第27話 素材集めと魔力を帯びた短剣
朝。
ユウマたちは、タープの下で気持ちよく目を覚ました。
「いやあ、よく眠れたな!」
ユウマは大きく伸びをした。
昨夜はタープのおかげで夜露を気にすることもなく、快適に休むことができた。
「これなら、野宿もずいぶん楽になるわね」
リリアも満足そうにタープを見上げた。
「本当ですね。雨が降っても安心できそうです」
ミーナも笑顔でうなずいた。
「よし、朝食を済ませたら出発しよう。今日にはモロヤ村に着けそうだ」
三人は手早く朝食を済ませ、荷物をまとめた。
目指すはオゴ地方のモロヤ村。
魔物が大量発生しているという討伐依頼の目的地だ。
◇◇◇
モロヤ村へ向かう街道。
進むにつれて、魔物の姿が目立つようになってきた。
「おっ、さっそくお出ましか」
ユウマは前方を確認した。
街道の先には、十匹ほどのウルフが集まっている。
「ウルフが十匹か。リリア、遠くにいる五匹を魔法で頼む。俺は近くの五匹を相手にするよ」
「分かったわ!」
「ミーナは支援魔法でカバーしてくれ」
「はい!」
三人は素早く配置についた。
リリアが魔法を放ち、離れた場所にいたウルフを次々と倒していく。
その間に、ユウマも短剣を構えて近づいてきたウルフを迎え撃った。
ミーナは二人の動きを見ながら、必要な支援魔法をかけていく。
戦闘はあっという間に終わった。
「よし、これで全部だな」
ユウマは短剣を収めた。
「うん。三人の連携もいい感じになってきたわね」
リリアが満足そうに笑う。
「遠距離攻撃なら任せて!」
「私も、二人が戦いやすいように支援していきます」
ミーナも少し自信がついてきたようだった。
「いいね。この調子で進もう!」
ユウマたちはウルフの素材を回収し、再び街道を歩き始めた。
しばらく進むと、今度は大きな影が森の中から飛び出してきた。
「うわっ!」
ズドドドドッ!
巨大なイノシシ型の魔物、ワイルドボアが突進してくる。
「危ない!」
ミーナが声を上げた。
「大丈夫だ!」
ユウマは横へ飛び、突進をかわすと、すれ違いざまに短剣を突き出した。
しかし――。
ガキンッ!
「なっ!?」
短剣はワイルドボアの硬い身体に弾かれてしまった。
ワイルドボアは勢いを落とすことなく、再びユウマへ向き直る。
「短剣じゃ、ちょっと厳しいか……!」
「ユウマ! 短剣に魔力を込めてみて!」
リリアが叫んだ。
「魔力を?」
「そう! 武器に魔力を流すのよ!」
「分かった、やってみる!」
ユウマは短剣を握り直した。
刃に意識を集中し、自分の中にある魔力を流し込む。
すると、短剣が青白い光を帯び始めた。
「おおっ……!」
ユウマ自身も驚いた。
ワイルドボアが再び突進してくる。
ユウマはぎりぎりまで引きつけ、横へ飛び退いた。
地面を転がりながらも、すれ違う瞬間に光る短剣を振り抜く。
ザシュッ!
今度は硬い皮膚を切り裂き、ワイルドボアはその場に倒れ込んだ。
「……やったか」
ユウマは息を吐き、短剣を見つめた。
「すごい……。魔力を込めると、あんなに変わるんですね」
ミーナが目を輝かせた。
「うん。私もびっくりしたわ」
リリアはユウマの短剣をじっと見つめた。
「前から気になっていたんだけど、その短剣、普通のものじゃないわよね?」
「えっ?」
「魔力を込めたときの反応もそうだけど、何だか普通の短剣とは違う感じがするのよ」
ユウマは一瞬、言葉に詰まった。
(神様からもらったものだなんて、さすがに言えないよな……)
少し考えてから、ユウマは答えた。
「……父の形見みたいなものなんだ」
「そうだったの……」
リリアの表情が変わった。
「形見だとは知らずに、いろいろ聞いてごめんなさい」
「いや、気にしなくて大丈夫だよ」
ユウマは笑ってみせた。
「大切なものではあるけど、使わないと意味がないからね」
「そうね……。大事に使ってあげて」
リリアはそれ以上、短剣について尋ねなかった。
ユウマは内心ほっとしながら、ワイルドボアの素材を回収した。
肉に毛皮、牙まで手に入った。
「よし、これもいい素材だな!」
そのとき、ミーナが森の上を指さした。
「あっ、あれはキラービーです!」
木々の間を、蜂のような魔物が飛び回っている。
「キラービーか。素材は何が取れるんだ?」
