表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

第7話 宗さん、誕生

 食事が落ち着いた頃、ニーナはテーブルに銀貨を並べ始めた。

 二十枚。光を受けて、きれいに光った。


「報酬の話なんだけど」ニーナは指先で銀貨を整えながら言った。「私のサポートも大きかったし、山分けでいいわよね?」

「いや」

「……いや?ちょっと待って、確かにアーマードホッグを切ったのもあなただし、第三区画から遺物を持ち帰ったのもあなただけど、私だって役には立ったはずだし――」

 宗一はニーナの言葉を遮った。

「今日、美味い飯を食えた。これから寝る場所もある。私はそれで十分。残りは全部ニーナのものだ」


 ニーナは銀貨から顔を上げた。

「全部?」

「全部」

「なんで」

「私には必要ない」


 ニーナは考えた。

 欲がない。本当に、欲がない。しかも強い。記憶喪失のせいか、世間のこともあまり知らない。つまり騙しやすい。

 頭の中で、数字が動き始めた。

 借金の残高。毎月の返済額。ソロでは届かなかった額。この男を使えば。この規格外の何かを、うまく運用すれば。……利用しない手は、ない。

 計算が合った。


 ニーナはテーブルに身を乗り出した。

「私に任せなさい!」

「何を?」


 ニーナは宗一の目を真っ直ぐ見た。「宗一……いや」

 一拍、置いた。

「宗さん!あなたが食事や宿に困らないよう、私が面倒をみてあげるわ!」

 宗一はその瞬間だけ、京都の街が頭をよぎった。

 宗さん、という呼び方を、もう一人知っていた。雨の夜、血の匂いの中で、泥を跳ねさせながら駆けてきた男。まだ二十歳で、真剣な顔で、宗さん、と呼んだ。


 ただ。

 目の前のニーナの顔に、下心がありありと出ていた。計算が透けていた。今にも揉み手をしそうな勢いだ。それがおかしくて、宗一の中の重いものが、少しだけ散った。


「それは頼もしい」

「任せなさい」ニーナは銀貨を鞄にしまいながら言った。「私の言う通りにしてれば、借金なんてすぐ返せるから」

「借金?私は借金なんてしてないぞ」

「私の借金よ」

「……なるほど」

 宗一は特に反論しなかった。


 ―――


 二人は店をでて、宿へ向かった。

 夜も更けてきたせいか、人通りがだいぶ少なくなっていたが、それでもちらほらと灯は見える。


「ところでさ」

 ニーナが切り出した。

「宗さんのそれ、腰に差してるやつ。アーマードホッグを斬ったってことは、剣なのよね?」

「ああ、これか」


 宗一は周りに人がいないことを確認し、刀を抜いた。

 反りがある。片刃。細い。ニーナが知っている剣とは形が違いすぎる。一切の無駄がない静謐さと冷たいほどの殺意が凝集され、それ故に美しい。ニーナは見た瞬間に目が離せなくなった。


「これは刀だ。剣と言えなくもないが……まあ、刀だ」

 そう言いながら、宗一は刀を鞘に納めた。


「アーマードホッグが突っ込んでくるのに、宗さん、全然動かないじゃない。危ない、って思ったら次の瞬間にはドサって倒れてて。私、何が起きたか全然わからなかった」


「あれは居合だよ。刀を抜いて、斬る。刃についた血を払って、刀を納める。それだけだ」

「全然見えなかったよ。少し右手が動いたかなって思ったら、ドサっ、だもん」

「ははは、あの豚、豚にしてはずいぶん大きかったから少し身構えてしまったんだ。そのせいで右手にブレが生じたな。失態でござる」


 宿までの道を、二人は少しゆっくり歩いた。

 夜風が通りを抜けた。宗一が空を見上げた。星が多かった。京の夜より、ずっと多い。


「ところで宗さん」

「なんだ?」

「その刀、売ったらいくらになるかな」

「売らんぞ」

 宿の灯が見えてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