第23話 魔王の決断
魔王城。
セシリアは、魔王ゼルヴァートの前で膝をついた。
「魔王様、ご報告があります」
「申してみよ」
「大森林でスタンピードが発生しました。大量の魔物がハーン地方へ向かっています」
「ついに起きたか……」
ゼルヴァートは険しい表情を浮かべた。
「さらに、ハーン領主は自分たちの被害を避けるため、オゴ地方のモロヤ村を犠牲にしようとしているようです」
「民を見捨てるというのか」
ゼルヴァートは深いため息をついた。
「魔族も魔獣や魔物には長年悩まされてきた。人間たちも同じはずなのだがな……」
「それと、人間の中には、魔物の大量発生を魔王軍の仕業だと考えている者もいるようです」
「何だと?」
ゼルヴァートは眉をひそめた。
「我々が魔物を操っているというのか。まったく、困ったものだ」
しばらく考えたあと、ゼルヴァートは立ち上がった。
「まずは大森林の状況を調べる。ダークエルフたちを呼べ」
「はっ!」
◇◇◇
しばらくして、調査に向かっていたダークエルフたちが魔王城へ戻ってきた。
「魔王様、ご報告いたします」
「聞かせてくれ」
「結界の外では、魔獣や魔物が増え続けています。大森林の奥には、強力な魔獣や魔物が現れているようです」
「それで、弱い魔物が森から出てきているのか」
「はい。このままでは、さらに多くの魔物が人間の領地へ流れ込む恐れがあります」
「報告ご苦労だった」
ダークエルフたちを下がらせると、ゼルヴァートは頭を抱えた。
「さて、どうしたものか……」
そのとき、部屋にいたエルフの長老が口を開いた。
「魔王よ。ひとつ提案がある」
「聞かせてくれ、長老」
「この機会に、魔族が人間に敵意を持っていないことを示してはどうだろうか。魔物の討伐に協力すれば、誤解を解くきっかけになるかもしれぬ」
「なるほど……」
ゼルヴァートはダークエルフたちに目を向けた。
「お前たちはどう考える?」
ダークエルフの一人が一歩前に出た。
「まずは魔族領側から、大森林の魔獣や魔物を討伐します。そのうえで、セシリア殿にモロヤ村へ向かっていただき、人間側の状況を確認してもらうのはいかがでしょうか」
「ふむ」
「我々も別の方向から魔物を追い込み、人間側と挟み撃ちにできれば、被害を抑えられるはずです」
ゼルヴァートは静かにうなずいた。
「よし、その方針で進めよう」
そして、セシリアへ向き直った。
「セシリアよ。まずは冒険者ギルドへ、この手紙を届けてくれ。その後、モロヤ村へ向かい、人々に被害が出ないよう支援するのだ」
「承知しました、魔王様」
「長老、助言に感謝する」
「民を守るのは、我らの務めであろう」
長老は穏やかに答えた。
ゼルヴァートは部屋に控える兵士たちへ命じた。
「ダークエルフ族、リザード族、オーガ族に伝えよ。大森林の魔物討伐に備え、戦闘準備を整えるのだ!」
「はっ!」
兵士たちが一斉に駆け出した。
◇◇◇
魔王城の外では、次々と魔族たちが集まり始めていた。
ダークエルフたちは弓や装備を整え、リザード族は武器を手に取り、オーガ族は大きな盾や武器を担いでいる。
久しぶりの大規模な戦闘準備に、魔族たちの表情は明るかった。
「大森林の魔物を討伐するのか!」
「腕が鳴るな!」
「よし、今度こそ思い知らせてやる!」
あちこちから威勢のいい声が上がる。
ゼルヴァートは城の窓から、その様子を見つめていた。
「戦うためではなく、守るために力を使う……か」
静かに呟き、拳を握る。
「人間たちが我々をどう思おうと、目の前で苦しむ民を見捨てるわけにはいかぬ」
魔族領は、久しぶりの戦いに向けて動き出した。
その目的は、人間との争いではない。
大森林の魔物を討伐し、モロヤ村の人々を守ること。
そして、魔族と人間が手を取り合う未来への、小さな一歩を踏み出すことだった。




