四:大発掘と、神の盤面
「……っ!!」
エレノアの眼鏡が、パキリと音を立てて白銀に光った。
その青い瞳の奥で、知性の銀河が超新星爆発を起こす。
(……『底の硬いやつを全部掘り出せ』……!?)
エレノアの手帳を持つ指が、狂気的な速度で震え始めた。
彼女の脳内で、ソラの放った「鍋の焦げ付きへの八つ当たり」が、大陸全土を揺るがす軍事・経済・魔導の超巨大グランドデザインへと猛烈に変換されていく。
(そうか……! そういうことだったのですね、マスター……!!
『底の硬いやつ』……!
それは、帝国と聖皇国の国境地帯――数千年間、誰も採掘できなかった不毛の玄武岩地帯『黒鉄の断層』の地下深くに眠る、神代文明の遺産……【超高密度マナ結晶鉱脈】のこと……!!)
エレノアはガタガタと歯を鳴らしながら、列の最後にいたカルル宰相と教皇を振り返った。
その眼差しは、勝利を確信した狂信者の光を放っていた。
「お聞きになりましたね、両国の首脳陣!」
「え……? な、何をだ……?」
カルル宰相が狼狽する。
「マスターは仰いました! 『底の硬いやつを掘り出せ、邪魔だ』と!
国境の不毛地帯を覆う玄武岩盤を爆砕し、地下に眠る古代鉱脈を白日の下に晒せという神託です!
これまで硬度が高すぎて採掘不能と諦められていたあの岩盤こそが、両国の経済流通を阻む『邪魔な底』……!
あそこを掘り抜けば、帝国と聖皇国を最短で結ぶ【大陸大運河】の開通が可能となり、さらに無限のマナ結晶によって両国の全エネルギー問題が一瞬で解決するのです……!!」
「な……なんという……!!」
教皇が膝から崩れ落ち、頭を抱えた。
「あそこは……我が教皇庁の古文書において『神の眠る禁忌の地』として封印されていた場所……!
ソラ様は……眠りながらにして、千年前の古文書の封印の真意すら見抜き、真の繁栄への道を指し示されたというのか……ッ!?」
「それだけではありませんわッ!!」
セレスティーナが恍惚の笑みを浮かべ、両手を天に掲げた。
「『邪魔なんだよ』……! あの冷徹なる御言葉!
未開発の資源を放置したまま、目先のちっぽけな領土争いに現を抜かしていた我々愚民に対する、至高の神の叱責です!
今すぐ両国の全土木魔導連隊を国境へ集結させなさい! マスターが次に寝返りを打たれるまでに、あの硬い岩盤を更地にしてマナ結晶を掘り出すのですッッ!!」
「うおおおおおおおおっ!!」
列に並んでいた将軍たちが、一斉に咆哮を上げた。
「工兵連隊を動員しろッ!!」
「全魔導削岩機を国境へ回せッ!!」
「ソラ様の御不快を取り除くのだァッッ!!」
千人の貴族と軍人たちが、押し合いへし合いしながら、我先にと部屋を飛び出していった。
国境の大岩盤を粉砕し、ソラに最高のポトフ……否、最高のマナ結晶を献上するための、国家規模の大土木工事がここに決定した瞬間であった。




