第22話 ガルド商店と新たな依頼
コクウ村の朝。
ユウマたちは、完成したタープとマントを受け取るため、ガルド商店を訪れていた。
「おう、待っていたぞ!」
店の奥から現れたガルドが、満足そうな顔で大きな布袋を差し出した。
「これがタープだ。こっちがマントだな」
ユウマが袋からタープを取り出し、広げてみる。
丈夫な布地に、雨を弾くための工夫が施されている。これなら野営のときにも安心して使えそうだ。
続いてマントを手に取る。こちらは保温性を意識した作りになっており、肌寒い夜の旅でも役立ちそうだった。
「おお……! いい感じですね」
「だろう? こういう道具は、ありそうでなかったんだよ」
ガルドは胸を張った。
「特にこのタープは、魔物討伐や遠征にも役に立つはずだ。野営場所を選びやすくなるし、雨をしのぐのにも使える。冒険者にも需要があると思うぞ」
「ありがとうございます。ところで、お代はいくらになりますか?」
ユウマが財布を取り出そうとすると、ガルドは片手を上げて制した。
「いや、金を払うのはこっちだ」
「……え?」
思わずユウマの手が止まった。
「タープの製作方法と販売する権利を、俺に譲ってくれないか? その代わり、今回の製作費はいらない。いや、むしろ、こっちから金を払わせてほしいんだが」
「ええっ!?」
ユウマは目を丸くした。
隣では、リリアが楽しそうに笑っている。
「良かったじゃない、ユウマ」
「確かに、そういう話なら……」
ユウマは少し考えてから、ガルドに確認した。
「つまり、ガルド商店だけでタープを製作して販売する。その権利を譲ってほしい、ということですよね?」
「そういうことだ! 話が早くて助かるな」
ガルドは大きくうなずいた。
「ユウマって、交渉がうまいよね」
リリアが感心したように言う。
「いや、営業マンの経験もあるからね」
「えいぎょうまん?」
「営業マン?」
リリアとミーナが、そろって首をかしげた。
「ああ、こっちの世界にはない仕事か……」
ユウマは苦笑した。
「まあ、物を売ったり、相手と条件を相談したりする仕事だよ」
「なるほど。ユウマらしいわね」
リリアは納得したようにうなずいたが、ミーナはまだ少し不思議そうな顔をしていた。
「それで、どうするんだ?」
ガルドが話を戻す。
「いいですよ。ガルドさんが独占して販売してください」
「よし、交渉成立だな!」
ガルドは満面の笑みを浮かべた。
「では、権利の代金として金貨二百枚でどうだ?」
「に、二百枚!?」
今度はユウマだけでなく、ミーナまで驚いた。
ユウマは頭の中で、こちらの世界の物価を思い浮かべる。
(日本円にすると……ざっくり二百万円くらいの感覚かな? もちろん、物価が違うから単純には比べられないけど)
旅を続けるための資金としては、かなり大きな金額だ。
「……分かりました。よろしくお願いします」
ユウマは差し出された金貨を受け取った。
ずっしりとした重みが、袋越しにも伝わってくる。
「いやあ、いい取引ができた! これなら冒険者たちにも喜んでもらえるはずだ」
ガルドは満足そうに腕を組んだ。
「また何か面白い物を作りたくなったら、いつでも寄ってくれ。できる限り協力するぞ」
「ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします」
ユウマは深々と頭を下げた。
タープとマントを受け取ったうえに、思いがけない収入まで得られた。
旅の道具も少しずつ充実してきた。これからの旅が、ますます楽しみになってくる。
そのとき、ガルドが何かを思い出したように口を開いた。
「そうそう。ギルドで初心者向けの魔物討伐依頼が出ているらしいぞ」
「初心者向けですか?」
「ああ。弱い魔物が大量に発生しているとかでな。数が多いから、討伐できる冒険者を広く募集しているそうだ」
「なるほど……」
ユウマはリリアとミーナを見た。
「どうする? ちょうど旅の資金もできたことだし、依頼を確認してみようか」
「いいんじゃない? せっかくだし、行ってみましょう」
「私も賛成です。少しずつ、冒険者としての経験を積んでいきたいですし」
二人の返事を聞き、ユウマはうなずいた。
「それじゃあ、ギルドに行ってみよう」
「おう。気をつけてな!」
「ありがとうございました!」
三人はガルドに別れを告げ、冒険者ギルドへと向かった。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
その依頼が、単なる魔物討伐ではないことを。
そして、自分たちがすでに誰かの思惑に巻き込まれようとしていることも。
◇◇◇
ハーン領、領主の館。
「例の件は、どうなっている?」
豪華な椅子に腰かけたハーン領主が、部下に尋ねた。
「はい。冒険者ギルドを通じて、モロヤ村周辺に発生した魔物の討伐依頼を出しております」
「そうか……」
領主は口元を歪めた。
「ユウマという旅人と、リリアという少女。あの二人が依頼を目にすれば、モロヤ村へ向かう可能性は高いだろう」
「はい。実力のある冒険者であれば、魔物の大量発生を放っておくことはないかと」
「ならば、そこで捕らえる」
領主は机の上で指を組んだ。
「旅人のユウマは、妙な道具を作り出す知恵を持っている。リリアという少女にも、何か秘密がありそうだ。あの二人を手に入れれば、我が軍にとって大きな利益になる」
「しかし、相手の実力は未知数です」
「だからこそ、村の魔物を利用するのだ。討伐に向かったところを包囲すればいい」
領主は窓の外へ目を向けた。
「依頼を受ける冒険者は、ほかにもいるのだろう?」
「はい。複数の冒険者が向かう見込みです」
「ならば、その混乱に乗じて二人を捕らえろ。余計な邪魔が入らぬよう、手配しておけ」
「かしこまりました」
部下が頭を下げ、部屋を出ていく。
一人になった領主は、薄く笑った。
「旅人風情が、好き勝手に動けると思うなよ」
その笑みの奥には、ユウマたちを利用しようとする欲望が隠されていた。
だが、領主はまだ知らない。
自分が仕掛けた罠の先に、予想もしない事態が待ち受けていることを。




