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第12話 逃避行の旅

 翌朝。


 ユウマたちはミスギ村を出発した。


 三人は街道を歩き始めた。


 その少し後ろを、ハルドも歩いている。


 しばらくすると、ハルドが足を止めた。


「……待て」


「どうした?」


 ユウマが振り返る。


 ハルドは街道の後方をじっと見ていた。


「誰か来る」


「冒険者じゃないの?」


「いや」


 ハルドは目を細めた。


「装備が揃いすぎている。それに、あいつら……俺たちを見ている」


「俺たちを?」


 ユウマが振り返る。


 遠くに数人の男たちが見える。


 こちらへ向かって歩いている。


「……本当だ」


「何か用事があるんじゃない?」


 リリアが言う。


「だったら、わざわざ追いついてくる必要はないだろ」


 ハルドが答える。


「それもそうだな」


 ユウマは少し考えた。


「でも、俺たち何かしたか?」


「……心当たりは?」


「ない」


「私もないわ」


「俺もない」


 三人で顔を見合わせる。


「じゃあ、気にしなくていいんじゃない?」


「いや、気にしろ」


 ハルドが呆れた顔をした。


「追ってきてるんだぞ」


「……そうだな」


 ユウマはもう一度後ろを見る。


 男たちは、確実に距離を縮めていた。


「どうする?」


 リリアが尋ねる。


 ハルドは少し考えてから言った。


「とりあえず――」


 男たちが声を上げた。


「待て!」


 ユウマが振り返る。


「……俺たち?」


「たぶん」


「じゃあ――」


 ユウマが走り出した。


「逃げよう!」


「判断が早いな!」


 ハルドが叫ぶ。


「だって追われてるし!」


「理由を聞いてからでも遅くないだろ!」


「追いつかれてから聞けばいい!」


「それは順番が逆だ!」


 3人は一斉に街道を走り始めた。


◇◇◇


「待て! 話を聞け!」


 後ろから声が聞こえる。


「話を聞けって言ってるぞ!」


 ユウマが叫ぶ。


「だから何の話だよ!」


 ハルドが答える。


「俺に聞くな!」


「ハルド、速い!」


「戦士だからな!」


「じゃあ先に行かないで!」


「お前らが遅いんだ!」


 追手との距離が少しずつ縮まっていく。


「このままだと追いつかれるわね」


 リリアが後ろを見る。


「どうしよう?」


 ユウマが聞く。


「……仕方ないわね」


 リリアは少しだけ速度を落とした。


「リリア?」


「何でもないわ」


 リリアは誰にも見えないように、地面へ手を向けた。


 小さく呟く。


「……大地よ、少しだけ力を貸して」


 街道の一部が、ゆっくりと湿り始めた。


 そして――


「うわっ!」


「なんだ、この泥は!」


「足が抜けない!」


 追手たちが次々と足を取られる。


「今よ!」


 リリアが叫ぶ。


「今って何が?」


 ユウマが振り返る。


「走って!」


「分かった!」


 ユウマは全力で走った。


 ハルドは一瞬だけ後ろを見た。


「……泥沼?」


 リリアが何事もなかったように言う。


「自然現象じゃないかしら」


「…………」


 ハルドは何か言いたそうだったが、何も言わなかった。


◇◇◇


 しばらく走ると、見慣れた景色が見えてきた。


「……あれ?」


 ユウマが足を止める。


「ここ、イルティ村じゃない?」


 リリアが地図を見る。


「そうね」


「戻ってきちゃったな」


「逃げていたはずなのにね」


 ハルドが苦笑する。


「まあ、ちょうどいい」


 ハルドは村を見つめた。


「俺はここで別れる」


「え?」


 ユウマが振り返る。


「家族がこの村にいるんだ」


 ハルドは少し照れたように笑った。


「いつまでも旅に付き合っているわけにはいかない」


「そうだったんだ」


「短い間だったけど、助かった」


 ユウマが頭を下げる。


「こちらこそ。ハルドがいてくれて助かったよ」


「ゾンビ相手に俺が斬って、リリアが全部浄化する。あれは少し複雑だったけどな」


 ハルドが笑う。


「ごめんなさい」


 リリアも笑った。


「気にするな。結果的には助かったんだから」


 ハルドは二人を見る。


「気をつけて旅を続けろよ」


「ああ」


「またどこかで会えるといいわね」


「そうだな」


 ハルドは手を上げると、村の中へ歩いていった。


 ユウマたちは、その背中をしばらく見送った。


「……行っちゃったね」


「家族が待っているんだもの」


◇◇◇


 イルティ村のギルド。


「なるほど……」


 ギルド長は話を聞き終えると、腕を組んだ。


「ハーン領主の手下に追われた、か」


「俺たち、何か悪いことしました?」


 ユウマが尋ねる。


「いや、話を聞く限りでは、君たちは何もしていない」


「じゃあ、なんで?」


「おそらく、デトックスポーションと墓地の件だろう」


 ギルド長はため息をついた。


「ハーン地方の領主としては、君たちを放っておけないのだろう」


「……面倒なことになったな」


 ユウマが頭を掻く。


「このままハーン地方を旅するのは?」


「おすすめしない」


 ギルド長は地図を広げた。


「イマル地方を抜けて、トーロン地方へ行くといい」


「トーロン地方……」


「そこまで行けば、ハーン領主が簡単に手を出すことはできない」


 ユウマは地図を見る。


「分かりました」


 そして地図を畳んだ。


「じゃあ、行き先は決まったな」


 リリアが笑う。


「トーロン地方へ」


「今度は追われない旅にしたいな」


「そうね」


 ユウマたちはイルティ村を後にした。


 目指すは――


 まだ見ぬトーロン地方。


 そして2人は知らなかった。


 この逃避行の旅と、新たな出会いと騒動を呼び込むことを。


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