第19話 新しい仲間とジャーニーメイツ
アメの実を採取したユウマたち三人は、コクウ村へと戻ってきた。
「やっと着いたね」
ミーナが村の入り口を見ながら、ほっと息を吐く。
「そうだな。まずはガルドさんのところに行こう」
「うん!」
ユウマを先頭に、三人はガルド商店へ向かった。
店の扉を開けると、奥からガルドが顔を出した。
「おう! 戻ったか!」
「戻りました」
「おお、無事だったようだな……って、あれ?」
ガルドはユウマとリリアの隣にいるミーナを見て、首を傾げた。
「新しいお嬢ちゃんがいるじゃねえか」
「初めまして。ヒーラーのミーナです」
ミーナは少し緊張しながら頭を下げた。
「ほう、ヒーラーか。そりゃ心強いな!」
ガルドは豪快に笑った。
「それで、アメの実は採れたのか?」
「はい。ちゃんと持って帰ってきました」
ユウマは収納バッグから瓶を取り出した。
中には、採取したスライムの粘液が入っている。
続いて、青く輝くアメの実を机の上に並べた。
「おお、十分な量があるじゃねえか!」
「これでタープを作れそうですか?」
「材料は揃ったな。あとは加工次第だ」
ガルドはアメの実を手に取り、光にかざした。
「こいつは鮮度が命だからな。よく無事に持ち帰ったもんだ」
「収納バッグのおかげですね」
「まったくだ」
ガルドは納得したように頷いた。
その時、ユウマはもう一本の瓶を取り出した。
「そういえば、これも見てもらえますか?」
「ん? まだ何かあるのか?」
ガルドが瓶の中を覗き込む。
次の瞬間、目を大きく見開いた。
「おいおい! こいつはレッドスライムの粘液じゃねえか!」
「レッドスライム?」
ミーナが不思議そうに瓶を覗く。
「普通のスライムとは違うんですか?」
「ああ。レッドスライムは、体内に熱を蓄える性質があるんだ。粘液そのものは微量でも、発熱と保温に優れている」
「へえ……そんな素材なんですね」
ユウマは感心しながら瓶を眺めた。
「何かに使えますかね?」
「そうだな……」
ガルドは腕を組んで考え込んだ。
「丈夫な布にレッドスライムの粘液を加工すれば、ちょっとした寒さ対策になるマントが作れそうだ」
「本当ですか?」
「ああ。真冬の山を越えるような防寒具にはならんが、朝晩の冷え込みを和らげるくらいなら期待できるだろう」
ユウマはリリアとミーナを見た。
「それなら、ぜひお願いしたいです」
「おう! 面白そうな仕事だ。喜んで引き受けるぜ!」
ガルドは嬉しそうに笑った。
「ただし、素材の量が少ないからな。まずは一着、試作品を作ってみよう」
「ありがとうございます!」
ユウマは頭を下げた。
タープだけでなく、旅に役立つ道具まで作れそうだ。
異世界での生活が、少しずつ便利になっていく。
そう考えると、ユウマの胸も弾んだ。
◇
「ところで、ガルドさん」
ユウマはタープの材料を机の上に並べた。
丈夫な布。
スライムの粘液。
そして、アメの実。
「ちょっとだけ試してみたいことがあるんです」
「試す?」
「はい。うまくいけば、タープを作れるかもしれないので」
ユウマは三つの材料を見つめた。
これまで、ステータスオープンで素材の情報を確認することは何度もあった。
けれど、素材そのものを組み合わせて、新しい道具を作れるかどうかは試したことがない。
もしできるなら、旅の役に立つものを自分で作れるかもしれない。
「ステータスオープン」
ユウマの目の前に、見慣れた表示が浮かび上がった。
素材の情報を確認する。
だが――。
「……あれ?」
何も変化は起きなかった。
新しいタープの表示も、生成できるという案内も出てこない。
「駄目か……」
ユウマは小さく息を吐いた。
もしかすると、素材を組み合わせるだけでは駄目なのだろうか。
それとも、今回のような大きな道具は生成できないのか。
「うーん……」
しばらく考えたあと、ユウマは顔を上げた。
「まあ、今回はどちらにしてもガルドさんにお世話になったし、お願いするつもりだったからな」
自分で何でもできるわけではない。
それなら、できる人に頼ればいい。
前の世界でも、道具を作るには材料や技術が必要だった。
異世界でも、それは変わらないのだろう。
「ガルドさん、タープのほうもお願いします」
「おう、任せとけ!」
ガルドは材料を確認しながら頷いた。
「タープと保温マント、両方となると少し時間がかかる。三日間は時間をもらいたい」
「三日ですね。分かりました」
「できるだけ使いやすいものに仕上げてやるよ」
「楽しみにしています!」
三人はガルドに礼を言い、商店を後にした。
◇◇◇
村の通りを歩きながら、ユウマはふと思い出したように口を開いた。
「そうだ、リリア」
「なに?」
「ミーナのことなんだけどさ」
ミーナは二人の会話を聞いて、少し不安そうに顔を上げた。
「リリアが問題なければ、ミーナを正式にパーティメンバーに迎えたいと思っているんだけど、どうかな?」
リリアは一瞬きょとんとしたあと、にっこり笑った。
「いいんじゃない?」
「本当に?」
「旅は道連れ、でしょ? 私はオーケーよ」
「そっか。ありがとう」
ユウマは安心したように頷き、ミーナへ向き直った。
