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第18話 アメの実を探して旅


 今日の目的は、村の北東にあるというアメの実の大樹。


 タープを作るためには、どうしても必要な材料だった。


「ユウマ」


 リリアが荷物を確認しながら声をかける。


「なに?」


「ミーナが回復してくれるから、ユウマは短剣でも戦えるようにならないとね」


「そうだな」


 ユウマは腰の短剣を見る。


「強い魔物の前で魔力が空になって倒れたら、どうしようもないからな」


「そういうこと」


 リリアはちらりとミーナを見る。


「ユウマ、魔力切れで気を失ったの、何度もあるんだよ」


「ちょっと待って!」


 ユウマが慌てる。


「何度もって……」


 ミーナは少し困ったように笑った。


「でも、私もまだ駆け出しですし……」


「ミーナも駆け出しなのか?」


「はい」


 ミーナは少し俯いた。


「……追い出されたみたいなものですから」


 その言葉で、空気が少し重くなった。


 ユウマも何と言えばいいのか分からない。


 リリアも黙っていた。


 しばらくして――。


「そしたら」


 リリアが明るい声で言った。


「みんなで一緒だね」


「え?」


 ミーナが顔を上げる。


「ユウマも駆け出し」


「俺は今でも駆け出しみたいなもんだけどな」


「私も駆け出し」


「私も……まあ、旅人としてはまだまだかな」


 三人は顔を見合わせた。


「ふふっ」


「ははっ」


「……あはは」


 いつの間にか、三人とも笑っていた。


「よし!」


 リリアが立ち上がる。


「とりあえず、三人で協力してアメの実を探しに行こう!」


「そうだな」


「はい!」


 森へ入ると、さっそく魔物の気配がした。


「来るよ」


 リリアが注意を促す。


 草むらから現れたのは――。


「レッドスライム!」


 赤い体をしたスライムが、ぷるぷると揺れている。


「よし……」


 ユウマは短剣を抜いた。


「今度は俺がやる」


 レッドスライムに向かって走る。


「おりゃ!」


 短剣を振る。


 しかし――。


 すかっ。


「……」


 外れた。


「もう一回!」


 ぶんっ!


 また外れた。


「くそっ!」


 ユウマは何度も短剣を振る。


 だが、レッドスライムは意外と動きが素早い。


「ユウマ!」


 ミーナが心配そうに声をかける。


「ヒール!」


 淡い光がユウマを包む。


「ありがとう!」


「ヒール!」


「いや、まだ怪我してないぞ!」


「念のためです!」


 ミーナは真剣な顔でヒールを続ける。


「ヒール!」


「ミーナ、俺まだ無傷だから!」


 その様子を見ていたリリアが笑う。


「ユウマ、そこそこ!」


「そこそこって何だよ!」


「剣を前にかざして!」


「こうか?」


 ユウマは短剣を前に突き出した。


 その瞬間――。


 レッドスライムが跳ねた。


「え?」


 ぶすっ!


