第二章:自動人形の悪夢と、怠惰の茶卓防衛戦
一:機巧都市の野望と、侵入する無機物たち
北方竜騎士帝国の近衛飛竜師団が、成層圏からの一撃によって温風サウナ送りとなり、全竜が腹を出して漂流させられた怪事件から、わずか二日。
大陸西方の切り立った峡谷地帯に築かれた、蒸気と歯車が支配する技術国家『クロックワーク機巧都市連合』の最高議事堂では、巨大な真鍮製の投影機がカタカタと軋んだ音を立てていた。
「……信じられん。非論理的だ。演算結果に致命的なエラーが生じている」
円卓の中央で金属性の指を組み、歯車仕掛けの義眼をカチカチと狂ったように明滅させていたのは、機巧都市の最高技術総統――技師長ガリレオ・アイアンハートであった。
全身の六割を機械化し、感情を「非効率なバグ」として切り捨てた冷徹な機械狂い。
「成層圏を飛翔する百頭のフロスト・ワイバーンを、地上から射出された単一の熱源体が一瞬で無力化しただと?
しかも、熱量観測衛星のログを見よ! 帝都の公爵邸最上階から感知された熱源は、直径わずか一メートル四方……!
局所的でありながら、周囲十里の絶対零度の冷気を完全遮断し、大気中の熱エントロピーを強制的に一定値へと固定する未知の超エネルギー反応……!!」
ガリレオの義眼が、真紅の興奮光を放った。
「これこそが……太古の旧文明が残したとされる伝説の永久機関――【熱力学超越型・恒久熱源炉】に違いないッ!!
あのソラ・ヴァルハイトという小僧、公爵邸の最深部にその超兵器を設置し、大陸全土を熱線砲で焼き払う準備を進めているのだ!
座して待てば、我が機巧都市の歯車も熱暴走で融解するのみ!
直ちに最高機密特務部隊――【不可視の真鍮歩兵】五百体を公爵邸へ突入させよ!
小僧を排除し、あの四角い超兵器を強奪するのだッ!!」
「総統、警備のエレノアおよび聖女セレスティーナへの対策は?」
副官の機械化兵が問う。
「案ずるな! 我が【真鍮歩兵】は生体反応、熱源、魔力残滓を一切発しない完全無機質の自立思考型暗殺カラクリ!
音もなく壁をすり抜け、影より忍び寄り、寝首を掻く!
いかに神竜帝と恐れられようと、人間である以上、寝床の隙を突かれれば鉄の刃に喉を裂かれるのみよ!!」
かくして、人類の技術の結晶たる五百体の殺人カラクリが、帝都ルミナリアへ向けて音もなく放たれた。
彼らの目的はただ一つ。
四角い超兵器――すなわち、ソラが適当に毛布を被せただけの『魔導こたつ』の奪取であった。




