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フェリクスの内偵

「アンゼルムさん、ちょっと良いですか」

「フェリクス様。……奥さまのことで何か?」

「いえ、少し気になりまして」

 フェリクスは周囲に人がいないことを確認してから、声を潜めた。

「……エルヴィス様は、以前の奥さまに対しても、あんなに……その、情熱的というか、甘い方だったのですか?」

 その問いに、アンゼルムは一瞬だけ意外そうに目を見開いたが、すぐにいつもの冷静な表情に戻った。しばしの沈黙が落ち、アンゼルムが片付ける茶器のぶつかる微かな音が響いた。

「姉がどういう立ち位置にいるのか、不安なんです」

 そう言われてアンゼルムの重い口がやっと、どこか気まずそうに動いた。

「……いいえ。エルヴィス様が、あのように感情を露わにし、お相手を甘やかされる姿は、私共も初めて拝見いたします」

「えっ、そうなんですか?」

「以前のエリーさまとの婚姻は、家柄同士で決まった婚姻でした。それでもエルヴィス様は好意をもって礼儀正しく接してはおられましたが……しかし、アマーリエ様に対しては、その……まるで……予想がつかず……」

 アンゼルムはふっと口元を緩めた。

「先ほども、マナー講師からアマーリエ様が褒められたと聞いて、自分のこと以上に嬉しそうに報告を受けていらしてましたよ。あんなに落ち着きのない旦那様は、クラウス様がお生まれになった時以来かもしれません」

「えっ……あのエルヴィス様が!」

 フェリクスの脳裏にエルヴィスの怜悧で端正な容貌が浮かび上がった。

 フェリクスは、さっきのアマーリエの真っ赤な顔を思い出し、納得したように頷いた。

「……それは姉さまも大変だ。あんなに真っ直ぐ愛をぶつけられたら、慣れていない姉さまはどうしたら良いのかわからなくなってしまいますよ」

「それもまた、夫婦の醍醐味でしょう。……フェリクス様、どうかアマーリエさまには、今の話は内密に」

 二人は顔を見交わせ、こくりと頷き誓約を交わした。

 フェリクスは、さきほど見た姉の、恥じらった顔を思い出し、小さく溜息をついた。

「……姉さまは、しばらくたいへんそうだ。でも……保険は必要なさそうだな」

 そう独りごち、フェリクスは微笑む。

ローゼンブルグ邸の夜は、静かに、けれど熱を孕んで更けていった。

 夜鳥が一声鳴き羽ばたいた音が聞こえた。

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