第11話 ミスギ村と墓地の依頼
イルティ村を出て、しばらく。
ユウマたちはミスギ村へ向かう街道を歩いていた。
「次はミスギ村ね」
リリアが地図を見ながら言う。
「ああ。まずはギルドに寄って、デトックスポーションを渡そう」
ユウマが答える。
その少し後ろを、一人の男が歩いていた。
腰には長剣。
大きな荷物を背負い、日に焼けた顔にはいくつもの傷跡がある。
「そういえば、まだちゃんと自己紹介してなかったな」
男が口を開いた。
「俺はハルド。戦士をやっている」
「ユウマです。よろしくお願いします」
「リリアよ」
三人がそれぞれ名乗る。
しばらく歩くと、遠くにミスギ村の門が見えてきた。
「やっと着いたか」
ユウマが少し伸びをする。
「思ったより早かったわね」
「道が平坦だったからな」
ハルドが答える。
村に入り、ユウマたちはそのまま冒険者ギルドへ向かった。
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ギルドに入ると、受付の女性が顔を上げた。
「こんにちは。ご依頼でしょうか?」
「イルティ村から預かってきたものがあります」
ユウマは荷物から小瓶を取り出した。
「デトックスポーションです」
「……デトックスポーション?」
受付嬢が驚いたように目を見開く。
「はい。イルティ村で使ってもらって、効果が確認できたので」
小瓶を受け取った受付嬢は、慎重に中身を確認する。
「確かに……ありがとうございます。これがあれば、村の人たちも安心できます」
「よかった」
ユウマが笑う。
そのときだった。
「少し、相談したいことがある」
奥から一人の男が歩いてきた。
ギルド長の次男だという。
「イルティ村ギルド長は俺の兄なんだ」
通りでそっくり
「君たちがイルティ村から来た旅人か?」
「はい」
「実は、もう一つ頼みたいことがある」
「依頼ですか?」
「ああ」
男は少し言葉を選ぶようにして続けた。
「ミスギ村の近くに、軍人たちの墓地がある」
ハルドが反応した。
「……あそこか」
「知っているのか?」
「昔、何度か通ったことがある」
ハルドは腕を組んだ。
「最近、あの墓地で妙なことが起きている」
「妙なこと?」
「夜になると墓地から声が聞こえる。墓が荒らされていたり、死者が動いたという話もある」
ユウマは眉をひそめた。
「ゾンビ……ですか?」
「おそらくな」
ギルド長の次男は頷いた。
「ただ、原因が分からない。調査だけでいい。危険なら無理をする必要はない」
「分かりました」
ユウマが答える。
「行ってみましょう」
「おいおい、即答かよ」
ハルドが苦笑した。
「まあ、俺もいるからいいか」
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村の外れにある墓地は、静かだった。
古い墓石が並び、その向こうには森が広がっている。
風が吹くたび、木々がざわざわと揺れる。
「……なんか嫌な感じがする」
ユウマが呟く。
「そうね」
リリアも周囲を見回している。
そのとき。
ガサッ。
墓石の陰から何かが動いた。
「来るぞ!」
ハルドが剣を抜く。
地面から這い出してきたのは、一体のゾンビだった。
「グルル……」
「下がってろ!」
ハルドが前へ出る。
ゾンビが腕を振り上げる。
しかし――
シュッ!
ハルドの剣が閃いた。
ゾンビの腕が切り落とされる。
「もう一匹!」
別のゾンビが背後から迫る。
ハルドは振り返りざまに剣を横薙ぎに振った。
ゾンビが吹き飛び、地面に転がる。
「……さすが戦士ね」
リリアが呟く。
「これくらいならな」
ハルドが剣を構え直す。
だが――
倒れたはずのゾンビが、ゆっくりと立ち上がった。
「なに?」
ユウマが驚く。
切り落とした腕まで、黒い霧に包まれながら元に戻っていく。
「これは……普通のゾンビじゃないな」
ハルドが低い声で言った。
その瞬間。
墓地の奥から、冷たい風が吹き抜けた。
黒い霧が広がっていく。
「……いる」
リリアが小さく呟いた。
「何が?」
「この墓地を汚しているものがいる」
リリアは杖を握りしめた。
そして空を見上げる。
「もう大丈夫」
「え?」
ユウマが見上げる。
空に、淡い光が集まっていく。
「聖なる雨よ――」
リリアの周囲に光が広がる。
「穢れし大地を洗い流せ」
そして――
「**ホーリーレイン!**」
光の雨が降り始めた。
ポツリ。
ポツリ。
やがて墓地全体が、淡い光に包まれていく。
ゾンビたちの身体から黒い霧が抜けていく。
「グ……ググ……」
一体、また一体と、ゾンビたちは地面へ崩れ落ちた。
墓地を覆っていた重苦しい空気も消えていく。
「すごい……」
ユウマが呟いた。
ハルドも剣を下ろした。
「俺が斬っても立ち上がったのに……」
「浄化したのよ」
リリアが答える。
「この墓地には、死者を動かしていた魔力が残っていたみたい」
そのとき。
墓地の奥で、黒い影が浮かび上がった。
「……あれは!」
リリアが初めて大きな声を出した。
人の形をした黒い影。
普通のゴーストとは違う。
禍々しい魔力をまとっている。
「魔族……」
リリアが杖を向ける。
「ホーリーレイン」
再び光の雨が降り注ぐ。
黒い影は光に包まれ――
ゆっくりと消えていった。
ハルドはその様子を見て、何か言いたそうにしていたが、結局何も言わなかった。
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ギルドへ戻ると、ユウマたちは墓地で起きていたことを報告した。
「墓地の浄化が終わった?」
「はい」
リリアが答える。
「ゾンビも、もう出てこないと思います」
ギルド長の次男は驚いた顔をした。
「そうか……これで村の人たちも安心できる」
「それと、デトックスポーションもありますから」
ユウマが言う。
「これで疫病の心配も減ると思います」
「本当に助かった」
男は深く頭を下げた。
こうして、ミスギ村での依頼は終わった。
ユウマたちは、いつものように旅を続けるつもりだった。
だが――
その日の夜。
ミスギ村から少し離れたハーン領主の館。
一人の兵士が報告していた。
「イルティ村から来た旅人が、デトックスポーションを持ち込んだそうです」
「ほう」
「さらに、ミスギ村近くの墓地を浄化したとのことです」
報告を聞いた男は、椅子からゆっくりと立ち上がった。
「……その旅人、何者だ?」
ユウマたちは、まだ知らない。
自分たちの旅が、少しずつ大きな存在に知られ始めていることを。




