やってみます」
---
村を出て、森の中へ入る。
「薬草……薬草……」
周囲を見回す。
そのとき――
不思議な感覚があった。
「……ん?」
足元に生えている草を見る。
すると、頭の中に情報が浮かんだ。
――【薬草】
――品質:普通
「……え?」
悠真は目を瞬かせた。
もう一度、別の草を見る。
――【薬草】
――品質:普通
「もしかして……これが旅人のスキル?」
ステータスを確認してみる。
【採取】
【採取鑑定】
昨日見たステータスにはなかったような気がする。
「……増えてる?」
神様の顔が頭に浮かんだ。
――成長補正。
「まさかな」
悠真は苦笑した。
「まあ、便利だし使ってみよう」
しばらく森を歩いていると、今度は少し違う薬草を見つけた。
鑑定する。
――【上質な薬草】
――品質:上質
「おお……」
普通の薬草よりも葉が大きく、色も鮮やかだ。
「これなら高く売れるのかな?」
さらに周囲を探してみる。
すると――
「……あれ?」
一つ。
二つ。
十。
二十。
気づけば、そこには上質な薬草が群生していた。
「こんなところに……」
悠真は驚いた。
「もしかして、かなり珍しいのか?」
分からない。
だが、依頼は薬草採取。
ならば――
「採っていこう」
悠真は一つずつ丁寧に採取していった。
気づけば、背負ってきた袋いっぱいになっていた。
「……ちょっと採りすぎたかな?」
悠真は首を傾げる。
---
ギルドへ戻る。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい」
受付嬢が笑顔で迎える。
「薬草採取はいかがでしたか?」
「はい。たぶん、これで大丈夫だと思います」
悠真は袋をカウンターに置いた。
「こちらです」
受付嬢が袋を開ける。
そして――
「…………え?」
手に取った薬草を見る。
「こ、これは……」
別の薬草を確認する。
「……上質な薬草?」
受付嬢の声が大きくなる。
「え?」
周囲の冒険者たちも振り向いた。
「これ……全部、上質ですよ?」
「そうなんですか?」
悠真は驚いた。
「はい! しかも……こんなに大量に……」
受付嬢は一つ一つ確認していく。
「いったい、どこで採ってきたんですか?」
「森の奥です」
「森の奥……」
「たまたま良い群生地を見つけただけですよ」
悠真は何気なく答えた。
受付嬢は呆然とする。
「……たまたま?」
その頃。
悠真の知らないところで――
白い空間にいる神様が、にやりと笑っていた。
「ほっほっほ……」
「ちゃんと効果が出ておるようじゃな」
神様が密かに与えた――
◊◊成長補正◊◊
その力は、まだ始まったばかりだった。
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「おい」
ギルドの奥。
数人の冒険者が悠真を見ていた。
先ほどの戦士と魔法使いだ。
「旅人のくせに、なんであんなに薬草を持ってんだ?」
「知らないわよ」
「たまたまって言ってたぞ」
「……気に入らない」
戦士は鼻で笑った。
「どうせ運が良かっただけだろ」
「そうね」
魔法使いも冷たく笑う。
「旅人なんて、所詮は旅人よ」
悠真はまだ知らない。
自分がこれから、この小さな村で――
少しずつ注目されていくことを。
そして――
この村を訪れることになる、もう一人の少女の存在も。
物語は、まだ始まったばかりだった。




