三:無意識の寝返りと、大地の脈動
入眠から三十分。
深い深いノンレム睡眠に突入したソラは、夢の中で、ふわふわの巨大なパンケーキの上で転がる夢を見ていた。
(……ん〜……ちょっと右肩が温まりすぎたな……。反対側向こ……)
ソラは無意識のうちに、身体の向きを変えようとした。
ただの寝返り。
仰向けの状態から、左側を下にして横向きになろうとしただけの、日常茶飯事の身体の反転。
だが――。
ソラが横たわっているのは、世界樹の芯材で編まれた【霊王樹の寝台】。
そして、ソラの体内には、幼少期の狂気訓練によって「大気の乱れを極限まで嫌い、あらゆる動作を大地の地脈と同調させてしまう」という、神域の脱力循環が刻まれていた。
ソラが、腰をわずかに浮かせ、左へと体重をスッと移動させた――その刹那。
フッ……。
ソラの体内に眠る、スプーン一杯の極小魔力が、無意識の体位変換に伴って、シーツを通じて世界樹の木枠へと、音もなく滑り込んだ。
その魔力は、破壊のエネルギーではない。
「摩擦をなくして、もっと滑らかに寝返りを打ちたい」という、ソラの究極のケチで怠惰な省エネ意識。
だが、その超高密度の極小魔力が、樹齢五千年の世界樹の芯材に触れた瞬間――。
ドクンッッッッ!!!!
ベッドの木枠全体が、心臓のように巨大な脈動を打った。
ソラの「完全なる脱力」の波動が、木組みの接合部を伝い、公爵邸の基礎を突き抜け、帝都全土の地下に張り巡らされた「巨大霊脈」へと一瞬にしてダイレクト接続されたのだ!
キィィィィィィィィィィィィンッッッッ!!!!
天球を揺るがすような、あまりにも澄み切った超高周波の共鳴音。
ソラが左側へコロンと寝返りを打った、そのわずか零点五秒の間に――公爵邸の屋根から、天を突くような純白と新緑の極光の柱が、ズドオオオオオオオオオンッ!!と天空へ向けて立ち昇った!




