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第16話 材料探しの旅


 ナガイ村で食材を仕入れたユウマとリリアは、買った野菜や小麦を収納バッグへ入れた。


「これで食べ物はしばらく大丈夫だな」


「うん。ウートンも作れるね」


 リリアは嬉しそうに笑う。


 ユウマは収納バッグを見ながら、ふと考えた。


「でも……」


「どうしたの?」


「野宿でも、もう少し快適に寝たいよね」


「ああ……」


 リリアも河原での野宿を思い出す。


「毎回、宿屋に泊まれるわけじゃないしね」


「そうなんだよ」


 ユウマは腕を組んだ。


「テントがあればいいんだけどな」


「テント?」


「雨や風を防ぐためのもの」


 ユウマは地面に簡単な絵を描いた。


「でも、テントは縫い目も多いし、骨組みも必要になる。作るのが結構面倒なんだよな」


「じゃあ、どうするの?」


「妥協して、タープかな」


「タープ?」


 リリアは首を傾げた。


「そう。丈夫な布を使って、二本の棒を立てる。それから四隅をロープで地面に固定する」


 ユウマは地面に絵を描きながら説明する。


「これならテントより簡単に作れる」


「なるほど……」


「ただ、布をそのまま使うと雨が降った時に大変なんだ」


「どうして?」


「防水加工をしないと、布から雨が染み込んでくるから」


「防水加工……」


 リリアは聞き慣れない言葉に戸惑った。


「そんな言葉、初めて聞いた」


「そうか?」


 ユウマは何気なく答える。


「雨を弾くように加工するんだよ」


「ふーん……」


 リリアはユウマを見つめた。


 まただ。


 ユウマは時々、自分が知らない知識を当たり前のように話す。


 魔法のこととは違う。


 生活の道具や料理、旅の方法。


「ユウマって……」


「ん?」


「私とは違う知識のある村の出身なのかな?」


「どうした急に?」


「なんでもない」


 リリアは笑ってごまかした。


 魔王城の書庫で、人間がどのように暮らしているのかを調べたことがある。


 地域によって住居も食事も道具も違う。


 人間の暮らしは、思っていた以上に多種多様だった。


 もしかするとユウマの故郷には、リリアの知らない生活の知恵がたくさんあるのかもしれない。


「そういえば」


 リリアが思い出したように言った。


「近くにコクウ村があるの」


「コクウ村?」


「うん。農機具とか、いろんな道具を作っている職人がいる村」


「それなら、タープについて相談できるかもしれないな」


「行ってみる?」


「ああ。コクウ村に行ってみよう」


 二人はコクウ村を目指して歩き始めた。


 途中、街道脇からスライムが姿を現した。


「またスライムだ」


「昨日いっぱい練習したからね」


 ユウマは少し得意げに手を前へ出した。


「今度こそ!」


「ファイアーボール!」


 ぼっ!


