第24話 焼肉と合成の手袋
コクウ村の冒険者ギルド。
ユウマたちは掲示板の前で、受けられそうな依頼を探していた。
「おっ、これなんか良さそうだな」
ユウマが一枚の依頼書を指さした。
「初心者向け、オゴ地方の魔物討伐。弱い魔物が大量発生しているため、討伐できる冒険者を募集……か」
リリアが依頼書を読み上げる。
「素材集めにも最適って書いてあるね」
「スライムやウルフが多いのかもしれないな。素材も手に入りそうだし、ちょうどいいんじゃないか?」
ユウマは依頼書を見ながら考えた。
旅を続けるには資金も必要だ。魔物を討伐しながら素材を集められるなら、一石二鳥である。
「ただ、大量発生っていうのが少し気になるわね」
リリアは依頼書を見つめた。
「普段より数が多いだけならいいけど、何か理由があるのかもしれない。でも、今の私たちなら大丈夫かな」
「私は、どこへでもついていきます!」
ミーナが少し緊張した様子で答えた。
以前は実力を発揮出来なく、自信をなくしていたミーナだが、今は自分から一緒に行きたいと言えるようになっていた。
「よし。それじゃあ、この依頼を受けよう」
ユウマは受付へ向かおうとしたが、途中で足を止めた。
「いや、ちょっと待った」
「どうしたの?」
「ミーナも仲間になったし、回復役がいるのは心強い。でも、大量発生っていうのが気になるから、出発前に準備をしておきたい」
「準備って?」
「イルティ村で薬草を採取して、ポーションを作っておこう。それから、三人で戦うときの動きも確認したいな」
リリアは納得したようにうなずいた。
「そうね。私たち三人のフォーメーションも確認しておきたいわ」
「フォーメーション……ですか?」
ミーナが首をかしげた。
「誰が前に出て、誰が後ろから支援するかってことだよ。お互いの役割を決めておけば、戦闘中も動きやすいだろ?」
「なるほど。分かりました!」
三人は依頼を受ける手続きを済ませ、コクウ村を後にした。
◇◇◇
イルティ村へ向かう街道。
道中では、何度かスライムやウルフと遭遇した。
「ユウマ、右から来るわよ!」
「分かった! ミーナ、後ろを頼む!」
「はい!」
ユウマがスライムを引きつけ、リリアが魔法で攻撃する。
その間に、ミーナは二人の様子を見ながら支援魔法を唱えた。
「ヒール!」
温かな光がユウマたちを包み込む。
さらに、ウルフが飛びかかってきた瞬間、ミーナは続けて魔法を放った。
「ダメージ軽減!」
魔法の効果を受けたユウマが、ウルフの攻撃を受け止める。
「おっ、助かった!」
ユウマは体勢を立て直し、ウルフを退けた。
その後も三人は連携しながら、残った魔物を討伐していった。
「ふう……。これで終わりかな」
ユウマが周囲を確認する。
「うん。ミーナ、落ち着いて戦闘支援ができるようになったね」
リリアが笑顔で声をかけた。
「いえ、まだまだです。少しずつ慣れてきただけですから」
ミーナは照れくさそうに頬をかいた。
「でも、前よりずっといいよ。二人の動きを見て、必要なときに魔法を使えていたし」
「ありがとうございます。もっと頑張ります!」
ミーナの表情が明るくなった。
ユウマは倒した魔物から素材を回収していく。
スライムからは粘液、ウルフからは毛皮と食肉が手に入った。
「よし、素材も十分だな」
ユウマは袋に素材をしまいながら、ウルフの食肉を見つめた。
「今日は焼肉だな!」
「……焼肉?」
リリアとミーナが、同時に首をかしげた。
「えっ?」
今度はユウマが二人を見た。
「焼肉って、知らないのか?」
「お肉を焼くのは知っているけど……焼肉って、何か特別な料理なの?」
「いや、特別っていうほどでもないけど……」
ユウマは少し考えてから説明した。
「鉄板で肉を焼いて、好みのタレにつけて食べるんだよ。肉だけじゃなくて、野菜を一緒に焼いてもいいし」
「好きなタレにつけて食べるの?」
リリアの目が輝いた。
「それは美味しそうね!」
「私も食べてみたいです!」
ミーナも嬉しそうに声を上げた。
「よし、決まりだな。せっかくウルフの肉が手に入ったんだ。夕食は焼肉にしよう!」
◇◇◇
イルティ村の近くまで来た頃、ユウマたちは道沿いで薬草を採取した。
必要な分を集め終えると、村へ向かい、一晩泊まることにした。
夕食はもちろん、焼肉だった。
