最終話
人払いを済ませると、隣からぼそりと苦情が聞こえた。
「……詐欺だと思いますわ」
その拗ねた口調に、肩を竦めて応える。
「ヒドイな。正真正銘、一世一代の大芝居だったのに」
そうしれっと返すと、愛しい女は食って掛かって来た。
「ええ、大した芝居でしたわ! 私の女官達とグルだったなんて!!」
死んだと思いましたのに目が覚めて、そのまま永眠しそうな程驚かせて頂きましたわ!
幼子のように剥れる彼女に、思わず笑みがこぼれてしまう。
そしてその耳元で想いを囁けば、剥れていた彼女は虚を突かれて瞬いた。次いで、ようやく頬を染めた彼女を腕の中に閉じ込めて、私は幸せを噛み締める。
――愛しているよ、昔から。ずっと、ね。
第三代皇帝とその最愛の后妃は、その後の長きに渡る黄金期の礎を築いたことで名高い。
彼らは貴族や官吏の反乱の芽を摘み、貧民救済に関して多大な功績を遺した。
しかし、その割に彼の后妃の出自に関する史料は少ない。わかっているのは、宰相に引き取られた養女だということのみ。
その宰相は第三代皇帝の即位後に取り立てられたため、彼女に対する史料はますます少なく、詳細は不明だ。
だが、彼らが有名なのは、彼らの一人娘が歴史に類を見ない女帝だったからでもある。
しかしそれはまた別の物語なので――ここでは、優れた政治手腕を遺憾無く発揮した、とだけ紹介しておく。
そうして彼らの娘の時代から、この国は、何代にも渡る長い長い黄金期を迎える。
彼らより後の世の学者達は、口を揃えてこう語る。
「第三代皇帝並びにその后妃が、もしも愚かであったなら、この国の歴史は今と全く異なるものとなっていたに違いない」
故に、第三代皇帝とその后妃は『国祖』と呼ばれ、今も人々に敬愛され続けている。
[完]
以上をもってこのお話は完結となります。
最後まで読んでくださった皆様方へ心より御礼申し上げます。
そのうち彼らの一人娘の話や、別の物語を投稿するかもしれません。その時はまたよろしくお願いいたします。
3013.8.8 音月佳乃