第17話 ドジなヒーラーと出会う旅
◇◇修道院に未熟と言われたヒーラーがいる。◇◇
その名はヒーラーのミーナ。
小さな切り傷や擦り傷なら治せる。
けれど、以前この地方で疫病が発生したとき――。
ミーナのヒールでは、病気そのものを治すことができなかった。
「ミーナ。あなたには、もっと経験が必要です」
修道院長は、静かに告げた。
「しばらく巡礼の旅に出なさい」
「巡礼……ですか?」
「ええ。各地を巡り、いろいろな人と出会いなさい。そして、自分にできることを見つけるのです」
「……分かりました」
ミーナは素直にうなずいた。
けれど――。
それが事実上の追放だということは、本人にも分かっていた。
疫病が流行したときに役に立てなかった。
それが理由なのだろう。
ミーナは小さな荷物を背負い、修道院を後にした。
「私には大きな力はない……」
街道を歩きながら、ミーナは小さくつぶやく。
「でも……私にもできることはあるはず」
まずは村を巡ってみよう。
傷を治すことしかできなくても、誰かの役に立てるかもしれない。
そんなことを考えながら歩いていると――。
突然、背後から大きな音が聞こえた。
「……?」
ミーナが振り返る。
「えっ?」
そこには、大量の赤いスライムがいた。
「な、なんで……?」
ミーナは慌てて走り出した。
「ごめんなさーーーい!」
◇◇
アメの実を収穫へ向かう道。
ユウマとリリアは、街道から少し外れた森へ向かっていた。
「もう少しでアメの実あるところ着きそうだね」
「ああ。保存もできるし、旅には便利そうだ」
二人がそんな話をしながら歩いていると――。
「……ん?」
ユウマが前方を見た。
何かがこちらに向かって走ってくる。
「なんか女の子が、こっちに向かって走ってくるぞ」
「……女の子?」
リリアが目を細める。
次の瞬間。
「ごめんなさーーーい!」
少女が必死の形相で走ってきた。
その後ろには――。
「……スライム?」
「ちょっと待って」
リリアが目を見開く。
「スライム大量にいるわよ!」
森の奥から、赤いスライムが次々と飛び出してくる。
「えっ?」
ユウマが振り返る。
「多くない?」
「多いどころじゃないわ!」
少女が二人の横を通り過ぎる。
「ごめんなさい! 私、ヒーラーのミーナです!」
「いや、今自己紹介してる場合じゃ――」
「なんでか分からないんですけど、スライムが追っかけてくるんです!」
「それは後で聞く!」
リリアが叫ぶ。
「走って!」
「はい!」
結局、ユウマとリリアもミーナと一緒に走ることになった。
「なんで俺たちまで逃げてるんだ!」
「知らないわよ!」
「私も知りません!」
「ミーナさん!」
「はい!」
「何をしたんだ!」
「何もしてません!」
三人は必死に街道を走った。
しかし――。
前にも赤いスライム。
右にも赤いスライム。
後ろにも赤いスライム。
「囲まれたわね……」
リリアが立ち止まる。
「これ、普通のスライムじゃないわ」
赤い体をしたスライムたちが、ぴょんぴょんと跳ねながら近づいてくる。
「レッドスライムよ。普通のスライムより攻撃的なの」
「攻撃的って……」
ユウマが一匹を見る。
レッドスライムが、
ぴょん。
ぴょん。
ぴょん。
「……可愛くない?」
「来るわよ!」
次の瞬間。
レッドスライムが一斉に飛びかかってきた。
「うわっ!」
ユウマが横に飛び退く。
リリアは杖を構えた。
「私一人なら、周囲に魔法を撃って一気に倒せるんだけど……」
リリアはユウマとミーナを見る。
「今それをやったら、二人まで巻き込むわ」
「じゃあ、どうする?」
「私が後ろのスライムを倒す。ユウマとミーナは正面をお願い!」
「分かった!」
「わ、私もですか!?」
「ヒーラーなんだから、自分の身は自分で守って!」
「そんなぁ!」
レッドスライムが迫る。
「来るぞ!」
ユウマが手を前に出した。
「ファイアボール!」
ボッ!
火の玉が飛んでいく。
レッドスライムに直撃した。
「よし!」
しかし――。
別のレッドスライムが横から飛んできた。
「うわっ!」
ドンッ!
「痛っ!」
ユウマが吹き飛ばされる。
「ユウマさん!」
ミーナが慌てて手をかざす。
「ヒール!」
淡い光がユウマを包む。
「ありがとう!」
「はい!」
ユウマが立ち上がる。
「よし、もう一回!」
「ファイアボール!」
ボッ!
ドンッ!
