↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/30

第3話 その一方――魔王城では

◇◇その一方――魔王城では


「お父様!」


魔王城に、少女の声が響いた。


玉座に座っていた魔王が顔を上げる。


「どうした、我が娘よ」


そこにいたのは、十歳ほどに見える少女だった。


長い髪。

小さな身体。


年齢だけを見れば、まだ子供にしか見えない。


しかし――


彼女の実年齢は、四十二歳。


そして父親である魔王は――


三百二十歳。


「私、旅に出たい!」


少女――リリアは、胸を張って宣言した。


「…………」


魔王の顔が固まった。


「……旅?」


「はい!」


「なぜ?」


「ずっと城にいるだけでは、世界のことを知ることができません」


リリアは楽しそうに話す。


「古い文献なら、いくらでも読んできました。でも、本に書いてあることと、実際に見る世界は違うでしょう?」


魔王は頭を抱えた。


この娘は、昔からこうだった。


魔法の知識は誰よりも豊富。


歴史にも詳しい。


古代文明について語らせれば、魔王ですら知らないことを平然と話す。


そして何より――


魔力。


リリアの身体に秘められた魔力は、すでに魔王を上回る可能性を秘めていた。


純粋な力比べなら、まだ魔王のほうが上だ。


だが、魔力の総量だけなら――


いつか自分を超えるかもしれない。


「……しかしな」


魔王の声が少し低くなる。


「外の世界は危険だ」


「大丈夫です」


「お前は自分が思っているほど――」


「大丈夫です」


「……」


「大丈夫ですよ、お父様」


リリアは、にっこり笑った。


魔王は弱かった。


娘に。


「……母さんが生きていたら、何と言うだろうな」


魔王の表情が、一瞬だけ寂しげになる。


リリアの母。


かつて魔王が愛した、人間の女性。


種族の違いを越えて恋に落ち、そして娘を残して、この世を去った。


それは、遠い昔のことだった。


魔王は今でも忘れていない。


「……分かった」


「本当ですか!」


リリアの顔が明るくなる。


「ただし、条件がある」


「何でしょう?」


魔王は側に控えていた一人の女性を見る。


黒髪をまとめ、落ち着いた表情で立っている。


魔王直属の側仕え――セシリア。


普段はリリアの身の回りの世話をしているが、その正体は魔王が信頼する優秀な護衛でもある。


「セシリア」


「はい、魔王様」


「イルティ村という場所があったな?」


「はい」


セシリアは静かに答えた。


「人間の国との境界からも離れており、魔物も少ない小さな村です」


「おお!」


魔王の表情が少し明るくなる。


「そこなら……比較的安全そうだな」


「はい。お嬢様が旅の経験を積む場所としては、適しているかと」


「では、決まりだ」


魔王はリリアを見る。


「イルティ村までなら、旅に出ることを許そう」


「ありがとうございます、お父様!」


リリアは嬉しそうに頭を下げた。


だが――


魔王はまだ不安だった。


「……セシリア」


「はい?」


「娘を影から見守ってくれぬか」


「…………え?」


セシリアの表情が固まった。


「わ、私がですか?」


「そうだ」


「しかし……」


「決して娘には気づかれるな」


セシリアはリリアを見る。


「……お嬢様に?」


「そうだ」


「…………」


セシリアは小さくため息をついた。


「承知しました」


「頼んだぞ」


「はい、魔王様」


魔王は念を押す。


「くれぐれも見つからないようにな」


「……善処いたします」


リリアは、何も知らずに旅の準備について考えていた。


「イルティ村……どんなところなんでしょう」


その顔は、まるで初めて遠足に行く子供のようだった。


――こうして。


魔王の娘、リリアはイルティ村への旅立ちを許された。


---


かつて、この世界では人間と魔族の争いが絶えなかった。


長い年月にわたる戦争。


憎しみ。


復讐。


数え切れないほどの犠牲。


だが、現在の魔王が即位してから、両者の間には休戦協定が結ばれていた。


それでも――


憎しみが消えたわけではない。


人間の中にも、魔族を憎み続ける者がいる。


そして魔族の中にも、人間との争いを望む者がいる。


平和は、まだ始まったばかりだった。


そんな世界で――


一人の少年が旅を始めた。


元・日本人。


十五歳の身体を与えられた、


◊◊神谷悠真◊◊


そしてもう一人。


見た目は十歳。


実年齢、四十二歳。


魔王の娘、


◊◊リリア◊◊


その傍らには、主人に気づかれぬよう影から見守る、


◊◊セシリア◊◊


二人が向かう先は――


**イルティ村。**


まだ、この時は誰も知らない。


この二人がそこで出会うことが――


やがて世界の運命を大きく変えることを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。