第68話 帰り道
腹に当てた布が、どす黒く滲んでいた。
宗一は布を押さえたまま、少し考えた。止血は続けなければならない。だがこのままここにいても、何も変わらない。
立ち上がり、ファリダの体を引き起こして背負った。
城の外に出ると、空が白み始めていた。
東へ向かった。
国境の兵舎が見えてきた頃、空はもう十分に明るくなっていた。
扉が開いたままだった。中に入ると、棚が倒れ、椅子が横になっていた。魔族の襲撃にあったのだろう。宗一はファリダを静かに床に寝かせ、物資を探した。
奥の棚に木箱がいくつか積んであった。蓋を開けると、手付かずの包帯と回復薬の小瓶が出てきた。
宗一は膝をついて、古い包帯を外した。傷を確かめる。深い。だが致命傷ではなかった。
回復薬を傷口に当て、新しい包帯を巻く。指先だけが、黙々と動いた。
兵舎を出たのは、日が高くなってからだった。
ファリダを背負い直して歩き始める。街道に人影はない。風が草を揺らしていた。
宗一はただ、東へ歩いた。
王都まであと半刻というところで、ファリダが小さく動いた。
「……う」
宗一は歩みを止めなかった。
「起きたか」
「瀬能宗一……ここ、どこ」
「王都の手前だ」
しばらく沈黙が続いた。風が草を渡っていく音がした。それからファリダが、何かを確かめるようにゆっくり口を開いた。
「あれ……夢じゃなかったのね。魔王が、あの男に斬られたの」
「ああ」
少し間があった。
「あれは驚いたな」
ファリダは何も言わなかった。宗一も黙って歩いた。
「王都が見えてきたぞ」
返事がなかった。背中から静かな寝息が聞こえた。
「……寝てるのか」
雪駄がペタ、と鳴った。