「ミーナはどうかな? 俺たちと一緒に旅を続けてくれる?」
「……え?」
ミーナは目を見開いた。
そして、しばらくユウマとリリアを見つめていたが――。
「うっ……ううっ……」
突然、涙をこぼし始めた。
「えっ!? ミーナ!?」
「ちょ、ちょっと! どうしたの!?」
ユウマとリリアは慌ててミーナのそばに駆け寄った。
「ご、ごめんなさい……!」
ミーナは涙を拭いながら、何度も首を横に振った。
「嬉しくて……嬉しくて……」
「嬉しい?」
「私……何をやっても駄目で……うまく役に立てなくて……」
声が震える。
「だから、もう誰かと一緒に旅をするなんて、無理なのかなって思っていました……」
ミーナは二人を見上げた。
「そんな私を、仲間にしてくれるなんて……」
「ミーナ……」
ユウマは、ほっと胸を撫で下ろした。
どうやら、悲しくて泣いていたわけではないらしい。
リリアも安心したように微笑んだ。
「もう、びっくりさせないでよ」
「ご、ごめんなさい……」
「謝らなくていいよ」
ユウマは優しく笑った。
「俺だって、最初は何もできなかったんだから」
すると、リリアがすかさず口を挟んだ。
「そうそう。最初に会った時のユウマなんて、本当に何もできなかったんだから!」
「リリア、ひどくない!?」
「だって本当でしょ?」
「いや、まあ……否定はできないけどさ!」
ユウマが肩を落とすと、ミーナも思わず笑い出した。
さっきまで流していた涙は、いつの間にか笑い涙に変わっていた。
三人の間に、温かな空気が流れる。
これから先、楽しいことばかりではないだろう。
強い魔物と戦うこともあるかもしれない。
失敗して、困って、誰かに助けてもらうこともあるだろう。
それでも――。
一緒に旅をする仲間がいる。
それだけで、心強かった。
◇◇◇
三人は冒険者ギルドへ向かった。
受付で手続きを済ませ、ミーナが正式にパーティメンバーとして登録される。
「これで、私も正式な仲間ですね……!」
ミーナは登録内容を確認しながら、嬉しそうに微笑んだ。
「ああ。これからよろしくな」
「よろしくね、ミーナ!」
「はい! よろしくお願いします!」
ユウマは二人を見て、ふと思いついたように言った。
「そういえば、俺たちのパーティ名って、まだ決めてなかったよな?」
「パーティ名?」
リリアが首を傾げる。
「三人になったことだし、名前を決めてもいいんじゃないかと思ってさ」
「いいね!」
ミーナも興味津々で頷いた。
「それで、何か考えてあるの?」
「うん。ジャーニーメイツっていうのはどうかな?」
「ジャーニーメイツ……?」
リリアが言葉を繰り返す。
「旅の仲間、っていう意味だよ」
ユウマは少し照れくさそうに笑った。
「俺たちにぴったりかなと思って」
リリアは一度ミーナを見て、それからユウマに向き直った。
「いいじゃない。旅仲間って感じで、私は好きよ!」
「私も素敵だと思います!」
ミーナも笑顔で頷いた。
「じゃあ、決まりだな」
ユウマは嬉しそうに笑った。
「パーティ名、ジャーニーメイツ!」
三人は顔を見合わせた。
こうして、ユウマ、リリア、ミーナの三人によるパーティ――◈◈ジャーニーメイツ◈◈がが誕生した。
◇◇◇
「今日はお祝いだな!」
ギルドを出たユウマが、元気よく言った。
「お祝い?」
「ミーナが正式に仲間になった記念だよ。せっかくだから、ちょっといいものを食べよう」
「賛成!」
リリアは即答した。
「私も……いいんですか?」
ミーナが遠慮がちに尋ねる。
「もちろん。これからは仲間なんだから、遠慮しなくていいよ」
「……はい!」
ミーナは嬉しそうに頷いた。
三人は村の食堂へ向かい、温かい料理を囲んだ。
旅の話をして、失敗談を笑い合い、これから行きたい場所について語り合う。
リリアは料理を次々と口に運び、ユウマは呆れながらも追加の注文をする。
ミーナはそんな二人を見て、楽しそうに笑っていた。
食事を終える頃には、すっかり打ち解けていた。
「そういえば、明日から三日間はどうするの?」
リリアが尋ねた。
「タープとマントができるまで、ここでゆっくりできそうだな」
ユウマは少し考えてから、手を叩いた。
「そうだ! 明日はガルド商店で、調理用の鍋や包丁を買おう」
「鍋と包丁?」
「そう。これから野宿することも多いだろ? ちゃんとした調理道具があれば、料理の幅も広がるからな」
「それは楽しみ!」
リリアの目が輝く。
「私も料理のお手伝いをします!」
ミーナも張り切って手を挙げた。
「おお、頼もしいな」
ユウマは笑った。
タープに保温マント、そして調理道具。
少しずつ、旅に必要なものが揃っていく。
戦う力だけが、旅人の強さではない。
安全に眠れる場所を作ること。
温かい食事を用意すること。
困った時に助け合える仲間がいること。
それもまた、旅を続けるために必要な力なのだ。
こうしてジャーニーメイツの三人は、コクウ村でしばらく休息を取ることになった。
そしてユウマは、まだ気づいていなかった。
自分の何気ない発想が、この先、思いもよらない出会いへとつながっていくことを――。




