第五章:至高の寝台と、神域化する帝都
一:文明の結晶「世界樹の至高ベッド」の搬入
エルフ族が聖樹の快楽悶絶とともに自ら射出した長方形の心材を抱え、エレノアとセレスティーナが意気揚々と帝都へ凱旋してから、わずか二十四時間。
ヴァルハイト公爵邸の広大な前庭は、人類、機械、そして長耳族の技術と狂信が融合した、空前絶後の合同建設ドックと化していた。
「――そこだ! 楔の角度をコンマ零零三ミリ右へ補正せよ! マスターの脊椎にかかる重力分散比率が狂うぞ!」
現場で歯車仕掛けの義眼を真っ赤に発光させ、全身から白煙を吹き上げながら指揮を執っていたのは、機巧都市の技師長ガリレオ・アイアンハートであった。
前章でハイテク拷問器具『涅槃Mark-IV』を摩擦ゼロの魔力で一瞬にしてスクラップにされた彼は、すでに科学信仰を完全に捨て去り、「神竜帝の好まれる自然美と精密工学の融合」という新たなカルトに目覚めていた。
「釘、ボルト、リベットの類は一切不使用! 我が機巧都市が誇る分子切削技術により、世界樹の芯材同士を古代木組み工法『千鳥継ぎ』で完全結合!
さらに、エルフ族の提供した【夢見草の織物】八百枚を、無重力スライムの精製オイルで十二重にコーティングした特注シーツを敷設ッ!!」
「上出来です、機巧技師」
その傍らで、真新しい銀のピンセットでシーツの微細な埃を分子単位でつまみ出していたのは、エルフ族の防衛指揮官ルーディスであった。
前章で世界樹の遠隔ツボ押しマッサージを目撃し、膝をついて信徒化した彼女の長耳は、極度の緊張と使命感でピクピクと跳ねている。
「我が樹海の最高織物師百名が、一針ごとに『安眠の精霊歌』を織り込んだこのシーツは、触れる者の老廃物を自動分解し、肌細胞を常に赤ちゃん生まれたての潤いへと巻き戻す。
木枠からは、樹齢五千年の霊脈アロマが毎秒三リットル噴出……。これぞ、大自然と技術の粋を集めた究極の玉座――【世界樹寝台・無窮の微睡み】……!!」
完成したベッドは、横幅三メートル、縦四メートル。
世界樹特有の淡い琥珀色の光条を放ち、近づくだけで呼吸器疾患が完治しそうなほど清冽な白檀と若葉の芳香を漂わせていた。
「……素晴らしいわ」
現場を監査していたエレノアが、冷徹な青い瞳を濡らし、手帳を胸に抱きしめた。
「金属の冷たさを排し、過剰な全自動機構を削ぎ落とし、ただ純粋に『寝心地』のみを銀河系の極限まで研ぎ澄ませた至高の木造建築……。これならば、マスターの繊細すぎる背骨も満足されるはずです」
「ええ……!」
セレスティーナもまた大十字架を掲げ、嬉し泣きしながら祝福の聖光を振りまいた。
「さあ、運び込みましょう! 硬い床の上で丸まっておられる至高の神竜帝に、人類史上最高の二度寝を奉納するのですッ!!」
数百名の工兵とエルフ族が息を殺し、反重力ソリに乗せられた巨大ベッドを、公爵邸の最上階寝室へと音もなく運び込んでいった。