ユウマが鉄板代わりの調理器具を用意し、切り分けたウルフの肉を焼いていく。
ジュウッ――。
肉が焼ける音とともに、香ばしい匂いが広がった。
「いい匂い……!」
リリアが待ちきれない様子で身を乗り出す。
「まだだぞ。もう少し焼いてからな」
ユウマは肉をひっくり返し、焼き上がったものを皿に取り分けた。
「はい、どうぞ」
「いただきます!」
リリアは肉をタレにつけて口に運んだ。
「おいしい!」
「本当ですね。お肉とタレがよく合っています」
ミーナも幸せそうに頬を緩めた。
「気に入ってもらえてよかったよ」
ユウマは二人の様子を見ながら、自分の分の肉を焼いた。
旅先で見つけた食材を、みんなで調理して食べる。
こういう時間も、旅の楽しみのひとつだった。
◇◇◇
夜。
リリアとミーナが寝静まった頃、ユウマは宿の部屋で一人、合成スキルを使っていた。
「さて、久しぶりにポーションでも作るか」
昼間に採取した薬草を取り出し、合成を始める。
素材が光に包まれ、ポーションへと変わっていった。
「よし、完成!」
ユウマはできあがったポーションを確認する。
必要な分は確保できそうだった。
「……それにしても、合成って不思議だよな」
つい夢中になって、次の素材にも手を伸ばしてしまう。
そのときだった。
「ん?」
ステータスを確認していたユウマの目に、新しい表示が飛び込んできた。
そこには、見覚えのない合成レシピが追加されていた。
**ウルフの毛皮+スライムの粘液=手袋**
「手袋? こんなレシピもあるのか」
ユウマは昼間に手に入れた素材を取り出した。
「試してみるか……」
ウルフの毛皮とスライムの粘液を組み合わせる。
素材が淡く光り、少しずつ形を変えていく。
やがて、丈夫そうな手袋が完成した。
「おお、できた!」
ユウマはさっそく鑑定してみた。
――ウルフの手袋。
防御+5α
耐熱・防水
「防御に、耐熱と防水か……。焚き火や調理をするときにも使えそうだな」
数字の後ろについているαが気になったが、今は意味が分からない。
「まあ、使ってみれば分かるか」
ユウマは手袋を眺めた。
「せっかくだし、リリアとミーナの分も作っておこう」
残っていた素材を使い、二人の分も合成する。
三人分の手袋が完成した頃には、窓の外が少し明るくなり始めていた。
「……あれ?」
ユウマは窓の外を見て、慌てて立ち上がった。
「もう朝!? まずい、寝ないと!」
慌ててベッドに潜り込んだものの、時すでに遅し。
ユウマはそのまま、深い眠りに落ちてしまった。
◇◇◇
「ユウマ! いつまで寝ているのよ!」
「うわっ!」
リリアの声に、ユウマは飛び起きた。
「ご、ごめん! ちょっと夜更かしを……」
「ちょっと? もう朝よ!」
リリアは呆れた顔で腕を組んだ。
「合成に夢中になっていたら、いつの間にか朝になっていて……」
「もう。そんなことをしていたら、旅の途中で寝不足になるわよ」
「はい……。気をつけます」
ユウマは素直に頭を下げた。
その様子を見ていたミーナが、くすりと笑った。
「でも、何か作っていたんですよね?」
「ああ、そうそう。二人に渡したいものがあるんだ」
ユウマは袋から手袋を取り出し、二人に差し出した。
「これ、昨日手に入れた素材で作ったんだ。よかったら使ってくれ」
「手袋?」
リリアは受け取ると、さっそく手にはめてみた。
「へえ、ぴったりね!」
ミーナも両手にはめ、指を動かしてみる。
「ありがとうございます。大切に使います!」
「そんな大げさな。合成で作っただけだからさ」
ユウマは照れくさそうに笑った。
「それにしても、防御力が上がる手袋って便利よね」
リリアは自分の手を眺めながら、ステータスを確認した。
「防御+5α……。このαって何かしら?」
「それが、俺にも分からないんだよな」
ユウマは首をひねった。
「まあ、使っていくうちに分かるかもしれないね」
「そうね。せっかくだから、ありがたく使わせてもらうわ」
三人は身支度を整え、宿を出る準備を始めた。
新しい手袋も手に入った。
ミーナの支援魔法にも、少しずつ磨きがかかっている。
「それじゃあ、出発しよう!」
ユウマの声に、リリアとミーナがうなずいた。
「次はオゴ地方ね!」
「はい。頑張ります!」
三人はイルティ村を後にし、魔物が大量発生しているというオゴ地方へ向けて歩き出した。




