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聖女の献上品

「これ全部贈り物ですか」

 フェリクスの言葉にエルヴィスは頷く。玄関ホールには所狭しと贈り物が置いてある。クラウスも驚いた顔でフェリクスの裾をつかんだ。その小さな手にフェリクスは翡翠色の瞳を細めた。撫でてやると金色の癖っ毛が指に心地良い。クラウスの空色の瞳がにこりと笑う。

 贈り物が大勢の使用人たちの手で解かれ、整理されていく。アンゼルムが送り主とその贈り物がなにかを書きつけていく。アンネが贈り物を検分する。

「姉さまの妊娠、もう社交界で広まっているんですね」

「ああ……気をつけないとな」

 その言葉にフェリクスの翡翠色の瞳に翳りが帯びた。厳しい顔をしているエルヴィスを見れば、姉の妊娠が周囲に漏れるのは喜ばしいものではないのだろう。

 当然だ。ローゼンブルグ家には敵も多い。

「アマーリエの口に入るものは即焼却して礼だけ返せ。子どもの産着までなにか仕掛けられてないか、見逃すな」

 エルヴィスの指示に侍女たちが、はい! と返事をする。

「フェリクス兄さま、これなぁに?」

 クラウスが指さした先には、恐ろしいほどの輝きを持つダイヤモンドの宝石があった。

「これは……素晴らしいダイヤモンドですね」

 フェリクスの吐息交じりの言葉に、エルヴィスが視線を向ける。

「贈り主は……ロスカスタニエ伯爵家か……縁もゆかりも無い小さな伯爵家だ。これほどまでの宝石。なぜ……」

「ローゼンブルグ家に阿りたいのでしょうか」

 ふたりはしばらく考え込む。

「旦那さま、こちら王家からの御品です」

 アンゼルムの言葉にエルヴィスの意識が反れる。

 美しいダイヤモンドが、きらきらと輝いていた。

「あの聖女と名高い夫人の家系ですね。施しで知られる彼女が、なぜこれほどのものを……」

「ああ……そうだな。私財を投げ売って領民の貧しいものに自ら施しをしているとか」

「……それはなかなかできるものではありませんね」

「そうだな。指輪にでもして、アマーリエに贈るか」

 エルヴィスがそう呟いた瞬間。ダイヤモンドの奥底で、一瞬だけ禍々しい光が爆ぜた。だが、それに気づく者は、まだ誰もいなかった。

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