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亜麻色の髪を溶かす夜

「疲れた……」

 アマーリエは自室の寝台に横になった。あとから付いてきたフェリクスがお疲れ様ですと笑う。

マナーの稽古をしてくたくたのアマーリエである。

「いや、でも姉さま。あのエルヴィスさまがあんなに甘々になるとは思いませんでしたね」

「思わないわよ……!」

 アマーリエは心の叫びをそのまま口に出す。

「まあ、それだけ愛されているのですから良いじゃないですか。良かったです……本当……姉さまにも普通の女性の幸せが来て」

「それにしたって甘すぎよ。皆の視線なんて意に介さないんだもの。そういうものなの!?」

「それは、人によって違うと思いますが……」

 そうよねー! とアマーリエは寝台に突っ伏す。

「まあまあ、姉さまも嫌なわけではないんでしょう?」

「嫌じゃないけど、恥ずかしいのよ……! エルヴィスさまみたいに慣れてないの!」

「じゃあ、慣れてくしかありませんね」

 そんなぁ……と声を上げたアマーリエを見つめながら、フェリクスは思う。最初の奥様にも同じ態度だったのだろうか、と。まあ、考えても仕方ないから、あとでアンゼルムにでも聞いてみようと思う。

「さあさ、姉さま。おつかれでしょうが、夕食の後は、エルヴィスさまとふたりきり。頑張ってくださいね」

「何を、頑張ると言うのよ……!」

 真っ赤になったアマーリエを見て、フェリクスは可愛らしいと思う。案外、これが見たくてエルヴィスさまは甘くされてるんじゃないかな、と思うが、心の中にとどめておくことにしたのだった。


 皆で揃って夕食を食べ、バスタブでアンネ達に磨かれるのももう慣れた。けれどやはりお風呂はひとりで入りたいと思う。

丁寧に髪の毛を梳られて、アマーリエの亜麻色のがきらきらと輝くように美しい。

 アンネが満足そうに仕上げに香りの弱い甘いコロンを少しだけつける。これで夜の装いは完璧だ。

「奥さま、旦那さまは隣の部屋でお待ちでございます」

「え、ええ……わかったわ。アンネ、今日もありがとう」

 アンネは頭を深く下げて退室した。アマーリエは息を吐く。ドキドキと心臓が高鳴る。白い扉の前でノックすれば、「どうぞ」という声がかかる。

 ドアを開けると、エルヴィスが寝間着にガウンを引っ掛けてソファから立ち上がった。ソファの前にはローテブルがあり、そこに果実酒や紅茶、ハーブティーに少しのお菓子が並べてあった。

 エルヴィスはアマーリエの元へと歩いてくると、手を取ってソファまでエスコートをした。

「なにか飲むかい?」

「あ、じゃあ、果実酒を少しだけ」

「アマーリエはすぐに酔うから。少しにしといたほうがいいね」

そう言いながら、グラスに果実酒を注いでくれる。エルヴィスはいつも通りにハーブティーを選んだ。

「今日は疲れただろう?」

「疲れました……」

「でも講師の先生は筋が良いと褒めていたよ。大丈夫、なんとかなるよ」

「そうでしょうか……」

 果実酒を口にいれると、シュワッとしたいい香りが口の中いっぱいに、広がる。

「美味しい」

「それは良かった」

 エルヴィスが微笑む。夫婦の寝室には二人きりである。週に7日のうち、3日間は夫婦ふたりで過ごすように決めた。クラウスさまはもう寝たかしら、と思う。

「お茶会に行くのに、クラウスにさま付けはやはりおかしいと思うんだ。頑張ってクラウスと呼んでやってくれるかい?」

「そうですよね。わかりました。クラウス……クラウス……なんか、抵抗ありますが、頑張ります」

「クラウスもその方が喜ぶよ」

「クラウス……クラウス」

 唇の中で繰り返されるその名を、エルヴィスが聞き逃さず、距離を詰める。

「いい響きだ。もう一度、近くで聞かせてくれないか?」

「え……っ」

 気づけば、彼はすぐ隣に座っていた。

 さ、とエルヴィスはアマーリエを促す。

「夜は短い。おいで、アマーリエ」

「……はい」

 顔中真っ赤になっている気がする。アマーリエは、エルヴィスに手を引かれて、そのたくましい胸の中にすっぽりとおさまった。シトラスの香りが揺蕩う。

 ガウン越しに感じるその熱さ。しかし鼓動は早鐘を打っているように聞こえる。

 どちらの鼓動がこれほどまでに急いているのか、もう判別がつかなかった。

(……苦しいわ)

 アマーリエは顔を上げると、エルヴィスの熱を帯びた瞳と瞳が絡まった。

 もしやエルヴィスも自分と同じように――アマーリエは一瞬だけそう思ったのだった。

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