「ぐはっ!」
「ヒール!」
「ありがとう!」
「ファイアボール!」
ボッ!
ドンッ!
「またか!」
「ヒール!」
「助かった!」
ユウマはファイアボールを撃つ。
レッドスライムが突っ込んでくる。
ユウマが吹き飛ぶ。
ミーナが回復する。
「ファイアボール!」
「ヒール!」
「うわっ!」
「ヒール!」
「ありがとう!」
「ファイアボール!」
「ヒール!」
「……なんか俺、ずっと殴られてない?」
「気のせいです!」
「いや、絶対気のせいじゃない!」
ミーナも必死だった。
ユウマが吹き飛ばされるたびに、
「ヒール!」
「ヒール!」
「ヒール!」
と回復していく。
一方、リリアは後方から迫ってくるレッドスライムを次々と魔法で倒していた。
「そこ!」
ドン!
「次!」
ドン!
「まだいるの!?」
やがてユウマの前にいたレッドスライムが減っていく。
「これで最後だ!」
ユウマが魔力を集中させる。
「ファイアボール!」
大きな火の玉が飛び、最後のレッドスライムを吹き飛ばした。
「……終わった?」
「終わったみたいね」
ユウマはその場に座り込んだ。
「疲れた……」
ミーナもその場にへたり込む。
「私も……」
「ミーナさん」
「はい?」
「ヒール何回使った?」
「……分かりません」
「俺、何回吹っ飛ばされた?」
「……たくさん?」
「だよな……」
ユウマとミーナは顔を見合わせる。
そして二人とも苦笑した。
「大変でしたね」
「うん……」
「でも、ユウマさんが何度も立ち上がってくれたので助かりました」
「いや、ミーナさんが回復してくれたからだよ」
「そうですか?」
「ああ」
二人がそんな話をしていると、リリアがミーナをじっと見ていた。
「……ミーナ」
「はい?」
「ちょっと気になったんだけど」
「何でしょう?」
「あなた、ヒールを小さく使ってなかった?」
「え?」
「普通なら、あれだけの怪我なら一度のヒールでもう少し回復するはずなのに……」
リリアは首を傾げる。
「あなたは、必要な分だけ少しずつ魔力を流していた」
「……そうなんですか?」
「自分では分からないの?」
ミーナは困ったように笑った。
「分かりません……。私、昔から魔力が少ないって言われていたので」
「本当に?」
リリアの問いに、ミーナは少し考える。
「……小さい頃、一度だけ魔力が暴走したことがあります」
ミーナは遠くを見るように話し始めた。
「それからです。魔法を使うときは、なるべく魔力を抑えるようになりました」
「……」
「たぶん、癖になっているんだと思います」
ミーナ自身は、それが普通だと思っていた。
だから気づいていない。
自分が魔力を抑え込みすぎていることに。
リリアはしばらくミーナを見つめていた。
「……なるほど」
「何か分かりました?」
「ううん。まだ分からないわ」
リリアは小さく笑った。
「でも……あなた、本当に魔力が少ないのかしらね?」
「え?」
ミーナは目を丸くした。
ユウマも首を傾げる。
「どういうこと?」
「それは、もう少し様子を見てからね」
リリアはそう言って、街道の先を見る。
「ほら、アメの実を探すんでしょう?」
「あっ、そうだった!」
ユウマが立ち上がる。
「じゃあ、ミーナさんも一緒に探す?」
「いいんですか?」
「ああ。スライムから逃げてきた仲だし」
「そんな仲のなり方あります?」
三人は顔を見合わせた。
そして――。
アメの実を探すため、森の奥へと歩き始めた。
◇◇◇オマケストーリー◇◇◇
レッドスライムとの戦いを終えたユウマたちは、倒したスライムの跡を片付けていた。
「ユウマ、これ何かしら?」
リリアが地面に残った赤い液体を指差す。
「……スライムの粘液?」
ユウマが採取鑑定を使ってみる。
「レッドスライムの粘液……」
「何かに使えるの?」
「えーっと……」
ユウマは鑑定結果を確認する。
「魔力を含んだ粘液で、普通のスライムよりかなり品質がいいみたいだ」
「へえ」
ミーナも興味深そうに覗き込む。
「薬の材料になるんでしょうか?」
「たぶん。でも……」
ユウマは少し考える。
「これ、売ったら結構な値段になるんじゃないか?」
「本当?」
リリアの目が輝く。
「レアアイテム……かも」
「じゃあ、持って帰ろう!」
三人はレッドスライムの粘液を丁寧に採取した。
こうして――。
ユウマたちのアイテムバッグに、新しい素材が一つ加わった。
【レッドスライムの粘液】
その価値を、三人はまだ知らなかった。




