第15話 旅人は食材を求めて
トーロン地方へ入ったユウマとリリアは、食材の市場があるというナガイ村を目指して歩いていた。
「小麦、売ってるかな?」
「あると思うよ」
リリアは軽い足取りで歩いている。
「ウートン作ってみたいんでしょ?」
「ああ。せっかくなら旅先でも食べたいからな」
昨日食べたウートンの味を思い出しながら、ユウマは歩いていた。
その時――。
「あっ!」
リリアが前方を指差した。
「あそこにスライムがいるよ」
「どこ?」
街道脇の畑。
そこには、ぷるぷると体を揺らしながら、草を食べているスライムがいた。
「……なんか、のんびりしてるな」
「うん」
スライムはユウマたちに気づいていない。
「よし」
ユウマは立ち止まり、手を前に出した。
「ファイアーボール!」
ぼっ!
火球が飛んでいく。
しかし――。
スライムの手前で、
ボンッ!
小さな爆発を起こした。
「えっ?」
スライムがびくっと震える。
そして、
ぷるぷるぷるっ!
ものすごい勢いで草むらの中へ逃げていった。
「……」
ユウマは固まった。
「……外した」
「クスッ」
リリアが笑う。
「笑うなよ」
「だって……」
リリアは逃げていったスライムを見る。
「バフだって」
「バフ?」
「スライム、たくさんいるから」
周囲を見渡すと、確かに畑のあちこちにスライムがいる。
「……たくさんいるけど」
「練習にはちょうどいいんじゃない?」
「そうだな」
ユウマは気を取り直した。
「もう一回!」
ファイアーボール。
外れた。
「もう一回!」
外れた。
「もう一回!」
また外れた。
「……」
スライムたちは逃げる。
ユウマは追いかける。
そしてまた、
「ファイアーボール!」
外れる。
「……当たらない」
ユウマは頭を抱えた。
魔法は出せるようになった。
威力も昨日より少し安定している。
だが――狙った場所に飛ばすのが難しい。
「ユウマ、頑張って」
「分かってるよ……」
さらに何発か撃った。
しかし、なかなか当たらない。
スライムの動きは遅い。
それなのに当たらない。
「……」
ユウマはとうとう、やけくそになった。
「こうなったら!」
ユウマはスライムへ向かって走り出した。
「ユウマ?」
「ファイアーボール!」
ほとんど目の前。
至近距離から放った火球が――。
ぼんっ!
一匹のスライムに命中した。
スライムは光になって消えていった。
「……」
ユウマは拳を握った。
「やった!」
そして、得意げな顔でリリアを見る。
「……」
リリアは呆れたような顔をしていた。
「その距離なら、短剣でも倒せたんじゃないの?」
「……」
ユウマの顔が引きつる。
「魔法の練習だからいいの!」
「ふふっ」
「笑うなって!」
少しの間。
二人は顔を見合わせる。
「……ぷっ」
「……あはは!」
二人はとうとう大笑いした。
「何やってるんだろうな、俺たち」
「でも、ちゃんと倒せたよ」
「まあな!」
それから二人は、道中で見つけたスライムを相手に、ファイアーボールの練習を続けた。
「ファイアーボール!」
今度は少し遠くから命中。
「おっ!」
「今のはいい感じ!」
「もう一発!」
外れる。
「……」
「まだまだだね」
「分かってるよ!」
そんなやり取りを繰り返しながら、二人はナガイ村へ向かって進んでいった。
そして――。
「見えてきた!」
街道の先に、大きな畑と村が見えてきた。
「ここがナガイ村か」
村へ近づいていく。
すると――。
「おーい!」
「旅人さん!」
「ちょっと待ってくれ!」
「え?」
突然、農家の人たちが二人のところへ集まってきた。
「……」
ユウマは足を止めた。
「リリア」
「なに?」
「俺たち……何かやらかした?」
「私には分からないよ」
農家の一人が笑いながら言った。
「いやいや、あんたら見てたよ」
「え?」
「スライムの面白い倒し方していただろ」
