第28話 魔王領の狩りとホットケーキ
大森林の奥深く。
魔王領側から進軍してきたダークエルフ族、リザード族、オーガ族が、次々と魔獣や魔物を打ち倒していた。
「はははっ! 久しぶりの狩りだ!」
オーガ族の戦士が、大きな棍棒を振り回して魔獣を吹き飛ばす。
「力なら我らに負けはない!」
「ふん。お前たちのような下品な戦い方はせん!」
リザード族の戦士は、鋭い槍さばきで魔物を仕留めた。
「何だと!? もう一度言ってみろ!」
「何度でも言ってやる。力任せに暴れるだけでは、戦いとは呼べん!」
仲間同士だというのに、互いに一歩も譲らない。
魔王領では、種族が違っても協力するのが当たり前だ。
しかし、力自慢のオーガ族と誇り高いリザード族は、何かにつけて張り合ってしまう。
「だったら勝負しようじゃないか!」
リザード族の戦士が槍を構えた。
「どちらが多くの魔獣を倒し、魔石を集められるか。これで決着をつけよう!」
「望むところだ!」
オーガ族の戦士も、嬉しそうに棍棒を持ち上げた。
「よし! 誰が一番か、はっきりさせてやる!」
二つの種族は、競い合うように魔物の群れへと突っ込んでいった。
一方、ダークエルフ族はというと――。
少し離れた木々の間から、弓を構えていた。
魔物が仲間に気を取られた瞬間、矢が飛ぶ。
死角から正確に急所を射抜き、倒れた魔物から魔石を回収する。
無駄な動きはない。
騒がしく戦うオーガ族やリザード族とは対照的に、淡々と狩りを続けていた。
「……そろそろ十分だな」
ダークエルフ族のリーダーは、周囲を見渡した。
魔物の数は明らかに減っている。
「全員、撤退するぞ。これ以上は追わなくていい」
「えっ、もう終わりか?」
オーガ族の戦士が、不満そうに振り返った。
「まだまだ戦えるぞ!」
「魔物が減ったのなら、目的は果たした。無駄に追いかける必要はない」
「ちぇっ、もっと戦いたかったのによ!」
オーガ族は残念そうに棍棒を肩に担いだ。
リザード族も槍を収めながら、魔石の入った袋を確認する。
「ふむ……。なかなかの数だ。これなら我らの勝ちだろう」
「何を言う! こちらも負けてはいないぞ!」
またしても言い争いが始まりそうになった。
そこへ、ダークエルフ族の戦士が戻ってきた。
「報告します。魔石の回収量は、我々ダークエルフ族が一番でした」
「なにっ!?」
「そんな馬鹿な!」
オーガ族とリザード族が、同時に声を上げた。
ダークエルフ族のリーダーは、面倒そうに二人を見た。
「……勝負したつもりはなかったんだが」
ただ効率よく魔物を倒していただけだ。
しかし、結果はダークエルフ族の圧勝だった。
オーガ族とリザード族は互いの顔を見合わせ、悔しそうに唸る。
どうやら、どちらが上なのかという争いは、今回も決着がつかなかったらしい。
「まあ、いい。どちらもよく戦った。これで両種族の力が拮抗していることも分かっただろう」
リーダーはそう言って、帰還の準備を始めた。
(……どちらが上だとか、正直どうでもいいんだがな)
ダークエルフ族のリーダーは、心の中でため息をついた。
仲が悪いわけではない。
ただ、どちらも負けず嫌いなのだ。
付き合う側としては、なかなか面倒な話だった。
◇◇◇
モロヤ村。
セリアは、戻ってきたダークエルフ族の使者から報告を受けていた。
「魔王領側から、大森林の魔獣・魔物を一掃しました」
「助かるわ。ありがとう」
セリアは安堵の息をついた。
「ただし、すべてを倒せたわけではありません。逃してしまった魔物もいます」
「そう……。でも、数が減ったのなら十分よ」
「はい。残った魔物の数なら、人間族の冒険者たちでも対処できるはずです」
