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第26話 セリアの爆炎魔法


 大森林。


 カイルたち十人の兵士は、魔獣や魔物に囲まれていた。


 カイルは大きな盾を構え、仲間たちを背にして立っていた。


「くそっ……まだ来るのか!」


 兵士の一人が叫ぶ。


 倒しても、倒しても、森の奥から新たな魔物が現れる。


 兵士たちは傷だらけで、武器を持つ手にも力が入らなくなっていた。


「カイル、もう無理だ! これ以上は戦えない!」


「……分かっている」


 カイルは息を切らしながら答えた。


 自分も限界だった。


 盾を構える腕は震え、足元もふらついている。


 それでも、後ろにいる仲間たちを見捨てることはできなかった。


「せめて、お前たちだけでも逃げろ……」


「そんなことできるわけないだろ!」


 仲間の兵士が声を荒らげた。


 そのとき、魔物の群れが一斉に襲いかかってきた。


「来るぞ!」


 カイルは盾を構え直した。


 しかし、もう身体が思うように動かない。


 誰もが、ここまでかと諦めかけた――その瞬間だった。


「そこまでよ!」


 女性の声が森に響いた。


 次の瞬間、強烈な爆発音が鳴り響く。


 ドォォォンッ!


 目の前が真っ赤な炎に包まれ、魔獣や魔物の群れが吹き飛ばされた。


「な、何だ!?」


 カイルたちが驚いて顔を上げる。


 炎の向こうから、数人の冒険者を引き連れた女性が現れた。


「みんな、無事!?」


 女性は周囲を見渡した。


「お前は……?」


 カイルが呆然と呟く。


「私はセリア。冒険者よ。話は後!」


 セリアはすぐに冒険者たちへ向き直った。


「みんな! 兵士たちを連れて、まずは撤退するわよ!」


「セリアさん、お任せください!」


 冒険者たちは負傷した兵士たちに駆け寄った。


「肩を貸すぞ!」


「歩けるか? 無理なら担いでいく!」


「すまない……助かる」


 兵士たちは冒険者たちに支えられながら、森の出口へ向かい始めた。


 カイルも盾を背負い、最後まで仲間を気にかけながら歩き出す。


 セリアはその場に残り、追いかけてくる魔物たちを警戒していた。


「……さすがに多すぎるわね」


 彼女は森の奥を見つめた。


 今の爆炎魔法で、かなりの魔物を吹き飛ばしたはずだった。


 だが、魔物の気配はまだ途切れない。


「この数じゃ、第5魔法を撃ち込んだら、冒険者たちまで巻き込んでしまうわ」


 セリアは真顔で呟いた。


 彼女は魔王ゼルヴァートの側仕え、セシリア。


 今は冒険者の魔法使いとして潜入し、セリアと名乗っていた。


 魔王から命じられたのは、モロヤ村の人々を救うこと。そして、人間側の状況を調べることだった。


 だが、実際に大森林へ入ってみれば、想像以上の魔物が集まっていた。


「まずは村へ戻る。今はそれが先ね」


 セリアは冒険者たちの後を追った。


     ◇◇◇


 オゴ地方、モロヤ村。


 村の入口では、冒険者たちが武器を手に魔物の襲撃に備えていた。


 普段は魔物の出現も少なく、平穏な村だった。


 そのため、立派な防御壁もなく、魔物の大群を迎え撃つ準備などできていなかった。


「また来たぞ!」


 冒険者の一人が叫ぶ。


 村の外から、スライムやウルフをはじめとした魔物が次々と現れる。


「弱い魔物ばかりとはいえ、数が多すぎる!」


「もう何度目だよ……!」


 冒険者たちは疲れ切っていた。


 依頼を受けて集まった冒険者たちは、村人を守るために戦い続けていた。


 しかし、魔物の数は減るどころか、増えているようにさえ感じられる。


「くそっ、これじゃきりがない!」


 一人の冒険者が剣を振るい、迫ってきたウルフを倒した。


 だが、その直後、別の魔物が横から飛びかかってくる。


「危ない!」


 仲間が盾で受け止めたものの、衝撃で地面に膝をついた。


「大丈夫か!?」


「ああ……まだ動ける」


 そう答えた男の腕からは、血が流れていた。


 負傷者も増えている。


 回復役の冒険者たちも休む暇がなく、魔法を使う力が残り少なくなっていた。


「このままじゃ、俺たちも限界だぞ……」


「だからって、村人を見捨てられるか!」


 別の冒険者が叫んだ。


「俺たちが守らなきゃ、誰がこの村を守るんだ!」


 その言葉に、周囲の冒険者たちは黙ってうなずいた。


 彼らも怖い。


 このまま戦い続ければ、自分たちが倒れるかもしれない。


 それでも、村の中には逃げ遅れた人々がいる。


 守るべき人たちがいる。


 だからこそ、誰も武器を下ろさなかった。


 やがて、セリアたちが村へ戻ってきた。


「セリアさん! そちらはどうでしたか?」


「大森林の魔物は、まだまだ増え続けているわ。今は無理に奥へ進むべきじゃない」


 セリアは負傷した兵士たちを村人に預けると、冒険者たちを見渡した。


「みんなも無理はしないで。まずは負傷者の手当てを優先して」


「分かりました!」


 冒険者たちは返事をした。


 しかし、誰もが疲労を隠せずにいた。


 セリアは村の外に広がる森を見つめた。


「……急がないと」


 魔物の群れは、今もこちらへ向かっている。


 このままでは、モロヤ村も危険だった。


     ◇◇◇


 一方、その頃――。


 ユウマたちは、オゴ地方へ向かう街道をのんびりと歩いていた。


「そろそろタープを使いたいよなあ」


 ユウマが背負った荷物を揺らしながら言った。


「せっかく作ってもらったんだし、広げてみたいんだよ」


「まあ、そうね」


 リリアは周囲の景色を眺めながら答えた。


「依頼は受けたけど、今のところ、それほど深刻な感じもしないしね」


「そうだな。弱い魔物が多いなら、素材を集めながら進めばいい」


 ユウマは気楽に笑った。


 ミーナは二人の少し後ろを歩いていたが、ふと思い出したように口を開いた。


「ユウマさん、あの……」


「ん? どうした?」


「そろそろ、おいしいものが食べたいです」


「ははっ、なんだ、そんなことか」


 ユウマは笑った。


「ミーナ、俺のことは呼び捨てでいいよ。仲間なんだから」


「えっ……でも、ユウマさんは年上ですし……」


「気にしなくていいって。リリアだって呼び捨てだろ?」


「そうね。今さら気にすることでもないんじゃない?」


 リリアがくすくす笑う。


 ミーナは少し迷ってから、小さく口を開いた。


「……ユウマ」


「うん?」


「おいしいもの、お願いします!」


 その言葉に、ユウマは思わず吹き出した。


「あははっ! 分かった、任せておけ!」


「ふふっ。ミーナ、すっかり馴染んできたわね」


「そ、そんなことないです!」


 ミーナは顔を赤くした。


 三人の笑い声が、街道に響く。


 彼らの目的地、モロヤ村では、すでに冒険者たちが限界を迎えつつあった。


 セリアも、村を守るために必死で動いている。


 だが、ユウマたちはまだ、その危機を知らない。


「明日には到着できそうだな。今日は焦らず、のんびり行こう」


 ユウマは空を見上げ、気持ちよさそうに伸びをした。


 その先に待ち受けるものが何なのか。


 三人はまだ、知る由もなかった。

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