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第67話 決着

 ナハティアが放った細く鋭い水のビームが、ファリダを貫いた。

 ファリダは倒れた。


「ファル!」

 宗一は伊織との会話を止めてファリダにかけよった。


 まだ息はあるが、出血がひどい。宗一は羽織の裾を裂き、止血をした。

「貴様ーー」

「ナハティアアアアア!」

 これまで聞いたこともない伊織の怒声が、宗一の言葉を遮った。


 次の瞬間、伊織はナハティアを両断していた。切断された半身を踏み躙り、叫んだ。

「私がなぜ今までお前に仕えてきたと思う! 今日の、この日のためだ! 私がなぜ生きてきたと思う! この瞬間のためだ! 力を付け、宗さんと対峙する、この瞬間のために! なのにお前は、なぜ水を差す!!」


 応急処置を終えた宗一が立ち上がり、ファリダから離れた。

「伊織よ」

 宗一は伊織の足元を示して言った。

「もう消えている。それより、お前とゆっくり語り合っている場合ではなくなった」

 ファリダの腹に巻いた布は、すでに真っ赤になっている。


「そうですね」

 伊織はフッと笑い、刀を抜いて構えた。


 お互い間合いを読む。伊織の示現流独特の構え。左足が数センチ前に出た。その瞬間、二人同時に動いた。

 伊織が刀を振り下ろす。

 宗一の切先が一瞬早く伊織に届く。はずだった。

 しかし宗一が刀を抜いた時には、すでに伊織の刃がすぐそこに迫っていた。宗一は咄嗟に受けた。伊織の太刀筋の強さに、宗一はよろけて二、三歩後ずさった。

「なるほど、『薩摩の初太刀は必ず外せ』とはよく言ったものだ」


 戦える。互角どころか、それ以上に。伊織は自分の力を実感し、笑みが漏れる。

「受けた後そんなによろけては、毎回初太刀になってしまいますよ」

 伊織は再び踏み込む。今度は少し角度を付けた太刀筋。これも宗一がギリギリで受け、また二、三歩後ずさる。

 これでは伊織の言う通り、毎度初撃を受ける形になってしまう。


 さらに伊織が踏み込む。宗一は初撃を躱し、伊織が振り切ったところに合わせた。しかし伊織は刃を返し、初撃の勢いを殺すことなく横に薙ぎ払った。

 宗一はこれを大きく後ろに跳んでなんとか躱した。


 何かがおかしい。伊織の太刀筋はしっかり見えている。それでもなぜか自分の剣が間に合わない。

 宗一は目を閉じた。ほんの数秒。鼻から大きく息を吸う。様々な匂いを感じる。

 血の匂い。焦げたような匂い。香の匂い。埃の匂い。


「なるほど」

 目を開いた。

「色即是空、空即是色だ。つまりは」

 宗一は刀を鞘に納めた。


 伊織は改めて刀を握り直す。示現流独特の蜻蛉の構えをとり、ジリジリと宗一に迫る。

 刀を納めた宗一は、脚を前後に開き、半身になって腰を落とす。あの頃と寸分も違わない構え。

 二人とも予感があった。次の一合が最後になるだろう。


 伊織が打ち込んだ。


 ――シュピン


 伊織の刀が力なく振りおろされ、一歩、二歩。そして倒れた。


「な……ぜ……」

 倒れた伊織に宗一が歩み寄った。


「伊織よ、違うんだ」

 伊織の口がワナワナと動いたが、言葉は発せられなかった。

「力、技、状況判断、全てにおいてお前が上なんだよ、伊織。昔からそうだ」


 消え入るような声で、伊織は言った。

「だったらなぜ……私は勝てない……」

「魔王に何かされたのか、力も技も格段に上がったな」

 宗一は少し間を置いた。

「だが伊織、強さってのはそうじゃないんだよ」


「お前の強さの本質は恐怖だ。相手は頭ではなく、体でお前を恐怖する」

 宗一は静かに首を振った。

「でもな、世の中にはその『無意識の恐怖』さえ克服する者がいる」


 伊織は弱々しく笑った。

「敵わないなぁ」

 伊織の火が消えかけている。それは伊織本人はもちろん、宗一にもわかった。


「伊織よ、腹を切れ」

 宗一は伊織の体を起こし、自分の脇差を握らせた。

「それが私からのせめてもの手向けだ。私が介錯してやる」

 伊織は、穏やかに微笑んだ。


「よろしくお願いします」

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