三:過剰なるおもてなし(物理)
ソラの背中がマットレスに触れた――その刹那。
ピポパポパ……ヴィィィィィィンッッッッ!!!!
ベッドの全身に走るインジケーターが一斉に真紅に点灯した。
『――生体目標ノ着座ヲ確認。主電源、オールグリーン。全自動怠惰プロトコル、強制起動――』
無機質な機械音声が室内に鳴り響く。
ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
ソラの両手首、両足首、そして腰の周りに、分厚いクッション付きの金属アームが音速で展開され、ガチリと拘束した。
「ぶっ!? な、何これ!? 動けないんだけど!?」
『――生体スキャン開始。心拍数、六十八。筋肉ノ微細ナ緊張ヲ感知。リラクゼーション・モード、出力最大――』
ギュルルルルルッッッ!!!!
「ひゃあああああっっっ!?」
マットレスの下に仕込まれた六万四千個のアクチュエータが一斉に狂ったように振動を始めた。
極上のマッサージを意図した超音波バイブレーション。だが、ソラの全身に伝わってきたのは、工事現場のアスファルト破砕機の上に全裸で座らされたかのような激震だった。
視界が上下にガクガクと激しくブレて、奥歯がカチカチと打ち鳴らされる。
「ちょっ、止めて! 揺れすぎ! 脳みそがシェイクされてるんだけど!?」
『――栄養補給シークエンス。就寝前ノ水分並ビニ糖分ノ欠乏ヲ検知――』
天井から、金属製のアームが二本、蛇のようにソラの顔面目掛けて急降下してきた。
先端には、太い注射器のようなノズルが装着されている。
『――超高濃度高カロリー・アミノ酸ゼリー、強制注入開始――』
「んぐっ!? ちょ、待っ――むぐぐぐぐぐっっっ!?」
アームがソラの唇を無理やり押し広げ、ドロリとした粘着質の甘ったるい液体が、高圧ポンプの勢いで喉の奥へ直接ブチ込まれた。
咀嚼不要。味わう暇もない。胃袋へダイレクトに流し込まれる人工的なイチゴ味の暴力。
「ごふっ、げほっ、甘い! 死ぬほど甘い! 水をくれえええっ!!」
『――活字情報ノ入力ヲ検知。大脳皮質ヘノ直接読書モード、起動――』
「まだあるの!?」
ソラの目の前、わずか三センチの至近距離に、巨大なルーペ付きの魔導スクリーンがバタンと降りてきた。
そこに照射されたのは、ソラが昨日机の上に置いていた娯楽小説『魔王城でお昼寝編』の全テキストデータ。
ピピピピピピピピピピピッッッッ!!!!
網膜に向けて、毎秒千コマの速度で文字の光線が超高速点滅照射される。
「ぎゃあああああ眩しいいいいいいッッッ!! 読めない! 一文字も読めない! 目が! 目が焼けるううううっっ!!」
ベッドの上のソラは、全身をガタガタと超音波で揺らされながら、喉にゼリーを流し込まれ、目にストロボライトを浴びせられるという、最新鋭のサイバー拷問を一身に受けていた。
部屋の隅でそれを見守るエレノアとセレスティーナは、感涙にむせび泣いていた。
「……す、素晴らしいですわ……!」
セレスティーナが両手を合わせて祈る。
「マスターの御顔が、感動のあまり激しく痙攣しておられます! 一歩も動かずして、栄養と知識を同時に摂取されるあの神々しい御姿……!」
「ええ……!」
エレノアが手帳に激しくペンを走らせる。
「全身のアクチュエータが、マスターの神域の筋肉をほぐすために限界駆動を続けています! これぞ、人智を超えた究極の安眠……!!」
「助けてえええええええええええっっっ!!!」
ソラの悲痛な絶叫は、激しいバイブレーションの重低音にかき消され、誰の耳にも届かなかった。