 火球が飛ぶ。


 スライムに命中した。


「よし!」


 スライムは光となって消えた。


「少し上手くなってきたね」


「だろ?」


 ユウマは嬉しそうに笑った。


 さらに歩いていると、またスライムが現れた。


「今度も!」


 ファイアーボール。


 命中。


 また一匹。


 そして、もう一匹。


 何度か戦っているうちに、ユウマも少しずつ狙いをつけられるようになってきた。


「……あれ?」


 倒したスライムの跡に、透明でネバネバした液体が残っている。


「何だこれ?」


 リリアがしゃがみ込む。


「魔物の素材だよ」


「素材?」


「魔物を倒すと、こういうものが残ることがあるの」


 ユウマは興味深そうに液体を見た。


「じゃあ、鑑定してみるか」


「ステータスオープン」


 ユウマの目の前に文字が浮かぶ。


◇◇【スライムの粘液】◇◇


◈◈スライムから採取できる粘り気のある液体。

加工素材として利用できる。◈◈


「加工素材だって」


「使えるかもしれないね」


 ユウマは空き瓶を取り出した。


 そして、スライムの粘液と空き瓶をタッチする。


「……これ、使えるのかな?」


「使えなくても売ることはできるかもしれないよ」


 リリアは立ち上がった。


「集めておきましょ」


「そうだな」


 二人はスライムの粘液を瓶に集めながら、コクウ村へ向かった。


 やがて――。


「見えてきた」


 街道の先に、小さな村が見えてきた。


 村へ入ると、農機具や木製の道具を作っている店が目に入る。


 その中でも一際目立った看板があった。



◊◊『道具・加工 ガルド商店』◊◊


「ここかな?」


「入ってみよう」


 二人は店の扉を開けた。


「いらっしゃい」


 店内には、農作業に使う鍬や鋤、工具などが並んでいる。


 他にも、ユウマには見慣れない道具がいくつも置かれていた。


「へえ……」


「面白いね」


 二人が店内を見回していると、奥から一人の男が出てきた。


「おう。何か探してるのか?」


 一見すると、人間に見える。


 だが――。


 リリアはすぐに気づいた。


 人間ではない。


「……ドワーフ」


 小さく呟く。


「ん?」


 男がリリアを見る。


「お嬢ちゃん……どっかで見たことがあるような気がするな」


「えっ?」


 リリアの表情が固まる。


「この村は初めてです」


「そうか?」


 男は腕を組んだ。


「旅してねえか?」


「……旅?」


「まあいい」


 男は笑った。


「俺はこの商店のガルドだ」


 そしてユウマたちを見る。


「どんなものをお探しで?」


「実は――」


 ユウマはタープについて説明した。


「なるほどな」


 ガルドは腕を組み、考え込む。


「有りそうでなかった代物だなあ」


「作れそうですか?」


「仕組み自体は難しくない」


 ガルドは布を手に取る。


「丈夫な布なら、うちにあるぞ」


「じゃあ、買わせてもらいます」


「おう」


 ガルドは布を広げた。


「ただな……問題は防水加工だ」


「防水加工?」


「ああ」


 ガルドは布を指で叩く。


「スライムの粘液は、防水加工の材料になる」


「!」


 ユウマとリリアは顔を見合わせた。


「それから、アメの実っていう木の実がある」


「アメの実?」


「雨を弾く性質があるんだ」


 ガルドは説明を続ける。


「スライムの粘液とアメの実があれば、お前さんが言っていたタープとやらが作れるかもしれんな」


「ガルドさん」


「ん?」


「スライムの粘液なら、もうあります」


「……何?」


 ユウマは収納バッグから瓶を取り出した。


「これです」


 ガルドは瓶を受け取り、中を見る。


「おいおい……」


 目を丸くした。


「スライムの粘液を持っているのか?」


「はい。途中で倒したスライムから」


「どれくらいだ?」


「今のところ、これくらいです」


「スライム百匹倒しても、これだけ取れるかどうかって素材だぞ」


「そうなんですか?」


「そうだ」


 ユウマは少し考える。


「俺たち、五匹に一匹くらいの割合で取れましたけど……」


「……」


 ガルドが絶句する。


「お前さん……スライムに好かれてるのか?」


「いや、普通に倒してるだけです」


「そうか……」


 ガルドは深く考え込んだ。


「あと必要なのは、アメの実だけだな」


「それはここに売ってますか?」


「残念ながら、うちには置いてない」


「そうですか……」


「アメの実は鮮度が大事なんだ。長く保管できないからな」


 ユウマは収納バッグを見た。


「それなら大丈夫です」


「何?」


「この収納バッグなら、鮮度を保てますから」


「……収納バッグ?」


 ガルドの顔が変わった。


「お前さん、収納バッグを持っているのか?」


「はい」


「収納バッグは、上位冒険者か貴族くらいしか持ってねえぞ」


「そうなんですか?」


「ああ」


 ガルドはユウマのバッグを見る。


「まあ、見た目は普通の皮のバッグにしか見えんが……」


 少し声を落とす。


「収納バッグは、むやみに他人に見せるんじゃないぞ」


「分かりました」


「話がそれたな」


 ガルドは地図を取り出した。


「アメの実なら、村の北東に半日ほど行ったところに群生地がある」


「半日ですか」


「明日の早朝に出れば、日が暮れる前には戻ってこられるだろう」


 ガルドは真剣な顔になる。


「ただし、気をつけろ」


「魔物ですか?」


「ああ」


 ガルドは頷いた。


「あの辺りは魔物の数が多い」


「……分かりました」


「ここまで旅をしてきたんだ。ある程度は大丈夫だと思うが、油断するなよ」


「ありがとうございます」


「アメの実を持って帰ってきたら、タープ作りを一緒に考えてやる」


「お願いします!」


 ユウマは頭を下げた。


 その頃――。


 ハーン領主のもとに、一人の男が報告に訪れていた。


「報告します!」


「どうした?」


「ナガイ村で、あの旅人が多数のスライムを倒したとのことです」


「ほう」


「ただ、戦い方が少々奇妙だったようで……」


「奇妙?」


「火の魔法を何度も外しながら、スライムを追いかけ回していたとか」


「……」


 ハーン領主はしばらく黙った。


 そして、薄く笑う。


「引き続き泳がせておけ」


「よろしいのですか?」


「まだまだ未熟だ」


 ハーン領主は椅子から立ち上がった。


「今は好きに旅をさせればいい」


「では、頃合いを見て……」


「ああ」


 ハーン領主は窓の外を見る。


「その時に捕らえる」


 一方その頃。


 コクウ村では、ユウマとリリアが明日の準備をしていた。


「アメの実か……」


「どんな実なんだろうね?」


「まあ、行ってみれば分かるさ」


 ユウマは収納バッグを確認する。


 食材。


 スライムの粘液。


 そして、これから手に入れるアメの実。


 まだタープは完成していない。


 けれど――。


 ユウマの異世界での旅は、少しずつ自分たちの暮らしを作る旅へと変わり始めていた。


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