二:凍てつく天空、北方竜騎士帝国の強襲
グオオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!
帝都上空五千メートル。
成層圏に近い極北の冷気を切り裂いて、空を引き裂くような無数の竜鳴が響き渡った。
現れたのは、漆黒の鱗と鋼鉄の装甲を纏った、百頭を超える巨大な氷雪竜。
そして、その背に乗るのは、白銀の毛皮と重装甲に身を包み、身の丈を超える巨大な氷槍を構えた戦士たち――大陸北方の極寒地帯を支配する軍事大国『ハイ・ドラゴニア竜騎士帝国』の近衛飛竜師団だった。
先頭を飛ぶ、三つ首の巨大巨竜『ベオウルフ』の背上。
白銀の兜のバイザーを上げ、冷酷な鷲のような瞳で眼下の帝都を見下ろしていたのは、竜騎士帝国第一皇子――「氷獄の覇竜」と恐れられるヴァルキール・フォン・ドラゴニアであった。
「……ふん。見下ろす限りの軟弱な都よ。あのような肥沃な土地でぬくぬくと甘やかされた豚どもが、大陸の覇権を握ったなどと片腹痛い」
ヴァルキールは氷槍の柄をぎしりと握りしめた。
「ソラ・ヴァルハイト……十九歳の若造が、聖女を誑かし、商人を全裸で海へ放り込み、神竜帝を僭称していると聞いたが……茶番もいいところだ。南方の腑抜けた貴族どもはペテンに怯えたようだが、我が北方の竜騎兵には通用せぬ!
真の竜の力とは何か、絶対零度の吹雪をもって、あの小僧の脳天に刻み込んでくれるわッ!!」
「殿下、帝都の上空に魔導防壁が展開されつつあります!」
副官の竜騎士が手綱を引きながら報告する。
「叩き割れィッ!!」
ヴァルハイトが氷槍を天に掲げた。
「全飛竜師団、一斉に【凍滅の氷息】を放射せよ! 帝都全土を氷河の下に沈め、あの公爵邸ごと、僭称者の首を凍結させて持ち帰るのだッ!!」
百頭の巨竜が一斉に大口を開けた。
口腔の奥で、マイナス五十度の氷結魔素が青白く凝縮されていく。
直撃すれば、帝都の尖塔群は一瞬で氷柱へと変わり、何十万もの市民が凍死する必滅のブレス砲撃。
地上では、帝都の衛兵隊が半鐘を狂ったように乱打し、エレノアの敷設した迎撃砲が火を噴き始めていたが、五千メートルの超高空から降り注ぐ吹雪の津波を防ぎ切る術はなかった。
吹き荒れる極北の嵐。
帝都の気温が、急速に零下へと叩き落とされていく。
そして、その冷気は――ヴァルハイト公爵邸の最上階、ソラの寝室のガラス窓をも、パキパキと凍りつかせ始めた。




