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R E D - D I S K 0 3  作者: awa
CHAPTER 26 * BREAK HEART
139/139

* Epilogue 2/2 Resolve

 アシス・タスクという町にあるマンションのディックの部屋は、PCや機材が置いてある仕事部屋を除けば、おもしろいくらいに質素だった。ただ、ところどころにケイトの趣味だなと思う柄モノがあった。たとえば色違いのマグカップだとか、ロアー・キットの小物入れだとか。

 けっきょく引っ越したこの部屋のことも教えている。彼も嘘をつきっぱなしで、どうしようかとさすがに悩んでいるらしい。引っ越しは予告なく突然済ませての事後報告だったものの、彼女は少し驚いただけで、怒ったりはしなかったのだとか。

 それはさておき、シャワーを借りたあと。ベッドとベンチしかないゲストルームのダブルベッドの上に座り、新しい携帯電話から、ケイに電話をかけた。もう真夜中だ。

 呼び出し音がやっと終わったと思ったら、かなり眠そうな声が返ってきた。「──はい?」

 「ケイ? 私。ベラ」

 「──ベラ? なに、どした」

 「ちゃんと起きて。ちゃんと聞いて」

 彼は渋りながらも、なんだかんだ言いながらも、あくびをしながらも、どうにか頭を起こしてくれた。

 もう平気だと言うので、私は深呼吸してから、彼に切りだした。

 「おととい、金曜。おばあちゃんが死んだ」

 「は?」

 「信じられないだろうけど、ほんとなのよ。葬儀も終わった。昨日、密葬でね」

 「──え、マジで?」

 「うん、だから、マジだって。それで私、ウェスト・キャッスルから引っ越す──っていうか、引っ越したから。新しく部屋借りたの、センター街に」

 「は? マジで?」

 「だから、マジだって。何度も言わせんな。今日はベッド用意できなかったから、友達のところに泊まってる。部屋はそのうち教えるけど、とりあえず、少し待って。落ち着くまで待って。まだぐちゃぐちゃだし、生活できる状態じゃないから」

 沈黙。

 「──いきなり?」

 「うん、いきなりだった」なにも、気づかなかった。「あんま言わないで。自分責めちゃうから。──悪いけど、シモーナたちにも、言っといてね。お墓の場所は、まだわからない。そのうち連絡があると思うけど──私は、だいじょうぶだから。忙しくて、感傷に浸る暇もないの。落ち着いたら、また連絡する」

 「──わかった。これ、新しい番号?」

 「うん。でもメールアドレスはちょっと待ってね。そのうち」

 「──ん。わかった」

 第一任務、終了。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 次にアニタに電話をかけた。ケイに対するのとは違い、こちらは非通知設定だ。

 彼女もやはり寝ぼけていたものの、私だとわかったとたん、怒った。昨日の夜、電話したのに通じなかったと。

 「おばあちゃんが死んだ」私はアニタに言った。「金曜の夕方。呼ばれて病院に行った時には、もう死んでた」

 「──うそ」

 「こんなタチの悪い嘘、さすがに言わないよ、私でも」

 つい出ただけの言葉だとわかっているのに、私はいったい、どこまで性格が悪いのだろう。

 「ああ──」

 アニタは状況を理解しようとしている。それと同時に、言葉を探している。

 私は無視した。「それで私、引っ越したから。新しい部屋借りた。ウェスト・キャッスルには、もう帰らない」

 「──え」

 「“母親”に言ったの。ひとり暮らしさせてくれって。あっさり了承された。すぐに部屋決められて、今日入居できた。まだ家具が揃ってないから、今日は友達のところに泊まる。たぶん明日からは新しい部屋で生活できると思うけど」

 「──どこ?」

 クッションをはさんでベッドヘッドにもたれ、私はゆっくりと、深呼吸をした。

 「──ごめん。言わない。もしかしたらそのうち言うかもしれないけど、しばらくは言わない」

 「──なんで?」

 泣きそうになったのを、強く目を閉じて、必至にこらえた。

 「あんたのこと、ほんとに大切。誰よりも大切。姉妹みたいに思ってる。今も昔も、それはずっと変わらない。感謝してるし、失くしたくない」

 震える声を一旦切り、私はもう一度、深呼吸をした。

 「──でも、もう、やめる」

 少し、沈黙があった。

 「──やめるって、なにを?」アニタの声も、震えている。

 泣きそうになっているのを知られないようにと、私はどうにか息を継いだ。

 「──私のそばにいたら、いつまた傷つけるかわかんない。言ってなかったけど、この二ヶ月のあいだに、私は二人──もしかしたらそれ以上、大事な友達、傷つけて、失くした。もう、イヤなの。大事なものが壊れてくのも、大切なひとが離れてくのも、もう、見たくないの。これ以上つらい思い、したくないの」

 ──これは、“逃げ”になる?

 「だからもう、やめる。必要以上に誰かと仲良くするの──もう、やめる」

 アニタは、泣いていた。「なんで──なんでそういうこと言うの? 去年の──あのこと、やっぱり怒ってんの? あたしが──」

 “あたし、いつまで、あんたの「影」でいればいいの?”

 「そうじゃない!」私は泣きながら否定した。「ほんとに、傷つけたくない。私、知らないあいだに誰かのこと、いっぱい傷つけてる。おばあちゃんのことだって、病気だったなんて、ちっとも気づかなかった。今思えば調子悪そうだったとか、そんなのだって、あったのに──私がこうやって、無関心で、鈍感で、自分ばっかり傷ついたような顔して、自己中貫きとおしてきたから──おばあちゃんに、無理させてた。仕事に行ったんだと思ってたのが、病院に行ってたなんて、知らなかった。もう誰にも、近づいてほしくないの。“大切なひと”になってほしくないの」

 ──あとから、知らず知らずのうちに傷つけていたことを知るよりも、今、傷つけて遠ざけたほうが、いい。

 私は、鼻をすすって続けた。

 「高校行ったら、当然会うだろうし、話もするかもしれない。完全にトモダチやめるって言ってるんじゃない。でも、“いちばん仲のいい友達”としては、もう、いてほしくない。この先もずっと、そんなのつくらない。適当にうわべ取り繕って、浅い人付き合いしかしない」

 ──そんな考えは、卑怯かな。

 「学校が終わったらバイトに直行する。ひとりでやってく。高校出たら自分で部屋借りて、あのヒトとも縁、切る。それでぜんぶ、終わりにする」

 ──もう、疲れた。

 「──ごめん」

 アニタはずっと、泣いていた。

 「──やだ──」

 私もずっと、泣いている。

 「ごめん──」

 「ベラ──」

 電話を、切った。


 ──私はもう、誰のことも愛したりしない。

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