四:遠隔調伏と、エルフの屈服
「……っ!!」
クレーンの前で手帳を握りしめていたエレノアの眼鏡が、パキリと白銀の閃光を放った。
その青い瞳の奥で、すべての点と線が狂気的な速度で結びつく。
「……やはり。マスターには、すべてお見通しだったのですね」
エレノアが冷酷な、そして勝利を確信した笑みを浮かべ、呆然とするルーディスを見下ろした。
「な……何がお見通しだというのだ……!?」
「分からないのですか、耳長族の哀れな警備隊長?」
エレノアの手帳のペン先が、荷台の上の美しい長方形の木材を指し示す。
「マスターは帝都の公爵邸にいながらにして、この樹海に眠る聖樹の霊脈閉塞を完全に知覚されていたのですよ。
貴女が『結界を破れる人間などいない』と傲慢な言葉を吐いたまさにその瞬間……!
マスターは数百キロの距離を無視し、大地の地脈を通じて極小の魔力撃を聖樹の急所へ直接撃ち込まれたのです!」
「な……ッ!?」
「病巣のコリをほぐし、霊脈を正常化させ、その『治療の報酬』として、聖樹自らに最適なサイズの寝台材を差し出させた……!
木を一本も傷つけず、血を一滴も流さず、大自然の意志そのものを手懐けてみせたのです!
これこそが……我が主ソラ・ヴァルハイト様の、『超長距離・遠隔怠惰調伏』……!!」
「ああ……神よ……!」
セレスティーナが恍惚の涙を流し、大十字架を掲げた。
「見なさい、あの切り出された木材の完璧な寸法を!
縦二点五メートル、横二メートル! 一ミリの狂いもなく、マスターの寝室の設置スペースに適合しておりますわ!
マスターは一歩も部屋から出ず、指先をわずかに動かされただけで、世界樹と我々を同時に導かれたのです!」
「ひ……ひぃぃぃぃぃぃぃっ……!!」
ルーディスの喉から、戦慄の悲鳴が漏れた。
弓が手から滑り落ち、苔むした枝の上へ膝をつく。
帝都から数百キロ。
姿も見せず、気配すら感じさせず、ただ遠隔の地脈操作だけで、神代の世界樹を意のままに操り、木材を射出させる化物。
(勝てるはずがない……! こんな存在に、弓矢が届くはずがない……!
もしあのお方が本気で怒れば……この樹海ごと、地脈の逆流で一瞬にして炭化させられていた……!!)
「ま……参りました……!」
ルーディスは枝の上に額を擦り付け、涙を流しながら叫んだ。
「我がエルフ族の無知と傲慢を……どうか、どうかお許しくだされ……!
神竜帝ソラ様……! 聖樹様を数千年の苦悶から救い給うた至高の御方……!
我がエルフ族は本日より、あの木材で組み上げられる寝台のシーツを織るため、樹海最高峰の【夢見草の織物】を永久に献上いたしますゥッッ!!」
「「「ソラ様万歳ッ! 偉大なる樹海の救主、ソラ様万歳ッッ!!」」」
千名のエルフたちが一斉に樹上から飛び降り、クレーンの荷台に向かって平伏した。
不可侵を誇ったエルフの聖域は、戦うことすらなく、一撃の遠隔マッサージによって完全な信徒の園へと塗り替えられたのである。