「……」


 レッドスライムが、短剣の先に突き刺さっていた。


「……あれ?」


 ユウマは目を丸くする。


「もしかして……」


 短剣を見つめる。


「こいつが突っ込んできた時に、剣先を向ければいいのか?」


「そういうことかも!」


 リリアが嬉しそうに言う。


「もう一回やってみて!」


「よし!」


 別のレッドスライムが近づいてくる。


 ユウマは短剣を構える。


「来い……」


 レッドスライムが跳ねた。


「今だ!」


 剣先を前へ。


 ぶすっ。


「やった!」


 レッドスライムが消えていく。


「単体なら……いける!」


 ユウマが嬉しそうに笑う。


「ユウマ、上手!」


「だろ?」


 しかし――。


 次々とレッドスライムが現れた。


「……」


 ユウマの顔が固まる。


「ちょっと待って」


 一匹。


 二匹。


 三匹。


「いや、これは無理だ!」


 ユウマは短剣を振り回す。


「えいっ!」


 すかっ。


「おりゃ!」


 すかっ。


「くそっ!」


 すかっ。


「……」


 リリアが呆れた顔をする。


「仕方ないなぁ」


 リリアは杖を構えた。


「ウインドカッター!」


 風の刃が走る。


 レッドスライムが次々と吹き飛ばされていく。


「よし!」


 周囲が静かになった。


「これなら先へ進めるね」


 リリアが言う。


「日が暮れちゃうから、先を急ぎましょう」


「……」


 ユウマは短剣を握ったまま、少し不満そうだった。


「あと少しでコツがつかめたのに」


「ふふっ」


 ミーナが小さく笑う。


「何だよ、ミーナ」


「いえ……」


 ミーナは笑いながら首を振る。


「ユウマさん、言い訳してるなって」


「……」


「言い訳じゃない!」


 三人はまた笑った。


 その後も森を進んでいく。


 魔物を避けながら、時には戦いながら。


 そして――。


「……あれ?」


 リリアが足を止めた。


「どうしたの?」


「何か見える」


 三人が森の奥へ進む。


 そこには一本の大樹が立っていた。


「すごい……」


 ミーナが息を呑む。


 大樹の枝には、青く輝く雫のようなものが一面についていた。


 まるで木そのものが、青い宝石を実らせているようだった。


「綺麗……」


 リリアも思わず見上げる。


「これ……木の実なの?」


 ユウマも言葉を失った。


 風が吹く。


 青い雫がきらきらと揺れる。


 森の中とは思えないほど幻想的な光景だった。


「宝石みたい……」


 ミーナが呟く。


 三人はしばらく、その美しい光景に見とれていた。


「……」


「……」


「……」


 やがてユウマが我に返る。


「そうだ!」


 ユウマは鑑定を使った。


「ステータスオープン」


 目の前に文字が浮かぶ。


◈◈【アメの実】◈◈


◊◊雨を弾く性質を持つ青い実。◊◊

◊◊防水加工や魔道具の素材として利用される。◊◊


「やっぱりアメの実だ!」


「これが……」


 リリアが木を見上げる。


「たくさんあるね」


「ああ」


 ユウマは大樹いっぱいに実っているアメの実を見る。


「全部持って帰れそうだけど……」


「どうする?」


「使う分だけでいいんじゃないかな」


 ユウマは収納バッグを開いた。


「必要以上に取るのもよくないだろ」


「そうだね」


 ミーナも頷いた。


 三人で必要な分だけ収穫する。


「一、二、三……」


 ユウマが数える。


「三十個くらいあれば十分かな」


「うん」


 アメの実を三十個ほど収穫し、収納バッグへ入れる。


 すると――。


 青い実は一つずつ消えていった。


「……本当に便利なバッグだね」


 ミーナが驚く。


「これなら鮮度も保てるし、安心だ」


 ユウマは満足そうに頷いた。


「じゃあ、コクウ村に帰ろう」


「はい!」


「うん!」


 三人は来た道を戻り始めた。


 目的のアメの実は手に入った。


 あとはコクウ村へ戻り、ガルドに渡すだけ。


 そして――。


 ユウマの考えている「タープ」が、いよいよ形になろうとしていた。


◇◇

その様子を、少し離れた木々の陰から見つめる者がいた。


「……ふう」


 セシリアだった。


 三人から十分に距離を取り、気配を消しながら見守っている。


「リリアお嬢さま……」


 ユウマが短剣を振り回している姿を見て、セシリアは思わず苦笑した。


「危なっかしいですね……」


 しかし、すぐにミーナへ視線を移す。


 ユウマが魔力を使い果たしたとしても、ミーナが回復してくれる。


 それに、リリアにも旅仲間ができた。


「ヒーラーの仲間ができたのは安心です」


 セシリアは小さく息を吐いた。


 魔王城にいた頃のリリアは、自由に外へ出ることもできなかった。


 今は危険もある。


 それでも――。


「お嬢さま、楽しそうですね」


 セシリアは三人の笑い声を遠くから聞いていた。


 そして、静かにその場を離れた。


 向かう先は魔王城。


 しばらくして――。


 魔王城。


「戻ったか、セシリア」


「はい、魔王様」


 セシリアはリリアたちの旅について報告した。


「リリアお嬢さまは、旅人ユウマとミーナというヒーラーと行動を共にしています」


「そうか」


 魔王は少し安心したように頷く。


「リリアは大丈夫そうだな」


「はい。とても楽しそうに旅をしています」


「それならよい」


 魔王は椅子に座り、少し考え込む。


「だが……」


「はい?」


「ハーン地方で不穏な動きがあると聞いた」


 セシリアの表情が変わる。


「ハーン領主ですか?」


「ああ」


 魔王は地図を広げた。


「何かを企んでいる可能性がある」


「……」


「セシリアよ」


「はい」


「ハーン地方へ行け」


 魔王はハーン地方を指差す。


「ハーン領主の動きを調査してくれ」


「承知しました」


「リリアのことも気になるだろうが、まずは向こうの動きを探れ」


「はい」


 セシリアは深く頭を下げた。


「必ず調べてまいります」


 魔王は窓の外を見る。


「リリアが自分の足で旅をしている」


 その声には、わずかな誇らしさがあった。


「ならば、我々も我々の役目を果たさねばならんな」


 セシリアは魔王城を後にする。


 その頃――。


 森から戻るユウマたちは、まだ何も知らない。


 アメの実を手に入れた喜び。


 タープが完成する期待。


 そして、新しくできた三人の仲間との旅。


 その裏側で――。


 ハーン地方では、少しずつ何かが動き始めていた。


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