三:樹海の悶絶と、狂乱の神木
「――エルフの誇りにかけて、侵略者を撃ち滅ぼせェッ!!」
樹海の空中回廊で、ルーディスが矢を放とうとした――まさにその刹那だった。
ズズズズズズズズズズズンッッッッ!!!!
樹海全域の大地が、まるで巨大な生物が身悶えするように、猛烈な勢いで波打ち始めた。
「な、何事だッ!? 地震か!?」
ルーディスが枝の上で体勢を崩す。
だが、震えていたのは大地だけではなかった。
樹海の中央にそびえ立つ、樹齢五千年の神木【スリーピング・セフィラ】。
その全高三百メートルに及ぶ巨木が、信じられないことに――まるで背中を掻きむしられた人間のように、「グニャリ……ミシミシ……」と奇怪な身悶えを始めたのだ!
『――アッ……ン……ッ!?』
樹海の精霊たちの脳内に、巨大な世界樹の悶絶するような思念波が直接響き渡った。
「せ、精神波……!? 聖樹様が……あ、喘いでおられる……!?」
エルフの長老が杖を取り落とし、目を剥いた。
ソラが公爵邸で背中をゴリゴリと掻くたびに。
遠隔リンクされた【スリーピング・セフィラ】の幹の中枢に、ソラの放つ超高密度の極小魔力が「超絶マッサージ針」となって直撃していた。
数千年間、地脈の澱みと老廃物を溜め込み、ガチガチに凝り固まっていた世界樹の霊脈結節点。
そこへ、ソラの「痒いところを掻く」というピンポイントの刺激が、神域の整体術となって炸裂したのだ。
ミシミシッ……ゴリゴリッ……!
『――アァッ……ソコ……ソコダ……ッ!! モット……モット強ク……ッッ!!』
神木の巨躯が、歓喜の震えとともにビクンビクンと跳ね上がる。
数千年間、誰にも解せなかった神木の霊脈循環が、ソラの枯れ枝の摩擦によって一瞬で完全開通。
幹のひび割れから、黄金色に輝く超高濃度の樹液――古代の万能霊薬【エリクサーの原液】が、まるで噴水のようにプシャーッと噴き出した!
ドバババババババッッッ!!!
「ひゃあああああっ!? 聖樹様から体液が噴出しているだとォッ!?」
ルーディスが黄金の飛沫を浴びて絶叫する。
さらに!
ソラが公爵邸で「あー、痒い痒い」と枯れ枝を乱暴に左右へ擦り付けた瞬間。
バキィィィィィィィンッッッッ!!!!
【スリーピング・セフィラ】の最も神聖とされる主幹のど真ん中から、縦二点五メートル、横二メートル、厚さ三十センチの、完璧に製材されたかのような長方形の木材ブロックが、自ら「スポンッ!!」と音を立てて射出されたのだ!
長方形の神木ブロックは、まるで意思を持っているかのように空中を回転し、地上で待機していたガリレオの蒸気式クレーンの荷台の上へ――ドスンッ!!と寸分の狂いもなく着地した。
そして、切り離された神木の断面からは、瞬く間にみずみずしい新芽が猛烈な勢いで生え変わり、樹海全体を包み込んでいた精霊結界が、以前の百倍の神聖な輝きを放ちながら再展開された。
世界樹は、何千年のコリを解消してもらった圧倒的な快楽により、完全に「整って」いた。
静寂。
黄金の樹液の雨が降り注ぐ中、エルフ族千名とルーディスは、弓を取り落とし、呆然と口を開けて立ち尽くしていた。
「……じ、自ら……?」
ルーディスがガタガタと震えながら呟いた。
「聖樹様が……自らの最も美しき心材を……切り出して……差し出された……!?
あ、あり得ん……! 我らエルフ族が数千年間祈り捧げても、小枝一本すら恵んでくださらなかったあの誇り高き聖樹様が……喜びに身悶えしながら、ベッドの板を献上されたというのか……!?」