「確か、ハチミツが手に入るんです。甘くて、おいしいらしいですよ」
「ハチミツ!?」
ユウマの目が輝いた。
「それなら、小麦もあるしホットケーキが作れるぞ!」
「ホットケーキ?」
リリアとミーナが、そろって首をかしげた。
「小麦粉を使った生地を焼いて、ハチミツをかけて食べるんだ。甘くて、ふわふわしていておいしいんだよ」
「何それ! 絶対に食べたい!」
リリアが身を乗り出した。
「私も食べてみたいです!」
ミーナも目を輝かせる。
「よし、決まりだな!」
ユウマは短剣を構えた。
「ハチミツを手に入れるぞ!」
リリアが苦笑した。
「まったく、食べ物のことになると張り切るんだから」
「いいじゃないか。旅の楽しみだよ!」
ユウマたちはキラービーを討伐し、ハチミツを回収した。
さらに、周辺にいたワイルドボアも倒し、肉や毛皮を手に入れる。
「今日は大漁だな!」
「そうね。これだけあれば、しばらく困らないわね」
「ホットケーキ、楽しみです!」
三人は満足そうに笑いながら、街道を進んでいった。
◇◇◇
一方、モロヤ村。
村を守る冒険者たちは、異変に気づき始めていた。
「……おかしいな」
一人の冒険者が、村の外を見つめて呟いた。
「どうした?」
「さっきから、魔物がほとんど来なくなったんだ」
仲間も周囲を確認する。
確かに、つい先ほどまで次々と押し寄せていた魔物の姿が、目に見えて減っていた。
「ようやく群れが途切れたのか?」
「だとしたら助かるが……」
冒険者たちは、疲れ切った身体を休めながらも警戒を解かなかった。
これまで、どれだけ倒しても魔物は減らなかった。
それなのに、急に数が減るなど不自然だった。
「理由は分からんが、今のうちに負傷者の手当てと装備の確認をしておこう」
「そうだな。次に襲撃が来たとき、動けないんじゃ話にならない」
冒険者たちは、ひとまず休息と立て直しを急いだ。
その様子を見ていたセリアは、森の奥へ視線を向けていた。
「……魔物が減っている?」
彼女は小さく呟いた。
大森林では、今も魔物が増え続けているはずだった。
自然に減る理由はない。
「魔王軍が動いているのかしら……?」
可能性はいくつも考えられる。
だが、確かなことは何も分からなかった。
セリアはしばらく森を見つめたあと、村の警戒を続けることにした。
◇◇◇
その頃、ユウマたちは――。
「いやあ、今日は本当にいい日だったな!」
ユウマは、回収した素材を確認しながら満足そうに言った。
「ウルフにワイルドボア、キラービー。素材も食材もたくさん手に入った!」
「ホットケーキのことばかり考えていない?」
リリアが呆れたように笑う。
「いやいや、せっかくハチミツが手に入ったんだからな。作らないともったいないだろ?」
「ふふっ。ユウマらしいですね」
ミーナも楽しそうに笑った。
その日の夕食は、ワイルドボアの肉を使った料理になった。
ユウマが肉を焼き、リリアとミーナが準備を手伝う。
香ばしい匂いが広がり、三人は満足するまで食事を楽しんだ。
「ごちそうさま!」
「おいしかったわね」
「はい! 明日のホットケーキも楽しみです」
「それは明日の朝のお楽しみだな」
ユウマは笑って荷物を片づけた。
「さて、食後の運動でもするか」
「えっ、まだ何かするの?」
「軽く魔物討伐だよ。せっかくなら、素材ももう少し集めておきたいし」
リリアは呆れた顔をした。
「本当に素材集めが好きね……」
「旅人だからな!」
三人は周囲の安全を確認しながら、もう少しだけ魔物の討伐を続けた。
そして、疲れたところで野営の準備を始めた。
「明日にはモロヤ村に着けそうだな」
ユウマはタープを張りながら言った。
「そうね。今日はよく動いたし、ゆっくり休みましょう」
「はい。明日も頑張ります!」
三人はタープの下で横になり、静かな夜を迎えた。
その頃、大森林からモロヤ村へ向かうはずだった魔物の多くは、すでにユウマたちによって討伐されていた。
本人たちは素材集めに夢中で、村を救っているなどとは思いもしない。
そして、モロヤ村の冒険者たちも、まだその事実に気づいていなかった。
翌日、ユウマたちが村へ到着したとき、どんな顔をされるのか。
そんなことを知る由もなく、三人は気持ちよく眠りについた。




