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第8話 街のヒーロー、参上

 翌日。

 ギルドの扉を開けると、朝から多くの冒険者たちで賑わっていた。


「おはよう、ニーナ。それに……宗一さん、でいいのかな」

 受付のエレナが、カウンター越しに微笑みかけてきた。

「おはようエレナさん。昨日の報酬のおかげで、ちゃんとしたベッドで寝られたわ」

「それはよかった」エレナは頷き、少し声を潜めた。「昨日あなたたちが持ち込んだアーマードホッグの件なんだけどね。実は、最近街の近くで比較的高ランクの魔獣目撃例がいくつか報告されてるのよ」

「えっ、そうなんだ……」

「ええ。少し気をつけてね。……まあ、それはさておき」


 エレナはパッと表情を明るくして、一枚の新しいギルドカードを差し出した。

「昨日のDランク魔獣討伐で、ニーナ、Eランクに昇格よ!」

「えっ……ほんと!? やったぁ!」

 ニーナはカードを受け取ると、跳び上がるように喜んだ。Fランクの底辺から抜け出せたのだ。これで受けられるクエストの幅が劇的に広がる。

「私、さっそくEランクのクエスト見てくる!」

 言うが早いか、ニーナは人が群がっているクエストボードに向かって小走りで駆けていった。


 それを見送りながら、カウンターに残った宗一があくび交じりに呟く。

「わざわざ、あんな混雑している時に見に行かなくてもいいものを」

「そうもいかないんですよ」と、エレナが苦笑交じりに答えた。「クエストの受注は早い者勝ちですから。良い条件のものからどんどんなくなっていくので、あまりのんびりもしていられないんです」

「なるほどねえ」

 宗一が一人納得して頷いていた、その時だった。


「おいおい、誰かと思えば昨日追い出した足手まといじゃないか」

 クエストボードの前で、ニーナに嫌味な声が投げかけられた。

 宗一が視線を向けると、立派な鎧を着た男と魔法使いの女――昨日ニーナを実力不足だと言ってクビにした「鉄の牙」のゼクスとルルが、ニーナを見下ろしてせせら笑っていた。

「聞いてたぜ?バカみたいに大きい声ではしゃいでたな。お前みたいなトロいヤツが、Eランクだ?」

 ルルが言った

「アンタがアタシと同じEランクとか、冗談じゃないわよ!」

 ニーナは下唇を噛んで黙っていた。


 宗一は軽くため息をつき、カウンターからニーナの元へ寄ろうとゆっくり歩き出した。

 しかし、宗一が到着するより早く、ギルドの入り口から大股で歩み寄ってきた影があった。


「待て! いたいけな少女を寄ってたかって囲むとは何事だ!」

 よく通る、芝居がかった声。

 豪奢な剣を腰に差した男――Aランク冒険者であり街のヒーロー、「黄金の獅子団」のアルカードだった。

「この黄金の獅子団アルカードの眼の前で、レディに対する無礼は許さん!」

 大真面目な顔で、堂々たる演説が始まる。


「ゲッ……アルカード」

 ゼクスの顔が引き攣った。圧倒的な実力者である彼に凄まれれば、Dランクのゼクスたちなどひとたまりもない。

「チッ……ぐぬぬ、今日はこのくらいにしておく! 覚えてやがれ!」

 ゼクスは絵に描いたような捨て台詞を吐き、足早にギルドから退散していった。


「怪我はないか」

 アルカードがマントを翻してニーナに微笑みかける。

 そこへ、ようやく人混みを抜けた宗一が「いやあ、災難だったな」と呑気に歩いてきた。


 アルカードの鋭い視線が、今度は宗一を捉えた。

「君は彼女の仲間か!」

「まあ、そんなところだが」

「レディがピンチだというのに、今頃のんびりお出ましとは何事だ! もっと早く身を挺して彼女を守るのが仲間というものではないのか!」

 突然自分に飛び火してきた正義感たっぷりの説教に、宗一は面食らった。

「お、おう」

 アルカードはニーナに向き直った。

「キミ、名前は?」

「ニ、ニーナ……です」

「ニーナ、困ったことがあったらいつでも私に言いなさい。我々黄金の獅子団は、君のような若者をいつでも歓迎する!」

 ニーナも気圧されている。

「は、はあ」

「ミラ、バッシュ、行こうか」アルカードが振り返るが、誰もいない。

「そうだ!今日はギルド長に用があって、一人できたのだった!」

 そう言うと、アルカードは高らかに笑いながら去っていった。

 ニーナが長い息を吐く。

「なんなの、あの人……」

「まあ……依頼探すか」

 宗一は呑気に言った。

 ギルドの喧騒が戻ってくる。 何事もなかったように、冒険者たちがそれぞれの依頼に向き直っていく。

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