↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/78

五:静寂の午後と、謎の鉱石山

数時間後。

狂乱の嵐が去り、ヴァルハイト公爵邸の寝室には、再び完全な静寂が戻っていた。

豪華な防音ガラスの窓からは、柔らかな夕暮れの光が差し込んでいる。

「……んぁ……よく寝たぁ……」

羽毛布団の塊から、ソラがだらしなく顔を出した。

あくびを一つ。涙を拭いながら、のっそりとベッドの上に起き上がる。

(……静かだ。誰もいない。やっぱり僕の部屋は最高だな)

ソラは満足げに伸びをした。

寝室スルー型なんちゃらという怪しい儀式も、どうやら自分が寝ている間に勝手に終わったらしい。誰も起こしに来なかったし、実害はゼロだった。

(さーて、夕飯の前に、冷たい林檎水でも飲もうかな……)

ソラはベッドから足を下ろした。

――だが、その足先が、床に敷かれたペルシャ絨毯に届くことはなかった。

ガサリ……ゴトンッ。

「……痛っ。何これ?」

見下ろしたソラは、その場で目を丸くした。

ベッドの足元。

そこには、大人の背丈ほどもある巨大な「黄金のバスケット」が鎮座していた。

そして、その中には――。

純金で縁取られた領地譲渡証書が数百枚。

国宝級の魔導契約書が五十通。

さらには、どこからどう見ても国家予算レベルの巨大な宝石や、伝説の古代鉱石のインゴットが、まるで道端の小石のように無造作に山積みにされていたのだ。

「……は?」

ソラは瞬きを五回した。

「な、何これ……? ゴミ箱……? いや、金ピカすぎるだろ……」

恐る恐る、一番上に乗っていた羊皮紙を一枚めくってみる。

【聖皇国・白聖金鉱山永久採掘権譲渡証書】

『至高なる神竜帝ソラ様の御寝所維持費として、謹んで本鉱山の全収益を永遠に捧納いたします』

(……へ?)

もう一枚めくってみる。

【帝国北方軍団・全軍指揮権無条件委譲書】

『ソラ様の微睡みを乱す外敵を殲滅するため、北方三十万の将兵は貴方様の枕元の駒となります』

「い、意味が分からない……!!」

ソラは頭を抱え、ベッドの上に逆戻りしてシーツを引っ張り上げた。

(なんで!? 僕、寝てただけだよ!?

パジャマ着て、布団被って、一歩も動かずにヨダレ垂らして寝てただけなんだけど!?

なんで起きたら鉱山と三十万の軍隊が生えてきてるの!? 怖い! この部屋めちゃくちゃ怖いんだけど!!)

恐怖に震えながら布団に潜り込もうとしたその時、廊下の向こうから、エレノアとセレスティーナの弾んだ声が聞こえてきた。

「マスター! 国境の玄武岩盤、先ほど我が軍の魔導工兵隊が一撃で発破いたしました!」

「地下から神代のマナ結晶鉱脈が噴出しておりますわ! マスターの寝言通りの大油田……否、大鉱山です!」

「寝言のおかげぇぇぇぇぇッッ!?」

ソラの魂の叫びは、またしても誰の耳にも届かない。

何もしないどころか、寝ているだけで世界を豊かにし、権力を手中に収めてしまう怠惰の怪物は、今夜もまた、深すぎる絶望の中で二度寝を試みるしかなかったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。