四:全裸の誓詞と、海の覇権の崩壊
「……っ……!!」
ドナルドの顔面から、すべての血の気が引いた。
呼吸が止まり、心臓が早鐘のように狂い打つ。
(……『ギラギラして目がチカチカする』……!?
『全部脱いで海に飛び込んでろ』……!?)
ドナルドの脳裏に、戦慄のパズルが恐るべき精度で組み上がっていく。
(『ギラギラした服』……それは、我がカルテルが誇る黄金の富……資本主義の傲慢そのものの隠喩……!
『全部脱げ』……! つまり……『貴様らの持つ全資産、全利権、金貨の一枚に至るまで、その強欲の皮をすべて剥ぎ取って差し出せ』ということ……!?
そして……『海に飛び込んでろ』……!!
ひ、ひぃぃぃぃぃっ……!!
海路封鎖を目論んでいた我がカルテルの艦隊……そのすべてを、あのお方は……あのお方は、『いつでも全艦まとめて海の藻屑に沈めてやるぞ』と……!!
帝都の空を割ったあの一太刀が……今度は我がガレリアの海へ向けて振り下ろされるというのかァァァッッッ!!!!)
「あ……あ……あああああッ!!」
ドナルドは発狂したように叫び声を上げると、自らの着ていた最高級の絹の上着を、狂ったように引き裂いて脱ぎ捨てた!
「ひゃっ!? ど、閣下!?」
傭兵隊長が狼狽する中、ドナルドは指にはめていた十個の宝石の指輪を次々と引き抜き、芝生の上に投げ捨てた。
さらに金の鎖、懐中時計、ズボン、シャツに至るまで、狂乱の形相ですべて脱ぎ散らかしていく!
「脱ぎますッ! 脱ぎますともォォッ!!」
ドナルドは白豚のような見苦しい肉体を完全に晒し、派手なトランクス一丁の姿で芝生の上にスライディング土下座を敢行した!
額を地面に激しく叩きつけ、泥と涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らしながら絶叫する。
「ソラ様……! 神竜帝ソラ様ァッ!! 我がカルテルの傲慢を、愚かな強欲をお許しくださいィィッ!!
新鉱脈の利権などと滅相もない! 我がガレリア海洋カルテルの全商船、全航路、全金庫の鍵を……すべて貴方様に無条件で献上いたしますッ!!
ですから……どうか、どうか我が故郷の海を割ることだけは……カルテルの船団を沈めることだけはお見逃しをォォォッッッ!!」
「野郎ども、武器を捨てろォッ!!」
傭兵隊長もまた、自らのハルバードを投げ捨て、全員で芝生の上に土下座した。
「俺たちの負けだ! こんな神の領域の化物に敵うはずがねえ! 全員、身ぐるみを剥いでソラ様に誠意をお見せしろッ!!」
「「「お許しくださいィィィッッッ!!!!」」」
百名の屈強な傭兵たちが、泣き叫びながら次々と甲冑を脱ぎ捨て、中庭は瞬く間に「武装解除された全裸同然の男たちの群れ」で埋め尽くされた。
エレノアは手帳にペンを猛烈な勢いで走らせ、恍惚の笑みを浮かべた。
「……素晴らしいです、マスター。一歩もハンモックから降りず、あくび一つとキャベツの葉一枚で……西方の覇権国家たるガレリア海洋カルテルを完全武装解除、および全財産の無条件接収を完了されました……!」
「ええ……!」
セレスティーナも祈るように胸の前で手を組み、涙を流す。
「『海に飛び込んでろ』……! なんという慈悲深き御言葉でしょう! 愚かな商人たちに、富の虚しさを説き、海という大自然の母体へ還ることを促されたのですわ……!
さあ、カルテルの豚ども! マスターの御言葉通り、全裸で港まで走り、海へ飛び込んで罪を清めてきなさいッ!!」
「は、はいィィィッ! 飛び込みます! 港まで全力疾走して、海で泳いできますゥゥッ!!」
ドナルド率いる百名の男たちは、脱ぎ捨てた金の山を残し、パンツ一丁の姿で公爵邸の正門へ向けて一目散に逃げ出していった。
帝都の大通りを、全裸同然の大商人と傭兵たちが泣き叫びながら港へ向かって激走していくという、前代未聞の奇行パレードの始まりであった。