「……」
ユウマは苦笑いする。
「見られてたのか……」
「いや、助かったよ」
農家の男性が頭を下げた。
「スライムが増えすぎると、畑の草だけじゃなくて農作物まで食べちまうんだ」
「そうなんですか?」
「でもな、スライムは畑の害虫も食べてくれるんだ」
男性は畑を見る。
「だから、まったくいなくなるのも困る」
「なるほど……」
「増えすぎると害虫まで食べ尽くしてしまって、別の農作物への被害が増えることもある。だから、時々間引いてるんだ」
「そういうことだったのか……」
ユウマは驚いた。
ただの魔物だと思っていた。
村の農業を支える存在でもあったのだ。
「以前、ギルドに依頼したこともあったんだがな」
別の農家が苦笑する。
「来た魔法使いが張り切りすぎてな」
「張り切りすぎて?」
「畑ごと燃やされちまった」
「……」
ユウマとリリアは顔を見合わせる。
「それは……大変でしたね」
「だから、あんたたちみたいにスライムだけを狙ってくれるなら助かるんだ」
「いや、俺は結構外してましたけど……」
「それでもだよ」
農家の男性は笑った。
「お礼をしたいんだが、残念ながら金はあまりなくてな」
「いえ、そんな――」
「代わりに、野菜を持っていってくれ」
そう言うと、農家の人たちは次々と野菜を持ってきた。
「人参」
「ジャガイモ」
「タマネギもあるぞ」
「これは大根だ」
「こんなに?」
ユウマは驚いた。
「もらっていいんですか?」
「もちろんだ」
ユウマが遠慮していると、横からリリアが口を挟んだ。
「素直に受け取ったら?」
「リリア……」
「せっかくのご厚意だよ」
「まあ……そうだな」
ユウマは頭を下げた。
「ありがとうございます。ありがたくいただきます」
気がつけば、二人の荷物は野菜でいっぱいになっていた。
「……」
ユウマは荷物を見る。
「俺たち、何しに来たんだっけ?」
「食材を買いに来たんだよ」
「そうだった」
ユウマは思い出した。
「小麦はどこで売っているんですか?」
農家の男性が笑う。
「なんだ、あんたらも食通だね」
「いや、食通というほどじゃ……」
「中央広場に行けば露店がたくさん並んでる。小麦なら、そこで売ってるはずだよ」
「ありがとうございます!」
二人は中央広場へ向かった。
そこにはたくさんの露店が並んでいた。
野菜、果物、豆、肉、魚。
そして――。
「これだ!」
ユウマが見つけたのは、小麦粉だった。
「これでウートンが作れる」
「楽しみだね」
「うん」
二人は必要な食材を買い揃えた。
人参。
ジャガイモ。
タマネギ。
そして小麦。
しばらく歩いていると、広場の一角からいい匂いが漂ってきた。
「……」
「ユウマ」
「分かってる」
二人は顔を見合わせた。
「食べよう」
「うん!」
広場の屋台で売られていたのは、たっぷりの野菜が入った鍋焼きウートンだった。
二人は並んで座る。
「いただきます!」
ユウマが一口食べる。
「……うまい!」
人参、ジャガイモ、タマネギ。
野菜の甘みがスープに溶け込み、ウートンの麺によく合う。
「これはいいな」
「おいしい!」
リリアも夢中で食べている。
二人は温かい鍋焼きウートンを、ゆっくりと味わった。
その少し離れた場所。
人混みに紛れながら、セシリアが二人を見ていた。
「……」
ユウマとリリアは楽しそうに食事をしている。
セシリアのお腹が、ぐう……と小さく鳴った。
「……」
セシリアはそっとお腹を押さえた。
「おいしそう……」
しかし、二人に近づくわけにはいかない。
セシリアは少し離れた場所から、羨ましそうに鍋焼きウートンを眺めていた。
「……私も食べたい」
そう呟きながら。
ナガイ村での食材探しは、思いがけず大量の野菜と小麦を手に入れる結果となった。
そしてユウマは、旅をしながら魔法を使うという新しい楽しみを覚え始めていた。