「分かったわ。こちらで対応する」
セリアは村の外へ目を向けた。
冒険者たちは疲労し、負傷者も出ている。
それでも、村を守るために戦い続けていた。
(これで少しは楽になるはず……)
魔王領側も動いている。
あとは、人間側がどこまで持ちこたえられるかだ。
セリアは冒険者たちのもとへ向かい、今後の対応を考えることにした。
◇◇◇
一方、そのころ。
「いやあ、ホットケーキはおいしかったな!」
ユウマは、満足そうにお腹をさすった。
朝食に作ったホットケーキは、三人に大好評だった。
集めたハチミツをたっぷりかけて食べれば、自然と笑顔になる。
「甘くてふわふわで、あんな食べ物があるなんてね!」
リリアもすっかり気に入った様子だった。
「私も、また食べたいです!」
ミーナも嬉しそうに頷いた。
「そうだなあ。今度は銅のフライパンも欲しくなるな」
「フライパン?」
「今使っているものでも作れるけど、銅のフライパンなら、もっとこんがり焼けそうなんだよ」
ユウマは、次に作るホットケーキを想像していた。
「それに、バターも欲しいな。焼きたてのホットケーキにバターをのせて、ハチミツをかけるんだ」
「バター……。それもおいしそうね」
リリアの目が輝く。
どうやら、また一つ食べたいものが増えたらしい。
「ユウマ!」
ミーナが勢いよく顔を上げた。
「私、どこにでもついて行きます!」
「えっ? 急にどうしたんだ?」
「だって、ユウマと一緒に旅をしていれば、いろいろなおいしいものが食べられそうですから!」
ミーナは真剣な顔で答えた。
ユウマは思わず苦笑した。
「いや、ミーナは教会に戻れば食事も出るんだろ?」
「出ますよ」
「なら、無理についてこなくても……」
「薄いスープと硬いパンです」
「……そっか。それは大変なんだね」
ユウマは、思わず同情してしまった。
もちろん、教会にも事情があるのだろう。
それでも、毎日そんな食事では楽しみも少ない。
「だから、戻る気はありません!」
「そ、そうか……」
ミーナはきっぱりと言い切った。
リリアが横から口を挟む。
「ミーナ、食べ物だけが理由じゃないわよね?」
「えっ!? そ、それは……もちろん、ユウマと一緒に旅をするのも楽しいです!」
ミーナは頬を赤くして答えた。
「ふふっ、そういうことにしておきましょうか」
「リリア!」
二人のやり取りを聞きながら、ユウマは笑った。
旅の仲間が増えて、食事も賑やかになった。
それは、それで悪くない。
「よし、そろそろ出発しよう。モロヤ村まで、あと少しだ」
三人は荷物をまとめ、街道を進み始めた。
◇◇◇
しばらく歩くと、前方に村の建物が見えてきた。
「ユウマ、見えてきたわよ!」
リリアが指さした。
「おっ、やっと着いたか!」
ユウマは、ほっとしたように息を吐いた。
ここまで、ずいぶん多くの魔物と遭遇した。
討伐した魔物の素材も、かなりの量になっている。
「これだけ魔石があれば、討伐した証拠にもなるだろう」
ユウマは収納した魔石のことを思い出した。
「依頼の報告も問題なさそうね」
リリアが頷く。
「はい。たくさん集まりましたからね」
ミーナも安心した様子だった。
ユウマたちは、いつもどおりの気楽な調子でモロヤ村へ向かう。
だが、村の中では、冒険者たちが疲労と負傷を抱えながら、魔物への警戒を続けていた。
そして、魔王領側でも人間側でも、魔物の数が急激に減った原因は、まだ誰にも分かっていない。
まさか、その原因の一端を担った旅人たちが、ホットケーキの話をしながら歩いているとは――。
誰も想像していなかった。




